ヤスキ先生、拓道君の番組をにこにこで見る

 

【忘れられない記憶】番外編3

 

タイトルの通り、ヤスキ先生が拓道君の出ている番組をにこにこしながら見ています。ヤスキ先生の中には三人の拓道君が居る、そんなお話です。

 

 

拓道×ヤスキ

【本編】後、二人は結婚式を挙げて同棲している状態です。

※後半、拓道の出ている【方言番組】を見ている、という設定の他作品のキャラのお喋りも掲載します。

 

 

 

 


 

【ヤスキ先生、拓道君の番組をにこにこで見る】

 

 

 野澤ヤスキは、世代的にガッツリとテレビっ子だった。

 幼い頃は、大家族の長男という事もあり、自分の見たいテレビ番組をリアルタイムで見れる事など、そうそうなかった。

 

 その反動だろうか。

 今や娯楽は多岐に渡るこの現代で、ヤスキは未だに、出来るだけ、見たいテレビはリアルタイムで見る事を心掛ける。

 

「さてさて。お酒も準備したし、ゆっくり見るぞー!楽しみだなぁ。」

 

 そのヤスキが、今週は絶対に見逃さないようにと、スマホのスケジュール機能に予定を落とし込み、録画予約もバッチリしているのが――。

 

 

【貴方の方言はどこにランクイン!?日本の方言ランキング!】

 

 

「わぁ!ほんとに、拓道君が司会者じゃなくて、ひな壇の方に居る!珍しいなぁ!」

 

 ヤスキは流れ始めたテレビ番組をニコニコと見つめながら、楽し気に拍手を送った。一人暮らしの長かったヤスキは、こういった独り言とジェスチャーが、そこそこ激しかった。

 なにせ、朝の情報番組の終わり「それではみなさん、今日も元気でいってらっしゃい」という、アナウンサーからの投げかけに、律義に「行ってきます」と答えて出勤する男だ。

 

 最早、どの番組に対しても、まるで話し相手であるかのように、独り言をツラツラと口にする。この癖は、一人暮らしではなくなった今も、消える事はない。

 

『いやぁ、こっち側に座る事ってないので、なかなか変な感じがしますねぇ』

『平川アナの代わりに、今日は私が司会を務めさせて頂きます!頑張ります!』

 

 画面に映るのは、新人の女性アナウンサーが一生懸命司会者として立ち回る姿。

 

「はぁ、緊張するなぁ。柊アナ頑張って!何かあったら拓道君がフォローするんだよ!」

 

 新人アナウンサーへの感情移入を深めに持ち始めたヤスキは、何を隠そう、昔からアナウンサーという職業が好きだった。

 

 特に、高校生の頃は「俺さ、将来はアナウンサーになるわ!なんでって、そりゃあ女子アナと結婚したいからに決まってんだろ?今から野球選手は無理だからな!アヤパンみたいな女子アナと結婚したい!」という、ド痛い台詞を、結婚式の際、友人に動画と共に暴露されてしまった程である。

 

「クソ……マジで庄司のヤツ、絶対許さん。覚えてろよ」

 

 今までにない口の悪い呟きが、テレビの笑い声かき消される。

 ヤスキはあの時の雪辱を、今度はその友人の結婚式の時に必ずや晴らしてやろうと思っているのだが、まぁ、それは今は別の話である。

 

「っは!ちゃんと見ないと!拓道君は……いる!ちゃんと居るね!」

 

 そりゃあ、同じ番組が続いているのだから居るだろ。と、そんなツッコミは勿論、入らない。

 

 そうこうしているうちに、ランキングはどんどん進んでいく。先程までは【女の子に話して欲しい方言ランキング】で、福岡は見事一位を取っていたが、次のランキングはどうだろうか。

 

 

「わっ!次は【男性に告白されるなら、どこの方言が良いか】ランキングかぁ。まったく、面白いランキングを作るねぇ」

 

 四十七都道府県のうち、一気に三十七位分までは一気に画面に表記される。どうやら、そこにはまだ「福岡」の文字はなさそうだ。これまでの番組の流れ通り、十位から順に街角インタビューを交えながら、番組が進行していく。

 

「へぇ、いろいろあるもんだなぁ」

 

 どの地方の方言も、聞き馴染みがない故、聞いていて面白い。特にどこの方言が気になっただろうか。

 

「広島弁もいいよね」

 

 ヤスキは先程のランキングの中で、広島出身の若手女優の言っていた「~じゃけぇ」という、柔らかいイントネーションの話し方に静かに頷いた。良い。あぁ、なんて酒の進む番組だろうか。

 

 

