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※ある廊下にて
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「なんだぁ、さっきのウルセー放送は……」
了は、やっと止んだ騒がしい放送に、眉をひそめながら廊下の窓から外を見下ろした。
見下ろした先には、暗くなった中庭で屋外ステージの片づけを行う生徒達。
そして了の周りも、中庭の生徒達同様、用具を片づけたり運んだりしている生徒が、廊下を駆けまわっている。
どうやら、あの放送で文化祭は全てのプログラムを終了したようだ。
了は片手に持っていたコーヒー牛乳を口元まで運ぶと、ズズズと勢いよく吸い上げた。
「っはー。ったく、最後はグダグダじゃねぇか」
了は先程まで流れていたメチャクチャな放送を思い出し、込み上げてくる笑いを止められなかった。
学生主催の祭りにありがちのグダグダ感。
その何とも言えない懐かしい感じに、了は手に持っていたコーヒー牛乳のパッケージを見つめる。
それは、つい最近のようで、実際は遠い過去と成り果てたその記憶。
その事実に、了はなんとも言えない気分に襲われた。
その瞬間。
ブブブブ。
「……あ?」
ポケットに入っているケータイが、存在を主張するようにその身を震えさせ始めた。
了は、一瞬眉を潜めると、素早くポケットからブルブルと震えるケータイを取りだした。
「そういや、この時間に設定してたな。アラーム」
時刻は午後6時10分。
それは、今日、ここを出発する頃あいを知らせる為に設定していたケータイのアラームだった。
時間に疎い了が、事前に飲み会への遅刻を防止する為に設定していたものだ。
文化祭も終わったようだし、そろそろここを出た方が良いだろう。
今年の飲み会は、例年に比べ参加者が多い。
幹事の一人である自分が遅れるわけにはいかない。
A組の売上来客数の総合優勝の獲得の有無は気になるが、それは今度、哲氏に直接聞けばいいだろう。
了はそう思い、ケータイの電源ボタンを押すと、体重をかけていた窓際から体をおこした。
「えーっと、とりあえず草野達に連絡入れとくか」
そう、ケータイに目を落としながら歩き始めた時だった。
「きゃっ……」
了の体に軽い衝撃が走った。
そして、更にどこか聞き慣れた声が了の鼓膜を揺さぶった。
「あ……」
「っすみません、前を見て居なかったもので……あ」
了の前に倒れこむスーツ姿の女性。
その手に握られるケータイ。
見つめ合う両者。
「……白木原君」
「……みどりちゃんじゃん……」
そう、小さく呟いた両者の背後から「大丈夫ですか!神埼理事長!」という、どこか空気の読めない声が響き渡るのは……
その5秒後の事。