第43話:文化祭まで、あと

 

 

 

 

 

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第43話:文化祭まで、あと

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俺は、はりきっていた。

 

 

 

「えっしょ……えっしょ」

 

「おい!西山!それはソッチじゃねぇ!」

 

「あー?柳場先生、なにー?」

 

「うおあっ!?」

 

 

そう、とてもはりきっていた。

 

 

「バカが!?鉄筋担いだまま振り返ってんじゃねぇ!?後ろ確認しろって何回言ったらわかんだ!あぶねぇだろうが!?西山!」

 

「あぁぁぁ!そうだった!……ごっ、ごめん?秋田壮介」

 

「……貴様、俺を殺す気か!?」

 

「うおうあ!?ごめんなさい!ごめんなさい!」

 

 

 

 

 

しかし、俺は、まぁ。

見事に、空回っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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屋外ステージの設置工事が始まった。

 

 

 

 

労働者は、風紀委員会と生徒会執行部そして立候補の1年軍団。

ステージの監修は、佐藤先生、柳場先生。

 

 

『監修をしてくれる先生については、私に任せてください』

 

 

そう言って笑顔で話を請け負ってくれた佐藤先生が監修役として頼んだのは、他でもない生徒会顧問の柳場先生だった。

 

 

そう、あれはいつだったか。

 

忘れもしない。

野伏間君と、無事仲直りできた次の日。

俺が必死に被服室で悠木先輩にミシンのセッティングの仕方を習っていると、突然被服室に現れた柳場先生にぶん殴られた。

 

 

『お前何佐藤にチクってんだよ!?クソが!お陰で俺がステージ設置の担当になっちまったじゃねぇか!死ね!』

 

 

他にも先生からは死ぬほど愚痴を言われた。

まぁ、リアルに40分くらいの説教と愚痴の嵐を受けたので、聞き終わった時には、俺はもう虚空を見つめる人みたいになっていた。

 

そしたら、ボーッとしてんじゃねぇと言ってまた殴られた。

 

痛かった。

 

 

でも、最終的にはステージの設計図と、どんなスケジュールで制作していくかの計画表まで作ってくれていたので、なんだかちょっと気持ちがほっこりしたのを今でも覚えている。

 

 

しかし、まぁ。

 

そのほっこりも束の間、被服部の2年生達が柳場先生に「服のサイズを測らせてください!」なんて照れながら言ったもんだから、俺はまたしても柳場先生に鉄拳制裁を受ける事になった。

 

何故、俺が殴られたのか。

まぁ、それは……俺が文化祭での被服部のビフォーアフターショーについての件を柳場先生にすっかり言い忘れていたからだ。

 

以前、悠木君にショーの提案をした時「あ、じゃあ柳場先生には俺から出てくれるように言っとくね」なんて安請け合いした癖に……

 

 

まぁ、俺すっかりその事、忘れてましたよね。

完璧、記憶の彼方に放り投げていましたよね。

 

てへぺろ。

……マジで、てへぺろ。

 

故に、先生はその時初めて、自分が文化祭で着せ替え人形にさせられることを知ったのだ。

 

 

キラキラ目を輝かせる被服部の可愛い子ちゃん達を前に、柳場先生も嫌とは言えなかったのか、結局なし崩しに先生はショーに出る事が決まった。

 

まぁ、服の採寸が終わった直後、俺は被服室から廊下に出され、今世紀史上最強の鉄拳を受けることになるのだが、ほんとにあれは頭が割れるかと思った。

 

 

『お前マジで来世にかけて俺に反省しろ!』

 

と、眉間に皺を寄せながら言い放たれた時は、いくらお調子者の真髄は新谷にあり、なんて呼ばれていた俺でも舌を出して「てへぺろ!」なんて言う余裕はなかった。

半分泣きながら「ごめんなさい」と土下座せん勢いで謝ったのも、今となっては良い思い出である。

 

……いや、まぁ。

あれはマジで痛かったっすわ、うん。

 

 

そう言えば、その時提出してもらった被服部のファッションショーについては面白い事が書いてあった。

着せ替えの担当者について、俺の予想打にしない人選がなされていたのだ。

 

1年が佐藤先生、2年が柳場先生。

この二人は事前に俺と悠木君が話した時に決まっていたから分からなくもない。

 

しかし、問題は3年の着せ替え担当だ。

 

悠木先輩達3年の担当するのは我が生徒会に無事復帰したキティちゃんとミニィちゃん……もとい油屋兄弟だった。

 

あの殆どの人間が見わけを付けきれない双子を、悠木先輩達3年生が全く別人に見えるほど着せ替えてくれるらしい。

 

