【俺はここに宣言する】
野伏間×西山(新谷)
本編では恋人とかそういうのは全然表に出てこなかったですが、この話では恋人前提です。
珍しくキス的な事をしたり、顔を舐めたりしている。
頑張ってBL目指したよ。
そういうお話です。
野伏間君が熱を出した。
インフルエンザらしい。
もちろん、野伏間君の姿は学校にはない。
そういえば、今日から野伏間君の部屋は隔離するんだと、保険医が言っていた。
だから、俺も野伏間君の部屋には入ってはいけないと。
俺、野伏間君の彼氏なのに、恋人なのに入ったらいけないんだと。
そう言われた。
「そんな言う事を俺がきくわけがないっ!」
俺は急いで店員君の居るコンビニへ行って雑炊の元とコーヒー牛乳、それに冷えピタを買うと袋を振りまわしながら野伏間君の部屋まで走った。
そんな俺の後ろ姿を店員君がなんとも言えない顔で見送っていた。
「ひゃっほう!」
ちなみに今は授業中だがそんな事は知らない。
野伏間君の居ない教室など、コーヒー牛乳のないコンビニくらいあり得ない。
いや、決して授業をさぼりたいとかそういうのではない。
だって、野伏間君の居ないなんてつまらなくて仕方が無いじゃないか。
俺はなんだか心細い気分を紛らわせるために、手に持っていた袋をめいっぱい振りまわしたら袋がちぎれて中身が廊下に散乱してしまった。
「ひいいい!」
最近のビニール袋のもろさを知った。
俺は誰も居ない廊下で一人あわあわしながら商品を拾うと、腕の中にそれらをおさめ、全力疾走で寮まで走った。
野伏間君は、きっと寂しくて泣いてると思うので俺が早く行ってあげなければならない。
熱の時こそ恋人の本領が発揮されるんだい。
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「ダメだって何度言ったらわかるんだい?」
「先生!俺は我慢した!ずっと我慢した!」
俺は野伏間君の部屋のチャイムを押して出て来た白衣姿の保険医に向かって叫び散らした。
何で恋人の俺が恋人の一大事にかけつけられなくて、こんな金髪のチャラそうな保険医にその座を奪われないといけないんだ!
俺はいやだいやだと野伏間君の部屋の前で地団太を踏むと「困った」とばかりに顎に手を添える保険医の姿を睨んだ。
我慢した。
俺はずっと我慢した。
「先生は昨日、明日なら良いって言った!」
「……今日も熱があるからダメだ。西山君に移ったら生徒会も困るだろ?」
「……先生はウソツキだ!」
野伏間君が熱を出した。
インフルエンザらしい。
もちろん、野伏間君の姿は学校にはない。
そういえば、今日から野伏間君の部屋は隔離するんだと、保険医が言っていた。
3日前に。
そう、俺は3日間も野伏間君の顔を見ていない。
俺は野伏間君がインフルエンザにかかった初日から野伏間君の部屋へ行った。
そしたら、今のように保険医が今日は熱が高いからダメだって言った。
明日なら大丈夫かも、なんて言われて俺はその言葉を信じて、今日みたいに買ってきたものを先生に渡して、自分の部屋から野伏間君に「明日ぜったいお見舞い行くね」とメールした。
返事はなかった。
次の日、俺は同じように野伏間君のお見舞いに行った。
先生は「今日も熱が高いから会うのはダメ」と言った。でも俺は言う事を聞かずに入ろうとした。
そしやら、その時野伏間君からメールが来た。
『カイチョー、部屋の外で騒がないで。うるさい。今日はもう寝るからお見舞いはいい』
俺はなんだか悲しくなったが『うるさい』と言われたのがショックで、それになんかしょぼんとなってしまって、大人しく隣の自分の部屋に戻った。
野伏間君は俺が居なくても寂しくなさそうな感じだ。
保険医が居るから寂しくないのかもしれないって思ったら、俺はもっと悲しくなった。
そして、今日。
俺はもう我慢の限界だった。
先生はウソツキだし、野伏間君は俺なんかいなくても平気そうだし。
でも、野伏間君は平気かもしれないけど俺は寂しくて死にそうだ。
そこんとこを、野伏間君は全然わかってない!
