※会計の特別な独白

 

 

 

 

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※城嶋学園高等部 生徒会会計

野伏間 太一の特別な独白

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(野伏間君が居ないと、さみしいよ)

 

 

 

頭の中に響く言葉。

見知らぬ少年。

そんな見知らぬ彼に重なる会長の姿。

 

 

そして。

 

 

「っ!」

 

 

熱い体、漏れる息。

視界に映るのは見慣れぬ天井。

 

俺は突如として駆け廻る周りの情報に、一瞬頭の中が混乱するのを感じた。

 

 

「……こ、こは……」

 

 

混乱する頭を必死に回しながら、俺は体の上に掛けられた毛布ごと体を起こす。

すると、体を起こした瞬間、俺の鼻孔を霞めた匂いに俺は更に何が何だかわからなくなってしまった。

 

 

「この、毛布……会長の」

 

 

そう、俺の体の上に掛けられた毛布からは会長の匂いがしたのだ。

よく見ると、此処はこの部屋は生徒会室の脇に設けてある仮眠室で。

 

俺は徐々に、どうして今自分がここに居るのか記憶が鮮明に湧きあがって来るのを感じた。

 

俺は、会長に酷い事を言って。

会長を傷つけて。

でも、会長は……

 

 

 

「カイチョー……!」

 

 

そうだ、会長は一体どこへ行ったのだろう。

熱のせいか、俺はみるみるうちに湧きあがって来る孤独と不安に気持ちを覆い尽くされていった。

 

会長、会長、会長。

俺はそんな急く様な気分でふらつく体を支えると、ベッドから降りようと下半身をベッドから下ろした

 

その時。

 

 

「えっしょ……えっしょ……あ!」

 

「っか、かいちょう……?」

 

 

仮眠室の引き戸がいきなり開けられたかと思うと、そこには部屋に設置されていたヒーターを抱えている会長の姿が合った。

驚きの余り互いに無言で見つめ合う事、約1秒。

 

しかし、次の瞬間、会長は必死に抱えていたヒーターを下ろすと、飛び込んでくるように俺の元まで駆けよってきた。

 

 

「野伏間君!ダメだよ!寝てないと!」

 

「っわぁぁ!?」

 

 

俺はそのまま勢いよく会長に押し倒されると、会長はベットの上に乗っかったままモゾモゾと布団の中に手を這わせ始めた。

何かを探すような、しかしどこか遠慮のない手に俺は瞬間的に体が緊張するのを止めれなかった。

 

 

「ほら、足ちゃんと布団に入れて!風邪をひいたら体を冷やしちゃいけないんだ。そんで……あった」

 

「っへ、なっ!」

 

 

俺は突然会長が布団の中から取り出してきた、布につつまれた丸い物に目を奪われた。

そんな物が布団の中にあったなんて気付きもしなかった。

というか、アレは一体何なんだ。

 

 

「っしょ!失礼しました」

 

「……あ、えっと」

 

 

俺は会長が俺の上から飛び降りるのを見ながら、いつのもように表情の明るい会長に、どこか胸が締め付けられる思いだった。

気を失う前、俺は会長に酷い事を言った。

謝りたいと思って、ずっとそう思っていたけど、結局謝れたのは夢の中だけ。

 

明るい会長の表情を見ながらでも思い出される、あの泣きそうな会長の表情。

 

俺はまたしっかり布団にくるまれた体制で、鼻唄交りに布からプラスチック状の容器を取り出す会長に、恐る恐る声をかけてみた。

 

 

「かいちょー……それ、何?」

 

「これ?これは湯たんぽだよ。さすがにお金持ちは湯たんぽなんて使わないか。まぁ、これは俺の冬のお伴だね!」

 

「湯たんぽって……?」

 

 

初めて聞く言葉と、何やら用途のわからない物に俺は意図的に意識を集中させた。

 

でないと、会長の何でもないような笑顔に胸が潰されそうだったから。

 

 

「湯たんぽって言うのはね、この容器の中にお湯を入れることによって、夜も布団の中を暖かく保ってくれる最強の暖房器具だよ!お湯がぬるくなってるから、また後であったかいお湯入れてくるから!」

 

「……うん」

 

