死にたくなかったなぁ。
そう、目をつぶった俺の前に現れた新たな人生。
俺は振り返りたくなるのを必死でこらえた。
帰りたい場所が背中の向こうに広がっている。
会いたい人達が居る背中の向こう。
けれど、俺は前にしか進めなかった。
だから、泣きたくなるのを堪えて先に進んだ。
一人で先へ進んだんだ。
歩くたび、背中の向こうの世界から離れるたび、俺は昔の理想の俺へと近付いて行った。
(俺、今度生まれ変わるならかっこいい生徒会長がいいなぁ)
(仕事もバリバリできて)
(そんで、すっげーイケメンでさ)
(あ、頭もすっげー良くってさ)
(誰からも頼られて、んでもって面白くて)
(役立たずなんかじゃない、生徒会長になれたら)
(いいなぁ)
そんな理想の俺。
けど、やっぱそんなに人生甘くなくて。
顔が良かろうが、勉強ができようが、仕事ができようが。
理想の俺でも新しい道の先にある世界は難しかった。
役立たずになりたくなくて、新しい人生でも俺はバカみたいに頑張った。
一人で何でもできるようになりたかった。
現に、昔とは違っていろんな事が一人でできた。
でも、それでも俺は迷ってしまった。
不安になってしまった。
昔も、そして今も。
俺が理想の俺に変わっても、やっぱり俺は一人じゃ何もできないヤツだった。
じたばたともがく俺に、ふと声が聞こえた。
(一人で何でもできる生徒会長になりたかったわけじゃないよ、俺は)
あぁ、そうだ。
俺は“一人”で何でもできる人間になりたかったわけじゃない。
なぁ、新谷 楽。
俺はお前の理想の俺になったけど、やっぱり迷ってばかりの役立たずだ。
なぁ、西山 秀。
今は少しだけ頑張るのをやめにしよう。
次に目を覚ますまで、
次に、俺の手に誰かの手が握られるまで。
少しだけ、
目を閉じて、手を伸ばしてみよう。
こうして少年は、また目を開いた。
こうして物語は、
始まりを迎えた。
【始まり】