第43話:*****

 

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生徒会室に戻る前に、皆にコーヒー牛乳を買って行こうと思ったんだ。

 

俺だろ、野伏間君だろ、佐津間だろ、陣太だろ、友也だろ、んで、友樹。

全部で6つ。
買って行って皆で飲もうって思った。

だから、店員君の居るコンビニに寄ろうと思ったら……

「…………どうしよう」

ガラス越しに見えるレジ前で、店員君と委員長がキスしてた。
いや、まぁ……あれはどう見ても、委員長が一方的にしかけた感じなのだろうが。

まぁ、どっちにしても、だ。

どうしよう。
いや、普通ならここは一旦回れ右をして、気を使うべきなんだろうが。

俺は今コーヒー牛乳が飲みたいんだ。
つーか、委員長、今授業中なのにコンビニで堂々とキスしてんだよ。

委員長の癖に授業をサボるとはメガネの風上にも置けないヤツだな。
お前が居なかったら、誰が授業開始の号令をかけるってんだ。

そして……

ほんとに委員長は手が早いな!

俺が店内で行われる恋人達の営みに落ち着きなくウロウロしながら悩んでいると、まさかの事態に陥ってしまった。
ウロウロしまくっていたせいで、入口の自動ドアのセンサーに反応してしまったのだ。

故に……

「………っは、いいいいいらっしゃいませ!?」

「……ごめん、いらっしゃっちゃった」

無情にも恋人達の甘い空間を自動ドアが破壊してしまった。
いや、さすがお金持ち学校。
コンビニのドアが手動じゃなくて自動ってね……マジね。

うん、俺、めちゃくちゃ居たたまれない。
自動ドアのセンサーに見つかってしまうなんて、俺はまだ気配を消し切れていないようだ……とかふざけてる場合じゃない。

そして、委員長のあの「空気読んでくださいよ、困ったな」って顔が無償にムカツクぜ。

大いに困ってんのはコッチだっつーの!
お前らやるならちょっと隠れてやれし!

「うん……大丈夫!大丈夫大丈夫!めっちゃ大丈夫だよ!」

「あぁぁぁ……」

羞恥から顔を真っ赤にしてレジにつっ伏す店員君に、俺は無意味な大丈夫を送った。
送っている俺も、一体なにが大丈夫なのかわからない始末なのだが。

まぁ、つまり大丈夫って事だ。

そして、そんな照れる店員君を静かに悶えながら見つめる委員長の顔は、やはり無性にムカつくモノを感じた。
お前はもう少し俺の存在を気にしろ!

「俺、コーヒー牛乳を買いに来ただけだから。すぐ帰るから。いいよ、いいよ、帰ったら続きやったらいいよ」

「やりません!」

「……えっ!?」

俺は激しく落ち込み始めた委員長をシカトし、コーヒー牛乳の置いてある棚へと足を向けた。
背後からは「続き、しないんですか……」と言う悲壮感に満ちた声が聞こえてくる。

たまらんぜ、委員長。

俺は委員長の声をシャットアウトしながら、6つのコーヒー牛乳を腕に抱えると、落とさないように慎重にレジを目指した。
そこには、未だに真っ赤な店員君と残念そうな委員長。

「………はぁ」

まぁ、まぁね。
今後を危惧した二人だったが……結果。
どうやら上手く行っているようでなによりである。
まぁ、この委員長のメガネの割に先を考えない猪突猛進具合は、未だに不安が残る点ではあるが。

結局、照れてる店員君の方も幸せそうだからいいのかもしれない。

にしても、コーヒー牛乳500mlを6本はちょっと持ちにくいな。
そう、俺が腕の中から落ちそうになるコーヒー牛乳に悪戦苦闘している時。

「気付かずにすみませんでした」

店員君は俺の腕いっぱいのコーヒー牛乳に気付いたらしく、照れていた表情をひっこめすぐに俺のもとまで走って来た。
もう顔は一気に接客モードだ。

すげぇわ。

「半分持ちます」

「あ、ありがとう。やっぱし店員君気がきくねー」

「じゃあもう半分は俺が」

「いや、俺が買うんだからそこは持つし。俺が手ぶらになんじゃん」

店員君の真似をしようと、俺のコーヒー牛乳に手を出してくる委員長を静止し、俺は店員君に続いてレジまでコーヒー牛乳を運んだ。
そこには既にピッピッとバーコードを読み取り、手早くコーヒー牛乳を袋に詰める店員君がいる。