「ちょっと待ってて。この部屋寒いだろうから、ヒーターで暖めよう。ちゃんと給油もバッチリだし、乾燥しないように加湿モードで部屋をあっためるから!」

 

 

そう言って俺に背を向けながら、せかせかとヒーターの準備をする会長。

そんな会長の後ろ姿を、俺はジッと見つめていた。

 

あぁ、会長、会長。

 

夢で言ってくれた言葉、あれは本当かな。

俺の願望が作りだした言葉だったのかな。

 

 

 

「……かいちょう」

 

「後で、カップうどんも作るし、冷えたコーヒー牛乳も持ってくるね。それに、氷枕も新しいのに取り替えて、そんで、そんでさ……」

 

「かいちょう、こっち向いて」

 

 

俺に背を向けたまま、ヒーターのコンセントを探し、そして

スイッチを付ける会長。

なのに、俺の方を振り向いてくれない会長に、俺はもう一度声をかけた。

 

 

「西山、こっち……おいで」

 

 

その瞬間、会長の体がビクリと揺れたかと思うと、そろそろと会長が俺の方を振り返ってきた。

その顔は、俺と同じように、不安に押しつぶされたような顔で。

 

 

「うぁ……野、伏間ぐん……!ごめん!ごめんなさいぃ」

 

「っう、あ」

 

 

次の瞬間、俺は勢いよく俺に抱きついて来た会長に息の詰まる思いだった。

 

ごめん、ごめんと泣きながら俺の体にすがりつくように謝ってくる会長。

布団の中から手を出して、会長の背中に回した俺の腕は、軽々と会長の背中を包みこんだ。

 

やっぱり、大きいと思っていた背中は、こんなにも小さく頼りなかった。

 

背中をついて行くばかりで気付かなかった、この背中の寄るべなさ。

頼るばかりで、全てを会長に任せ切っていた、あの頃の愚かな自分。

 

そんな会長に、俺が謝られている。

本当は謝らないといけないのは俺の方なのに。

感謝しないといけないのは俺の方なのに。

 

なのに。

 

 

 

「野伏間くん……良かった。起ぎてくれて……ほんとに良かった……!さみしかった、俺一人じゃ何もできなかったよ……。よがった、ほんとに、さみじかっだ……!」

 

「かいちょう……ほら……大丈夫だよ」

 

 

なのに、何でこんなにも胸が満たされるのだろう。

俺が謝らないといけない筈なのに。

俺が会長に酷い事ばかり言って、傷つけた筈なのに。

 

なのに。

どうして彼は、こんなにも俺を満たしてくれるのだろう。

 

 

「会長……大丈夫、大丈夫だから」

 

「野伏間君、野伏間君……野伏間君」

 

 

 

 

 

 

必死にしがみついて俺を呼ぶ会長に、俺はただひたすら背中を撫でてあやした。

抱きつきながら、会長はポツポツと話してくれた。

 

 

屋外ステージが設置できるようになった事。

佐藤先生や朝田静が助けてくれた事。

秋田が風紀から人手を貸してくれる事。

メイド服も、なんとか作れそうな事。

 

 

生徒会が、全員戻って来た事。

 

 

 

 

俺が寝ている間に、会長はいろんな事をしていた。

何もできないなんて言いながら、会長は多くの人を動かしていたのだ。

 

必死に他人の助けを借りながら、必死に駆けまわりながら。

 

 

会長は……本当に、本当に

 

 

「凄いな……」

 

 

鼻をすすりながら見上げてくる会長に、俺は小さく笑った。

その瞬間、会長の目が大きく見開かれる。

 

 

「……野伏間君」

 

 

グズグズ泣きながら会長の起こした、魔法みたいな奇跡の数々。

つまらない、つまらないとヘソを曲げてうずくまっていた俺を引っ張り上げてくれたあの日も、俺にとっては奇跡みたいなものだ。

 

会長は、いつも奇跡を起こしてくれる。

だから、俺はいつも会長の隣を望んだんだ。

 

そう。

これは、俺の決めた、俺の望んだ事で。

 

 

 

「野伏間君!」

 

俺の歩んできた道なのだと。

 

 

 

「やっぱり、俺の幸せはここにあった……!」

 

 

そう、泣き笑いの奇妙な表情で声を上げる彼が。

 

 

俺にとってはどうしようもなく“特別”だった。

 

 

 

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