なんとも面白い企画になっていると思う。

服だけではなく、メイクもカットも施す為、これは期待できる変身が見れそうだ。

 

油屋兄弟も最初は嫌がっていたようだが、悠木先輩の年上からの圧力を駆使した説得で、どうにか折れてくれたようだ。

さすが、悠氏先輩の双子。

 

ここぞと言う時の圧迫力は凄いとみた。

 

 

 

「おい!聞いてんのか!西山!」

 

「っは、はい?」

 

「……ったく、ぜってー聞いてなかったろ!?お前殺すぞ!?」

 

「っだぁぁぁ!」

 

 

 

と、完璧に思考を飛ばした俺の頭に、容赦ないゲンコツが落とされた。

それは言わずもがなステージ現場監修の柳場先生のもので。

 

俺は突然頭上に降りかかって来た悲劇に、頭を抱えてその場にうずくまった。

 

いや、最近頭殴られ過ぎてバカになりそう。

もう頭悪くなりそう。

 

 

「あははは!しゅうまた怒らてる!あはは!タンコブできた?」

 

「静、こんなバカに近寄るな。バカがうつるぞ。よしよし」

 

 

ちくしょう!

俺の頭は容赦なく殴っといて、静の頭はよしよしかよ!

贔屓だ、これは完全な贔屓だ!

 

 

と、俺は頭を抱えてはいるが、そんな事は言わない。

何故なら、ついさっき同じ事を言ったら柳場先生は鼻で笑いながら俺に言ったのだ。

 

 

『贔屓だ?当たり前だろうが。俺はお前より静が好きなんだよ。好きっつーのはな、言っちまえば差別なんだよ、ばぁか』

 

 

なんて得意気に言ってきたので、俺はもう何も言わないと決めた。

 

別に俺だって先生なんかに好かれなくてもいいもんね!

 

 

 

そう、俺が若干の不貞腐れ感を抱いている時だった。

 

 

 

 

「西山、貴様は本当に怒られてばかりだな」

 

 

なんて、

 

うずくまる俺に鼻で笑うように、俺に声をかけてきた人間がいた。

まぁ、わかると思うが発言者は秋田壮介君です。

 

この子は本当に困った子です。

いつもこんな事ばかり言ってきます。

めちゃくちゃ、ムカつきます。

 

 

「秋田壮介おまえ今のちょっとムカついた!そのバカにしたような言い方にムカついた!」

 

「本当の事だろうが。同じミスを何度も何度も。お前はバカか」

 

「っは、俺はバカだが?それがどうした!」

 

「どうしたじゃねぇだろ!このバカ!テメェは少しは進歩しろ!作業が進まねぇだろうがっ!?」

 

「いだっ!先生!ちょっと叩き過ぎだと思います!本気で頭が痛いです!」

 

「あははは!タンコブできた?」

 

「タンコブ、タンコブさっきからうっせーぞ!静!」

 

 

そう俺が静に向かって怒鳴り散らしていると、いつの間にか頭の上からいくつもの笑い声が聞こえてきた。

俺が思わず顔を上げると、それは中庭にある屋内庭園を校舎の窓から眺めている一般生徒達の声だった。

 

皆、楽しそうに笑いながら俺達の居る中庭を見下ろしている。

時たま、写真部と言う名のパパラッチが俺達の様子を写真に撮っているが、それはもう俺にとっては日常になりつつあった。

 

だって、あいつら毎日俺の事撮ってくるんだぜ。

まったく……アイドル気分を味わえて気分いいじゃないか。

 

 

と、まぁ。

とりあえず俺達のステージ設置風景は珍しいらしく昼休みの設置時間や、放課後の設置時間には必ずと言っていいほどギャラリーが集まる。

俺的には、屋内ステージの知名度が上がるし丁度いいなぁなんて思っている。

 

が、秋田壮介に言わせればそうではないらしい。

 

 

『生徒会と風紀が一緒に集まる事自体が珍しいからな。変な噂が立たなければいいが』

 

 

とか言っていた。

本当に秋田壮介は気にしいだと思う。

別に周りにどう思われても、やましい事なんかしていないから堂々としていればいいものを。

 

 

俺は「秀様頑張ってくださーい!」と叫んで手を振って来る生徒に、大きく手を振って答えた。

 

うん。

俺、この小姑みたいな奴らのイビリに耐えて頑張る。

 

そしたら、また背後から「いいから仕事しろ」と柳場先生に殴られた。

 

もう嫌このドンペリ教師。

「もう指名してあげないからね」って言ったらまた殴られた。

 

 

