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※会計の想い
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生徒会がリコールされた。
俺は突然始まった壇上での秋田と会長のやり取りを、どこか他人事のような感覚で見つめていた。
しかし、それも最初だけだった。
話しが進むにつれ、放たれる言葉を理解するにつれ。
俺の頭は欠呼吸を起こしたように酸欠状態になった。
何で。
どうして。
そんな答えの出ない疑問の嵐。
俺はただ、壇上で静かに秋田の言葉に頷く会長を見て足元がグラグラと頼りなく揺れているような感覚に襲われた。
生徒会がリコールされた。
それを会長は受け入れた。
と言う事は、もう……
「……生徒会が……」
もう、俺達は生徒会のメンバーではないのだ。
「なくなる……?」
震える声で自然と漏れだした言葉に俺は我に返ると、今まで全く見えていなかった回りの様子が、瞬間的に思考の端を捕えた。
俺同様、脇に控えていた生徒会の他のメンバーも驚きに染められた目を一心に壇上の会長へと向けている。
つけ加えるならば、同じく脇に控えていた数名の風紀委員のメンバーも同じように驚きの声を上げている。
その様子から察するに、このリコール騒動は秋田の独断専行に違いない。
「…………」
そう、そこまで思考を巡らせ、俺は先程の放送を終えた後の秋田の表情を思い出した。
あの時の秋田は……苦しそうな目で会長を見ていた。
苦しくて、悲しくて、どうしようもないような目を、背中を向ける会長に見せていた。
そして、それと呼応するように、先程少しだけ様子のおかしかった会長。
緊張するんだ、
そう言って先程俺の手を握りしめてきた会長の横顔に、俺はやっと事態を把握できた気がした。
これは秋田の独断専行なんかじゃない。
これは、
これは………
会長の、西山秀による独断専行だ。
「なんで……!」
壇上で、全てを受け入れる会長の表情は、もう最初から全てを知っていたのだと物語っている。
これは、全て会長の仕組んだ、会長の意思によるリコール宣言なのだ。
何故、どうして。
会長は“生徒会”を守るために、今まで頑張ってきたんじゃなかったの。
『俺は生徒会長で居たいんだよ!』
ねぇ、会長。
『秋田のクソに生徒会を潰されてたまるかってーの!』
どうして……?
やっぱり、もう生徒会なんて……
嫌になった?
そう、思った時。
いつの間にか、目尻に熱い何かがたまっていた。
ずっと、これからも一緒に生徒会をやりたいと思った。
隣で一緒に笑っていられる間は、共にありたいと思った。
今度は、俺が
会長に“特別”をあげたいと思った。
次から次へと込み上げてくる涙に、俺は上手く息ができない。
「っ、っふ……」
ぼやける視界の中、俺は会長を、
会長だけを見つめていた。
もう、消えかかっている俺達の生徒会と、おぼつかない自分の足元に。
俺は、ただ、いつものように自信満々な様子で壇上に立つ会長を見つめる事しかできないでいた
その時だった。
「俺達、生徒会はリコールを受け入れた。風紀委員長、速やかなるリコール宣言感謝する!」
「………なんだと?」
今まで、静かに、そして淡々と行われていた秋田と会長の対談が、一気に会長の言葉で、その様相を変えた。
その向かいに立っていた秋田も、それまでの神妙な顔つきから一転して、いつものように怪訝そうに眉を寄せる。
そして、会長は手に持っていたマイクを床に置くと、そのままニヤリと笑って俺の方へ視線を向けた。
そして、確かに会長の視線はハッキリと俺をとらえて。
しかも、その顔が、いつにも増して、不遜で、不敵で、かっこよくて。
俺はそのまま会長の顔を凝視してしまっていた。
「さて、これから、俺は一般生徒としてここに宣言しよう!」
そう、会長の高らかな声が、いつの間にか
「これより、俺は第57代新生生徒会執行部に、生徒会長として立候補する!」
俺の涙を止めていた。