おお、さすがプロ。
動きに無駄がないな。

その癖、俺の周りを手持無沙汰にちょろちょろする委員長は、若干目ざわりだ。
俺もそうだが、ほんとに文化祭本番に接客などできるのだろうか。

「委員長。せっかく店員君とこうして授業をさぼってまで一緒に居るんだから、店員君の動きをよく見て……あわよくば接客マニュアル作っといてよ」

「接客マニュアルですか……」

「委員長ってこういうのまとめたりするの得意そうだし」

俺がそう言うと、委員長はテキパキ動く店員君を見ながら「ふむ」と小さく頷いた。

「こう……大義名分を得て哲氏の観察ができる環境……いい」

……怖い。
この、口元に薄く笑みを浮かべる委員長めちゃ怖い。
つか、いつの間に呼び捨て名前呼び……。

「どうぞ、重いので袋分けておきました。あと、ストローは6本でたりますか?多めに必要だったりします?」

「……気を付けて店員君」

「へ?」

隣のメガネに、俺は店員君の貞操の危機を感じると真剣な表情で店員君に向き合った。
対する店員君はポカンとした表情で俺を見ている。

委員長は隣でやはり静に悶えている。
もう誰かこのメガネを逮捕して。

「貴方の近くには狼が居ます。メガネ狼です。メガネと思って侮るなかれ。それはメガネの癖に比類なき変態かもしれません。変態メガネかもしれませんよ」

「……?」

「会長、俺、マニュアル作って哲氏と一緒に接客指導係になります。A組の接客は俺達に任せて下さい。な、哲氏」

「あ、はい!売り上げ、集客、総合1位目指して頑張りましょうね!」

「…………」

このメガネ!
軽やかかつ強引に話しを逸らしやがった!

しかも、さりげなく、かつ強引に店員君の肩を抱き寄せながら爽やかなヤル気を見せてきやがるし!
最早俺は虚空を見つめるよりほかないぜ。
このメガネは俺には止められない。

いや、もういいわ。
本人達がよければ……全てよしだわ!

そう、俺は諦めの境地の中に存在する晴れやかな気分を味わうと、心の中で静に店員君の幸せを祈った。
御愁傷様、と。

「そういや、メニューの方も順調?」

「ええ。調理班が、調理部の威信をかけて作ると張り切っていましたよ」

「よし、もう接客はお前らに任せたから頼むぞ!メイド服は俺らに任せろ!」

「はっ、はい!がんばります!」

「2年A組目指せ優勝―!」

「おー!」
「おー」
「おー!」

いや……はや。
最終的に、たった3人で円陣まで組み始めた俺達。
授業中に俺達はコンビニで、一体何をやってるんだろう。

なんて、思っちゃいけない文化祭前テンション。

 

 

 

 

 

————-
「おーい!皆!コーヒー牛乳買って来たよー」

「カイチョー、遅いよ!どこ行ってたのさ、心配したじゃん」

 

俺がコーヒー牛乳の袋を両手に抱え生徒会室に入ると、真っ先に俺に気付いた野伏間君が慌てて出迎えてくれた。

「ごめん、ごめん。ちょっと寄り道してたんだー」

「もう、カイチョーはすぐそうやってあっち行ったりこっち行ったり……子供みたいに」

そう、俺の手からコーヒー牛乳の入った袋を苦笑しながら受け取る野伏間君。
その顔色は、今では大分よくなっていた。

実は野伏間君は、あの仲直りした日の夜以降の2日間。
野伏間君はずっと8度~9度の高熱を行ったり来たりしていたのだ。

途中、保健室の先生まで呼んだり、インフル疑惑がかかったりと、もうあのあたりは毎日がてんやわんや。
ほんと、体温計が9度なんて数字を叩き出した時は、本気で野伏間君が死ぬんじゃなかろうかと一人慌てまくってしまった。

