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第47話:手さえ挙げれば
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「なぁ、秋田壮介。生徒会長っつーのは、本来どういうヤツがなるべきもんだと思う?」
俺はマイクを片手にそう、問うてみた。
突然、俺に問いかけられた秋田は、一瞬訝しげな表情を浮かべ俺の方をジッと凝視してきた。
俺の言葉の真意を測りかねているようなその表情に、俺は更に「なぁ、答えろよ」とたたみかける。
難しく考えなくていい。
お前の直感で、思ったままを答えろよ。
なぁ……秋田 壮介。
秋田に向かって問いかけたその言葉は、マイクを通して、全校生徒の耳へと届いている。
俺は問いかけた。
ここに居る、城嶋学園の全校生徒に。
俺と同じ、ただの学生風情共のガキ共に。
生徒会長とは、一体どういう人間がなるべきものなのか。
「そんなもの決まっている。真面目で責任感があり、この学園の歴史と伝統を守っていく覚悟のある者。全校生徒を、前へと、導ける者だ」
「期待を裏切らない愚直な答えをありがとう!秋田 壮介」
「っ貴様、俺をバカにしているのか!?」
キーン。
思わずマイク越しに怒声を響かせた秋田に、ヤツの持っていたマイクが高い嫌な音を響かせた。
その音に、当の秋田自身が驚いたように眉を潜め、気まずげな色をその表情に窺わせる。
全校生徒の前に立つ時、他者の前に立つ時。
秋田はいつだって冷静沈着だ。
そして、ヤツはいつもそうあろうと自分を戒めてきた。
そんなヤツが、全校生徒の前でこんなに本気の怒声を響かせる事は、まずない。
それほどまでに、先程のヤツの答えは、秋田自身の根幹を形作るものであったに違いないだろう。
真面目で責任感があり、この学園の歴史と伝統を守っていく覚悟のある者。全校生徒を、前へと、導ける者。
なんとも秋田らしい、まっすぐで、揺るぎない、
ごちゃごちゃした不要物の入り混じった答えだ。
「なぁ、秋田 壮介。もっと頭ん中を単純に動かしてみろよ。生徒会長っつっても、所詮はただのいち生徒でしかねぇ人間だ。何で同じ立場である筈の生徒を導かなきゃなんねぇ。んなもん教師に任せときゃいいんだよ!ばぁか!」
「貴様……!」
俺の言葉に本気で額に血管を浮かびあがらせる秋田を横目に、今度は全校生徒に向かって息を吸い込んだ。
そう、先程の俺の問い。
問いかけた相手の数だけ、それぞれの答えが生まれてくる事だろう。
此処に居る、1000人を超える人間達の数だけ答えは生まれる。
それに、正解も不正解もない事は俺だって百も承知だ。
先程の秋田の答えだって、きっと正解であり、不正解でもあるのだろう。
そして、俺の中にある“答え”だってそうだ。
正解のない問いだからこそ。
俺は己の答えを、
「生徒会長にふさわしいヤツ。それはさ……」
自分勝手に“正解”にしてやろうじゃないか。
「生徒会長に……なりてぇと思ったヤツだよ」
俺はそう口を開きながら、全校生徒の脇でこちらをジッと見つめる野伏間を見た。
目があった瞬間、野伏間は驚いたように息を呑む。
(なぁ、野伏間君)
立派でなくてもいい。
バカでもいい。
とんだお調子者でも、役立たずでも。
やりたいと思ったヤツが、前に出て手を挙げればいい。
行動を起こして、やりたい、なりたいと、叫べばいい。
たったそれだけでいいんだ。
別に、難しく考える必要なんてどこにもない。
生徒会を壊されたくない。
生徒会でいたい。
居場所を、奪われたくない。
そう、思うのなら。
手を挙げればいい。
「よって、俺はここに生徒会選挙のあり方を変える事を宣言する!従来の推薦投票制を廃止し、新たに立候補投票制への移行を学校側へ願い出る!それに伴い、生徒会にのみ与えられていた授業免除、特別施設利用の権限、その他諸々の特権も同時に廃止する!」
簡単な事だろ、なぁ
野伏間君。
「その手始めとして、まず俺が立候補投票制での生徒会長選挙の見本をみせよう!」
見ててよ。
俺がまず、見本をみせるから。
バカでも、役立たずのお調子者でも。
「手さえ挙げれば、誰だって生徒会長候補だ!」