※行ってみたいと思いませんか

 

 

 

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※行ってみたいと思いませんか

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まぁ、でも。

死にたくなかったなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

そう思い、見上げた空は、夕焼けで真っ赤に染まっていた。

 

 

 

仰向けになって、ひっそりと目を閉じる。

全ての色が無くなる。

音が無くなる。

 

 

 

 

 

そんな中。

遠くで「バカだなぁ、新谷」なんて声が聞こえた気がした。

 

ほんとに、俺はバカだよ。

 

 

俺は目を開けた。

開けたけど、目を開けた先も真っ暗だった。

 

そんな俺の頭の中に、何かが素早く横切った。

 

それは、

楽しかった記憶。

悲しかった記憶。

そして、悔しかった記憶。

 

 

色も音も無くなったその世界で、俺の頭の中に次々と流れ込んでくる記憶の奔流。

 

その波に、俺は抗う術もなく巻き込まれて行く。

 

 

生まれてからこれまで、色々あった。

俺は、バカで、アホで、間抜けで、気も利かなければ、役にも立たない。

何か、他人に誇れるようなモノだって一つも持っちゃいなかった。

 

 

俺は口を尖らせ、何もできない自分を「役立たず」と、バカにしながら歩いた。

周りの人間全てが、キラキラと輝いて、魅力的に見える。

 

キョロキョロと周りを見渡す。

あぁ、いいな。うらやましいな。

 

なのに。

 

役立たず、役立たず。

どうして、俺はこんなに何もできないんだろう。

 

「俺ってほんとに、役立たず」

 

ぶすくれて歩く俺の前に、突然。

何か楽しそうな、ホワホワしたものが浮いて来た。

 

 

『女装喫茶しよう!』

『制服貸して!』

 

 

俺は楽しそうな、そのホワホワしたものに向かって駆けだした。

 

何だ、あれは!

凄く楽しそうじゃないか!

面白そうじゃないか!

 

ぶすくれて居た俺の顔も、いつの間にか笑っていた。

楽しい気持ちは、俺のモヤモヤを吹き飛ばす。

 

楽しい気持ちは、俺を前へと走らせる。

 

走って、走って、俺はそのホワホワに必死に手を伸ばした。

 

もう少しで、ホワホワに手が届く。

 

 

そしたら、次の瞬間。

ホワホワも、記憶の奔流も、いろんな俺の気持ちも、プツリと途切れた。

 

 

そこから俺の意識はフッと消えて無くなった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ように思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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一人の少年が、ポツンと座りこんでいる。

つまらなそうな顔で。

全然、楽しくなさそうな顔で。

 

 

それを、俺は誰かに手を引かれながら。

振り返り様にジッと見ていた。

 

ポツンと一人ぼっちの男の子。

つまらなそうな男の子。

 

 

それを見たら、俺はどうしようもない気持ちになった。

 

 

一人で、座っているあの子。

あの子を見ると、心臓がキュウとなる。

 

 

だから、俺は、俺を引っ張る大人に言った。

 

 

あの針が、まっすぐになるまで俺はここに居る、と。

 

 

大人の手から離れた俺は、男の子に向かって走る。

もう、男の子は目の前。

だから、俺は手を伸ばす。

 

でも、触れる直前、俺は一瞬手を止めた。

 

 

ホワホワの時みたく消えたら嫌だなぁ。

 

 

そう、何かに囚われたようにビクつく思考を前に、俺は思う。

 

ホワホワって何だ?

 

 

 

そんな事を思ってるうちに、俺の手はいつの間にか……

 

 

男の子の手を掴んでいた。

 

 

ビックリした顔で俺の顔を見上げてくる男の子。

そんな驚く男の子の手を、ちゃんと掴めた事が嬉しくて、嬉しくて。

 

俺は笑って、男の子の手を引っ張ったまま走った。

 

 

引っ張り上げた瞬間、俺は記憶のどこか深い所に眠る何かも、一緒に引きあげたような感覚に陥った。

 

暖かい、小さな手を引っ張って、俺は走る。

振り返ると、あの、驚いていた男の子も、いつの間にか笑っていた。

 

 

楽しい気持ちは、男の子のモヤモヤを吹き飛ばしてくれたようだ。

 

 

男の子の笑顔に、俺は思った。

 

 

俺の幸せは、ここに……笑顔にあるんだなぁって。

 

 

 

 

 

 

深い、深い部分にある俺の気持ちが光り輝いたような気がした。

 

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消えたと思っていた道が、新たに開けた。

 

消えてなくなったと思っていたホワホワが、たくさんあるのに気が付いた。

 

うれしくなって駆けだした。

 

 

そしたら、後ろから俺を呼ぶ声が聞こえた。

 

 

「西山 秀!」

 

 

 

俺は、勢いよく振り返った。

 

 

 

 

 

それは俺の新しい――だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ガタン。

 

 

 

 

俺は次の瞬間体に走った衝撃に目を開くと、そこは見慣れた真っ白な天井があった。

 

 

 

「………………」

 

 

ズキズキと痛む頭を、俺は無言でさすりながら、ゆっくりと体を起こす。

 

俺の言う通りに動く体。

思考、感情。

 

 

ボーッとする頭を抱え、俺は周りで共に雑魚寝する生徒会役員達を見渡した。

簡易ベッド、ソファー、床に直接ひかれた布団。

 

各々、好きな場所で好きなように寝ている。

 

あぁ、ここは。

 

ここは、城嶋学園、生徒会室……の、仮眠室。

 

 

「……今日、か」

 

 

壁に掛けられたカレンダー。

今日の日付につけられた赤い丸。

 

 

 

文化祭が、

 

 

始まる。

 

 

 

 

 

 

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