——————-
【放送中】
——————-
(どうもこんにちはー!本日急きょ城嶋学園の音声をジャックしに参りました放送部です!今日は放送室に素敵なゲストをお呼びしてのスペシャル放送です。MCは部長の小杉 満がお送りいたします!それではゲストの紹介で……)
『おい!西山!?貴様、ここに飲食物は持ちこむなと言われただろうが!?』
『あー?だって、まだ入ってんだよ。コーヒー牛乳』
『おーい、二人ともー。もう放送始まってるみたいだよー』
『あぁぁぁぁ!ちょっ、俺のコーヒー牛乳盗んでんじゃねぇよ!?このクソ秋田が!?死ね!』
『貴様が死ね!遅刻の身の上で図々しいにも程がある!』
『………はぁ、こうなるだろうと思った』
(えっと……ゲストは皆さまお馴染み……)
『あぁぁぁ!何やってんだクソ!おい!野伏間!秋田のヤツを止めてくれ!俺のコーヒー牛乳を!』
『こんなもの俺が飲みほしてやる!まぁ、貴様の遅刻の罪はこんなもんじゃ消えんだろうがな!』
『ぎゃぁぁぁぁ!やめろ!マジで!それ最後の一つなんだよ、マジでぶっ殺すぞ秋田!野伏間!アイツ俺の大事なコーヒー牛乳を!!』
『あーもう!秋田ったら会長と間接チューしたいの?やっぱり秋田は会長の事が……』
『野伏間!それ以上言うなぁぁ!』
『秋田!コーヒー牛乳握り潰してんじゃねぇぇ!!!』
—–⇒⇒早送り⇒⇒——
(それでは、お二人に質問が……)
『大体貴様はいつもそうだ!学校の長たるお前がこうも時間にルーズでどうする!学校の品位が疑われるぞ!』
『あー……野伏間発動!』
『はぁ?何それ』
『秋田の小言を止めてくれ!野伏間!』
『誰が小言だ!?俺は事実を述べているだけだ!』
『いや、そういう無理難題ふっかけるの止めてよ、会長』
『それに貴様……いや、貴様らのその格好はなんだ!?何でお前達がメイド服を着て女装しているんだ!?似合ってないにも程がある!見苦しい!』
『はぁ?おい!んなもんエセ執事の格好してるテメェだけには言われたくねぇんだよ!?クソ秋田が!俺らのはウケ狙いの若気の至りだが、テメェのソレはガチだろうが!うっわー、コイツマジで執事になんかなってますけどー!引くわー!』
『っぐ、貴様……表に出ろ!黙って聞いていれば言いたい放題!遅刻の分際で、どこまで図々しいヤツだ!一度痛い目を見ないとわからないようだな!』
『やってやろうか!?あ゛ぁ?ちょっとデケェからって調子乗ってっと痛い目みんぞ!』
『……あー、もうやめなってー』
『クソ秋田!』
『黙れ西山!』
——–以下放送省略———–
その後、約20分間。
その放送ジャックと言う名の口論は城嶋学園の放送器を通して、学園中に響き渡った。
日も傾き、城嶋祭も終わりの雰囲気を醸し出し始めた学校内で、生徒達は放送を聞きながら大いに笑った。
そして、教師は苦笑した。
風紀と生徒会。
仲の悪い二つの勢力。
相入れぬ、二人の人間。
その二人の織りなす口論は、当たり前のようで、当たり前ではなかった。
スピーカー越しに聞こえてくる人間達の声は、何故だかとても楽しそうだったからだ。
風紀と生徒会。
相対する、学園の表と裏。
その二つが共に同じ舞台に上がっているという事実。
聞こえてくるのは、ただの意味のない口論。
だが、それがこの学園にとってどれほど大きな変化であったのか。
しかしそれに気付いたのは、それをスピーカー越しに聞いていた城嶋学園の生徒達や教師陣ではなく……
二人の間で困ったような表情を浮かべる野伏間だけだった。
不貞腐れたような顔で相手を見やる西山。
そんな少年に対し、怒りをあらわにする秋田。
そんな、一見普段となんら変わりの無いような二人の姿に、小さな違和を覚えた間に立つ野伏間。
しかし、その違和が一体どこから来るのもなのか、野伏間にはわからなかった。
「会長、秋田。お疲れー」
「マジで……疲れた……」
「クソ……俺は一体何をしていたんだ……」
その二つ顔は、どこまでもいつも通りだ。
いつも通り、きっとこれからも見続けてゆく立ち位置。
表と裏。
相対する勢力。
風紀と生徒会。
ずっとあり続ける両者。
「ほーら、会長。そろそろ閉会式の準備……始めないと」
「へーへー」
「秋田は屋外ステージ管轄だったよね?とりあえず6時15分までには準備終わらせるから、当初の予定通り30分に閉会式やっちゃおう」
「そんな事、言われずとも分かっている。貴様ら生徒会こそ、今度こそ時間厳守を忘れるな」
そんな秋田のいつもの厳しい言葉。
そして、それに対して眉を潜めるいつもの西山。
「へーへー。わかってるっつーの……こっちは昨日から一睡もしてねぇっつーのによ」
「俺達風紀も寝て居ない。貴様の増やした仕事のせいでな」
「……あー、そうか。そっか……」
しかし。
「閉会式終わってからも色々予定詰まってるからねぇ。会長、今日も寝れないかもよー」
「………おう、そうだな……。眠れねぇかもな」
軽い気持ちで放った言葉。
その言葉に、何故だか西山は初めて見せるような苦笑で、目を細める。
原因不明の違和。
野伏間は徐々に大きくなっていくソレに少しだけ心が揺さぶられていた。
「会長、どうしたの?どっか具合でも悪い?」
「……いいや。ほら!野伏間、さっさと閉会式の準備やんぞ!遅れたらまたガミガミ言われっからな」
そう言ってさっさと歩きだした西山の背中を、野伏間は慌てて追った。
いつもの背中。
いつもの西山。
いつもの……これからも続く日常。
しかし。
「……っ!」
とっさに野伏間は振り返っていた。
何故だかわからない。
だが、気付いた時には振り返っていた。
その振り返った視線の先に立つのは、秋田壮介。
「……ぁ」
野伏間は瞬間的に、秋田の姿に目を奪われていた。
秋田の目は、どこかやり切れないような、もどかしいような、悲しいような、悔しいような。
そんな、様々な感情の入り混じった、強い悔しさを滲ませた目で秋田は西山の背中を追っていた。
その目を、野伏間は見つけてしまった。
捕えてしまった。
しかし、振り返った野伏間と目が合うと、秋田はすぐに表情をいつもの厳しいものへと戻し、野伏間に背を向けた。
相対する二つの勢力。
相容れない二人。
自分の戻るべき、属する集団。
城嶋学園、生徒会。
野伏間は背筋につきまとう違和を振り払うように、視線を戻した。
いつもの背中。
いつもの西山。
俺達の、生徒会長。
「ほら!野伏間おせぇ!早く来い!」
「っ!う、うん!」
野伏間はいつものその声に、安心を求めるように駆けだした。
それは鹿鳴館、及び屋外ステージの全演目が終了し、残すプログラムは閉会式を残すだけとなった……
5時30分から6時までの話。