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※神埼蓮見の想い
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目の前で、何が起こっているのだろう。
神埼蓮見は突如としてステージの上に現れた少年に目を奪われていた。
しかも、よく見るとその少年は、昼間見た、あの女装して学校中を走り回っていた少年だった。
一体、今から何が始まるのだろうか。
その想いだけが蓮見の頭を駆け巡っていた。
別に少年は女装をして現れたわけではない。
彼は、昼間の姿からはうって変ってピシリとした制服姿だ。
ふざけている様子もない。
ただ、彼は不敵に笑って、自分の存在をその場に刻みつけるように堂々と立っていた。
「………ぁ」
その姿に、何故か蓮見は……
遠い昔の、あの、懐かしい日を思い出していた。
あの日、あのバカな少年も……あぁやって、でも、どこか頼りなさ気な表情でステージの真ん中に立っていた。
「何をやっているんだ、西山君達は……!」
隣では三木久が焦ったような表情でステージを見つめている。
それもそうだろう。
本来ならば、もうこの時間には文化祭の売上の総合優勝が決まり、あと数分もすれば蓮見と三木久による、学園合併の発表が行われる時間だ。
なのに、目の前では、あの生徒会長と思われる少年が全校生徒に向かって不敵な笑みを浮かべるのみだ。
そんな当初の予定とは異なる現在の状況に、三木久はとうとうステージに向かって歩き出そうとした。
この、わけのわからない状況をどうにか当初の、閉会式という軌道に戻さなければならない。
生徒会をリコールなど、そんな勝手はこの場で許すわけにはいかない。
だから、三木久は動いた。
生徒の勝手を許さないため。
そうするのが、この学園の最高責任者たる三木久の役目である事は確かだった。
しかし。
「待って」
三木久の腕が微かな力によって引きとめられた。
「……神埼理事長」
「ちょっと、待ってください」
蓮見の手が、三木久の腕を捕えていた。
その力は、本当に微かなもので、振り払おうとおもえば簡単に振り払えるような弱弱しいものだった。
しかし、蓮見の声は三木久にとって振り払えない強い力を秘めていた。
「……すみません、時間が押しているのもわかっています。当初の予定から大幅にズレこんでいるのもわかっています」
「…………」
「でも、待ってください。私は……彼が何をするのか」
「……っ」
「とても、気になります」
そう、ハッキリと言いきった蓮見の顔に、三木久は息を呑んだ。
蓮見の表情が、何故か、とても
泣きそうだったから。
三木久は蓮見に掴まれた腕を静に下ろすと、ただ、どうしようもない気分でチラリとステージへと目を向けた。
何故だろう。
どうしてだろう。
三木久は、どうしようもない胸の中のモヤモヤを抱えたまま、自分の学園が誇る目立ちたかり屋で、幼い頃から妙に目立って仕方が無かった、あの少年を見据えた。
その胸に残るモヤモヤが、大人気ない、ただの嫉妬である事はもう……三木久とて理解できた。
蓮見にこんな顔をさせる、彼こそが。
何故か、三木久の本当に嫉妬の相手であると理解できたからだ。
「さて、これから、俺は一般生徒としてここに宣言しよう!」
蓮見の目は、もう
「これより、俺は第57代新生生徒会執行部に、生徒会長として立候補する!」
彼しか、映っていなかった。