しかし、今日になってやっと熱も平熱にまで下がり、顔色も完全に普段の野伏間君へと戻った。

本人曰く、もう完全復活との事だ。

だからだろう。
野伏間君は今日、朝からやたらと自分もステージ設置業務の方へも参加すると言ってきかなかった。
でも俺は、どんなに野伏間君が頼んでもそれだけは聞いてやらなかった。

だって、保健室の先生も治りかけが一番危ないって言ってた。
そういう時に気を抜いて無理すると、またぶり返して治りが遅くなる事があるらしい。

また、野伏間君が9度とか熱が出て、死にそうな顔をするのは嫌だ。
あんな怖い思い、もうしたくないもんな。

「どう?カイチョー。ステージ上手く進んでる?」

「うん、ちょー順調!放課後は佐津間達のシフトだからなー!ちゃんと行ってこいよ!」

俺は半分の袋に入っている3つのコーヒー牛乳を持って、カタカタとパソコンを叩く佐津間のもとへ行った。
反対側ではデカイ体で器用にミシンを使いこなす陣太に、野伏間君がコーヒー牛乳を渡している。

「……はぁ。この俺があんな肉体労働を……」

「文句言うな。メガネキャラだからって免除される事とされない事があるんだよ」

「メガネは関係ないでしょう!」

俺は佐津間に「この麗しのメガネ野郎が!」と罵声か褒め言葉かわからない言葉を投げかけると、佐津間から無言で足をひっかけられた。

畜生。
麗しのメガネキャラの癖に、やることが若干コイツは姑息だ。

「友也―、友樹―。お前らもちゃんと行けよー」

俺はふらつく体制を立て直しながら、今度は奥で並んで執事服の型を取る双子の元へ向かった。

そう言えば、コイツらはチビの癖にクラスでは執事服を着て接客担当らしい。
なんだかコイツらが一番、女子からは話題になりそうな感じがして怖いぜ。

可愛くてソックリのイケメン双子って……。
これはもう芸能界で売り出すには持って来いのフレーズじゃねぇか。

「「会長、俺ら今日の放課後ステージ設置に行くのちょっと遅れるよー」」

「はぁ!?何で!?」

俺が眉をしかめながら双子の近くにコーヒー牛乳を置いていると、双子も双子で嫌そうな表情を浮かべた。

なに、何があったの、この子達。

「被服部の3年が採寸するから来いってうるさいんだもん!」
「俺らだって行きたくて行くわけじゃない!」

「……あぁ、そう言う事か」

行きたくなーい、なんて叫びながら二人で顔を見合わせる双子は、似ているけど、やっぱり似て居なかった。
嫌過ぎて泣きそうなのと、それを慰めてるの。

違いはハッキリわかるのに、俺はどっちが友也でどっちが友樹なのかわからない。

何故なら、違いがわかってもどっちがどっちの名前だったのか覚え切れて居ないからだ。
まぁ、俺のいつもの名前覚え切れねぇぜ症候群の症状の一種なわけである。

「あー、でも人数は必要だしなぁ……。ま、とりあえず。お前ら採寸終わったらすぐステージの方行けよ」

「「はーい」」

そう、二人でハモりながら返事をしてくる双子に背を向け、俺はいつもの自分の席へとついた。

そして丁度そのタイミングを見計らったように、野伏間君がコーヒー牛乳を持って俺の元へ現れた。

「はい、カイチョーの分」

「あ、ありがとー!」

笑顔でコーヒー牛乳を受け取る俺の前には、コーヒー牛乳のパックにストローを差し込み、直接中身を飲む野伏間君の姿。

蛇足だが、野伏間君はストローから直接コーヒー牛乳を飲むようになった。
まぁ、きっかけは、2日の続いた高熱だ。
横になりながらでも水分が摂れるように、ストローを通して野伏間君にコーヒー牛乳を飲ませていた事が始まり。