俺は兎のように繊細な高校3年生なのだという事をわかってない!
「先生の屍を越えて、俺は行く!」
「いや、俺を勝手に倒すべき相手にしないで」
「ゆくぞ!」
そう言って俺は先生に襲いかかった。
若さと言う武器が俺にはある。
チャラい運動してなさそうな保険医になど、俺が負ける筈がなかろうが!
なんたって俺は現役イケメン生徒会長なんだぜ!
「そらっ」
「っえ!?」
俺は先生のきゃしゃだと思っていた腕に、見事ふっとばされていた。
俺の背中が向かいの扉に激突する。
リアルに「かはっ」ってなったわ!
ドラゴンボールの戦闘シーンを見事再現してしまったかのような状態だわ!
ものの見事に俺負けたんですけど!?
掛け声の「そらっ」とか言う軽いノリで、俺ってば結構な勢いで吹っ飛ばされたよ!
「……いだい」
「いい加減に帰りなさい。ちなみに俺は昔柔道をやっていました」
「まーさかの!それなら手加減してください!?」
素人吹っ飛ばすとかなんなのこの人!?
白木原か!?お前は白木原か!?
俺は腕の中に抱えていた野伏間君へのお土産が周りに散らばってしまったのを見て、なんだか徐々に悲しくなってきてしまった。
3日も会えないなんて、俺は寂しいよ。
野伏間君がいなきゃ、学校、つまんないよ。
野伏間君は、ちがうのか。
「ひぃぃぃん、ひぃぃぃん」
「泣いたー!泣くなんて反則だよ!こんなとこ誰かに見られたら俺が悪いやつみたいじゃん!」
「ひぃぃぃん、野伏、間君にあい、たいようう」
俺はあらん限りの声で泣き喚いた。
高校生にもなって泣き喚くなど見苦しいにも程があるが、押しても引いても襲いかかってもダメなら、もう泣くよりほかない。
これでまた『うるさい』ってメールが来たら、もっと大声で泣いてしまうかもしれないが。
そう俺が顔を両手で覆いながら泣いていると、それまで締まっていた保険医の後の扉がゆっくりと開いた。
「カイチョー、うるさいよ」
「のぶずまぐううん!!うぃぃぃん」
俺は久しぶりに見た野伏間君の姿に急いで駆け寄ると、寝間着姿の恋人に抱きついた。
体が熱い。きっとまだ熱があるんだ。
そして俺がうるさいから眠れなくて出て来たんだろう。
でも、それでも俺は会えて嬉しい。
グリグリと俺は野伏間君の胸に顔を擦り付けるとがっしりと背中にまわした腕に力を込めた。
こうしたからにはインフルエンザだろうが、サーズだろうが、ノロウイルスだろうが、どうあっても俺は野伏間君から離れない。
保険医が柔道技をかけてきたって、俺はもう野伏間君から離れないのだ。
「カイチョー……、ほんとに。もう」
「ふひゅう、うふい、ううう。今日は俺は野伏間君と寝る。一緒に寝る。そうじゃないと俺はしぬ、しぬのである」
「うおい、教師の前で恋人との同衾宣言しないでくれる」
「いやいやいやいやいや」
「先生、もうこれは離してくれないだろうがら、もう移るの前提で一緒に隔離させて」
俺は頭の上から聞こえてくる野伏間君からの素敵な提案に、更に野伏間君の体に抱きついた。
もう離さぬ。
「ええぇぇ、それもし何かあったら俺の責任問題になるんですけど」
「全責任は俺が取る。何故なら俺は生徒会長だから」
俺はしぶる先生に顔だけ向けて出来る限りキリリと言ってやった。
まぁ、多分鼻水と涙と涎が垂れ流しになっているだろうが、俺はきっとイケメン顔だから許されるに違いない。
「その見苦しい顔で言われてもね」
許されなかった。
俺がまたしても泣き叫んでやろうかと、口を大きく開いた瞬間。
俺の顔はグイッと熱い、そして懐かしい手に引っ張られていた。
そして、開きかけた口が何かで塞がれる。
「っふ、ん」