すると、いつの間にか今度は別の場所からもクスクスなんていう上品な笑い声が聞こえてきた。

 

 

「あ!佐藤先生だー!」

 

「げ」

 

 

それは屋内庭園の入り口からこちらに向かって手を振る佐藤先生だった。

佐藤先生の姿に、俺は何だか嬉しくなって大声で先生を呼ぶと、先生はゆっくりとこちらに近寄って来た。

 

 

俺、佐藤先生好きだ。

だって柳場先生と違って凄く優しいから。

 

まぁ、佐藤先生を見た途端、隣に居た柳場先生は本格的に嫌そうな表情を浮かべ始めたが。

 

何故か柳場先生は佐藤先生が苦手らしい。

俺に言わせると、佐藤先生のが俺はよっぽど良い先生だし、好きだ。

 

何度だって言おう。

 

俺は柳場先生より、佐藤先生のが好き。

 

 

 

「……佐藤先生」

 

「良かったですね。柳場先生。楽しそうで」

 

「楽しいわけあるか!このバカのせいで仕事が先に進みゃしねぇ!」

 

「柳場先生。昼休みの分はとっくの昔に終わってる筈でしょう?先生こそ気合いを入れ過ぎて、焦り過ぎないように」

 

「うっせ!俺は早くこんな面倒事、終わらせたいだけだっつーの!つーか、何だよ!佐藤先生よぉ、何か用かよ!?」

 

「もう昼休みが終わりますよ。授業をさぼる気ですか?柳場先生?」

 

 

そう言って自分の腕時計を指差す佐藤先生に、柳場先生も自然と自分の腕時計に目をやった。

すると、その瞬間ピクリと眉間の皺がより一層深くなった気がした。

 

 

「っまじかよ……!やっべ!」

 

「一生懸命になりすぎて周りと時間が見えなくなるのは、学生時代から変わりませんねぇ」

 

「うっせ!あー、おい!お前ら!昼休みはここまでだ!道具置いてそれぞれ教室に戻れ!いいな!?」

 

 

そう叫ぶや否や、柳場先生は佐藤先生の脇を素早く駆け抜けて行った。

そんな先生の後ろ姿を見つめ、ぼんやりする俺にむかって佐藤先生がニコニコと笑いかけてくれた。

 

うふふ、なんか嬉しい。

 

 

「西山君、お疲れ様。生徒会室で野伏間君達が呼んでましたよ?」

 

「はーい!」

 

 

おお、そう言えば昼休みが終わったら一緒に生徒会の仕事片づけながらメイド服作る予定になってたんだった。

俺は急いで周りにあった道具や機材を定位置に戻すと、隣で同じく片づけをしていた秋田壮介に向かって笑いかけた。

 

 

「秋田壮介!また放課後な!」

 

「………はぁ」

 

「放課後!今度は放送部な!」

 

 

ガッツリ溜息を吐く秋田壮介に、俺はパンパンと肩を叩く。

今日の放課後は放送部の放送ジャックについての話し合いに参加しないといけないのだ。

 

サボって貰っては困る。

放送ジャックも何気俺は凄く楽しみなのだから。

 

 

「……貴様のせいで、今年は仕事が多い」

 

「忙しいってのは良い事だぜ。秋田壮介!」

 

「お前に言われたくはない」

 

 

秋田はそう言いながら俺の手を払うと、「まったく」と言いながら、俺に背を向けた。

 

 

「秋田君、この後、風紀は公欠扱いの風紀委員会の会議ですからね。遅れないように!」

 

「はい、わかりました」

 

 

秋田もこの後風紀の話し合いがあるようだ。

俺はどこか疲れている気配の見える背中をジッと見つめると、今度は勢いよく背中に体当たりをしてやった。

 

そのせいで、秋田壮介は、秋田壮介らしからぬノリで前につんのめった。

それを見て佐藤先生は少しだけ笑っていた。

 

俺はと言うと……

 

 

「貴様……一度痛い目を見ないとわからないらしいな……」

 

「いや!犯す気!?」

 

「気色悪い事を言うな!?」

 

 

勢いよく秋田にぶん殴られた。

けど、なんとなく秋田の表情が明るくなったから、俺としてはまぁ……殴られた甲斐はあったと言うものだろうか。

 

俺は秋田に殴られた頬を抑えながら秋田の隣に並ぶと、屋内庭園の出口を目指した。

 

 

 

「お前と放送するの、俺、楽しみだ!」

 

「……っは。こっちは気が重いわ」

 

 

 

そう吐き捨てた秋田壮介の顔も、

 

 

何故だか、俺に負けず劣らず楽しそうに見えた。

 

 

 

 

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