でも、本人は余り意識していないようなので、俺は黙ってストローからコーヒー牛乳を飲む野伏間君を笑って見つめる。
やっぱ、コーヒー牛乳はこうでないと。

でも、まぁ、それは置いといて。

「んー、二人もステージの方遅刻ってイタイなぁ……。俺も放課後は放送部の方行かなきゃだし」

「だーから。俺が行くって」

「ダメ!絶対ダメ!野伏間君が行くなら俺が行く!」

「……はぁ、じゃあカイチョー一緒に行こう」

「ダメったらダメ!野伏間君が具合悪くなったらもういやだって!とりあえず今日まではゆっくりしないとダメ!」

「……っはは、カイチョー。心配し過ぎだって」

そう言って軽く笑ってストローに口を付ける野伏間君は、なんにもわかっちゃいない。
あの時の自分の状態を知らなさ過ぎなんだ。

俺は……本当に、野伏間君が死ぬんじゃないかと、ずっと生きた心地がしなかったんだ。

俺の表情が本格的に情けない事になっていたのだろう。
野伏間君は、小さく苦笑を洩らすとストローから口を離して、俺の頭をゆっくり撫でてきた。

「わかったから、そんな顔しないで。今日までは大人しくしてるよ。ごめんね、カイチョー」

「……うん」

あぁ、こんなやり取りをしていると本当に野伏間君が元気になって良かったと思う。

野伏間君が笑ってくれてるのを見ると安心する。
悠氏先輩の言う通り、野伏間君の傍に居れる事を光栄に思う事にしよう。

「コーヒー牛乳飲まないの?カイチョー」

「……飲む」

野伏間君の言葉に、ひとまず安心した俺は紙パックの脇を開け、そこにストローを通した。
そして、そこにストローを通し、その甘い液体を口の中に含む。

あぁ、幸せだなぁ。
コーヒー牛乳の傍に居られる事も光栄だと思った方が良いかもしれないぜ。

なんて、

俺がしみじみとコーヒー牛乳のある幸せを噛みしめていると、隣でジッと俺を眺めていた野伏間君がふと、思い出したように口を開いて来た。

「結局……風紀の手。借りちゃったね」

「……ま、仕方ないよ」

「でも、さ。カイチョー……そしたら、生徒会は……」

野伏間君は内に秘めてきた不安を吐露するかのような表情で俺を見てきた。

野伏間君は心配なのだ。

必死に彼が守り抜いてきた生徒会が。
せっかく全員戻って来たこの生徒会が。
やっと元に戻り始めたこの生徒会が。

また、誰かの手によって壊される事を。

不安で、不安で、仕方がないのだ。

「野伏間君」

「なっ……は?」

俺は不安に歪む野伏間君の顔を顎の下を持ちあげ、クイと俺の方を向かせた。
突然の俺の行動について行けないのか、野伏間君の目が瞬きと共に驚きの色を表している。

「……心配すんな」

「……っ」

「お前が守ってくれた生徒会、今度は……俺が守ってやるよ」

絶対にな。

そう、俺が野伏間君の顔から手を離すと、その途端、野伏間君は顔を俯かせた。
俯いた下で、野伏間君が一体どんな顔をしているのか。

俺にはわからない。

だから、少しだけ見える野伏間君の耳が、微かに赤かったのも……

気のせいだったのかもしれない。

「カイチョー……ほんと、タチ悪いわ」

「何が?」

「……はぁ、そう言うとこ全部」

 

そう苦笑しながら再び俺の頭を撫でてくる野伏間君に対し俺は、少しだけ頭を伏せた。
そして、少し先に待つであろう未来を思い。

俺は心の中で、彼に謝罪した。

 

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