うお、俺は今凄い勢いで野伏間君にキスをされている。
しかも、タダのキスではない。
あの、有名な大人のキスだ。でぃぃぷキスだ。
「っふぁ。んっ、ぁん」
熱い、熱い野伏間君の舌が俺の口の中をまさぐるように動き回る。
俺は上の歯の歯茎をなぞられるのが好きだ。
野伏間君はそれを知っているから、これでもかと言う位その部分を攻めてくる。
あぁ、いつもよりめっちゃ熱いけど、その熱いのが気持ちいい。
あぁ、さすが野伏間君だ、さすが俺の恋人だ。
「のぶ、すま、ひゅっ、んん」
俺もいつの間にか夢中になって野伏間君に舌を絡めた。
また別の意味で口の端から涎が垂れる。
ピチャピチャという水音が耳に響く。
あぁ、なんてエロいんだろう。けどやってる俺としては気分が煽られてとてもいい気分。
そう、俺がもっともっとと野伏間君の背中の手をぎゅうっと抱きしめた時。
野伏間君の口が離れた。
「ええええええ」
思わず漏れる俺のガッカリ声。
そりゃあそうだろ、これからって時になんなのこの子。
恐ろしい子だわ、ほんと。
これでも思春期の男子高校生ですか。
寸止めとかやばい、おそろしいすぎる。
そんな俺の声に野伏間君は苦笑しながら俺の口の端にある涎を舐める。
それどころか、涙も鼻水も舐める。
「んっ、ふひぃ」
すげぇ、この人。
俺の、変な声が止まらない。
恋人だからって鼻水まで舐めてくれるなんて、ちょっとやばい。
そして、舐め方がいちいちエロくて絵になる。
俺の鼻水もエロく感じる程に。
「先生、もうここまでやったらカイチョーにも移っっちゃったんじゃないかなぁって思いません?」
野伏間君の言葉に俺はハッとした。
野伏間君の素敵過ぎる舌技にハマって忘れていたが、俺の本来の目的は、そうだ、そうだったじゃないか!
「せんせい、俺、今体内でインフルエンザウイルスが増殖してるのを感じる。やばい、もうなんか体だるい。こりゃもうインフルが体内で我が物顔だわ」
「だってさ、センセイ」
その野伏間君の笑みと共に零れた言葉に、先生は「はぁ」と溜息をついた。
そして、疲れたように言った。
「もう、勝手にしてなさい」
その言葉に、俺は飛び上がるとまたしても野伏間君に力強く抱きついた。
やった、やった!
今日は野伏間君と一緒だ!
「野伏間君!さみしかった!俺さみしかった!野伏間君!今日はずっと一緒に居て!」
「まったく、カイチョー。本当に移ってもしらないからね」
そう言って俺の頭を撫でてくれる野伏間君に、俺は「ふひ」と笑うと頬ずりした。
俺は大丈夫だよ、野伏間君。
俺は馬鹿だから、風邪はひかないんだ。
それに引いても野伏間君と一緒ならなんでもいいんだ。
俺がそう思って笑っていると、野伏間君が熱い唇を俺の耳に近付けて、耳たぶにキスしながら言った。
「俺も寂しかったよ。……かいちょうっ」
俺はその言葉になんともかんとも体の熱が上がったような気がした。
まぁ、仕方が無い。
俺は男子高校生なのだ。
恋人を前に熱くならずにはおれぬのだ。
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ちなみに、俺はその後ずっと野伏間君とめちゃくちゃイチャイチャしたり、エロい事をしたりしたが、ぜんぜんインフルエンザにはならなかった。
予防接種もしてねぇのに、俺すげえ!
ちょっと野伏間君は引いた顔してたけど!
おわり
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おまけ。
「カイチョー、気づいてないだけでめっちゃ熱出てるし……」
眠る俺の頭に触れながら「えぇぇぇ」とおののいている野伏間君が居た事を、俺は知らない。