『さて、【男性に告白されるなら、どこの方言が良いか】ランキング!ここに来て、平川アナの出身地である、福岡がランクインしましたね!惜しい、三位ですね!』

『いや、私としては、コレは絶対に関西勢が強いと思っていたので、予想外ですよ。へぇ、女子の皆さんは福岡弁で告白されたいんですか?』

『街角でインタビューをしてみたところ、多分“九州男児”っぽいイメージがあって、そこが上位ランクインの要因みたいですよ?』

『なんやん!さっきは【女子に話して欲しい方言ランキング】では可愛いとか言って一位やったとに。こっちは俺様っぽいっちゅう理由で上位?可愛さと俺様、両方兼ね備えるとか、福岡敵ナシやん!』

 

 

 画面の中の拓道が、少しばかりサービス精神旺盛な「福岡弁」を流暢に口にする。

 

「拓道君は上手に他県の人が聞き取れるレベルの方言を使うねぇ。本気で喋ったら、絶対伝わらないのが分かってるからなんだろうけど……方言の塩梅が上手だよ!上手上手!」

 

 まるで、画面に映っているのが、小学生の頃の拓道であるかのようなテンションで、ヤスキは拍手をする。少し、酔いが回ってきたようだ。顔が少し赤い。

 

 

『それでは街角での福岡弁へのインタビュー結果をどうじょ』

『どうじょって。柊アナ噛んどるやん』

『もう、止めてください!先輩!』

 

 

 拓道のツッコミに慌てる新人の柊アナに、ヤスキは酒をもう一口流し込む。

 

「はぁ、本当に二人共立派になって」

 

 酔いの回ったヤスキにとっては、二人共生徒も同然……というか、二人共、実際過去に教え子だった子らだ。

 

 拓道も新人アナウンサーの柊アナも。

 拓道に至っては、今や人生のパートナーなのだが、画面に映っている時は、その気持ちも少しばかり薄れる。

 

 なにせ「平川アナ」として、見ていた時間の方が、ヤスキにとっては断然長いのだ。故に、ヤスキにとっては、平川拓道は“三人”居るような感覚に近かった。

 

 小学生の頃、教え子だった平川拓道。

 テレビで見るようになった、アナウンサーの平川拓道。

 そして、共に人生を歩むようになったパートナーとしての平川拓道。

 

「ひとりで、さんにんまとめて拓道君を手に入れたなんて。たいりょうだよ」

 

 ヤスキはご機嫌な様子で、そう口にした。もう完全に酔っぱらいだ。

すると、それまで「可愛い」「かっこいい」と福岡弁について、街角の女性達が答えていた中で、一人の女子高生が言った。

 

——-私、博多弁で告白されてみたいです!

 

 そして、お決まりのように、この女の子のインタビューの直後、画面がスタジオに返される。この後の流れは、酔っぱらったヤスキにすら予想できた。

 

『だそうですよ、平川アナ?』

『えぇぇ、こういうの私みたいな枠でやっちゃっていいんですか?普通男性俳優とかのイケメン枠でしょ』

『まぁ、今そこに座っているのが平川アナしか居ませんからね』

『めっちゃ言うやん。柊アナ、絶対さっきの根にもっとるやろ?ごめんて!』

『いや、嫌がらせとかじゃないですから。テレビ的にここの流れは、博多弁で告白してもらわないと』

『私でいいんですか?』

『いいんですよ?』

 

 

 画面の向こうの二人はやけに楽しそうだ。それに対し、ヤスキもテレビ画面のこちら側から「いいんですよー」と声をかける。

 かんぜんに、酔っ払いである。

 

『分かりました。じゃあ、やりましょう』

『あ、方言でお願いしますね』

『分かっとっけん!』

 

 ヤスキの期待は高まる。一体、画面の中の拓道は博多弁で、どのように告白するのだろうか。そう、固唾を呑んだ瞬間だった。

 

「もう、やめてーーーー!?ヤスキ!もう、テレビは消します!寝る時間です!」

 

 画面が消えた。いや、消された。

 ソファで隣に腰かけていた拓道に。実は、最初からヤスキの隣には拓道が居たのだった。ただ、拓道は黙って見ていた。楽しそうに独り言を言うヤスキを。

 

 それが平川拓道の普段の楽しみでもあったのだが――。

 

「あぁぁぁぁっ!なんてことをっ!」

「テレビに出始めて十年以上経って!今更こんなに自分の出た番組見るのが恥ずかしい事なんてなかっちゃけど!?あと、なん!?ずっと独り言が可愛い過ぎっちゃけど!?なんねさっきから!わざと!?煽っとっと!?」

 

 今回ばかりは番組が悪かった。

いくら拓道と言えど、普通に恥ずかしい。恥ずかし過ぎた。

 

「だいじょうぶ!たくみくんは、はいゆうくらいイケメンだよ!だから、りもこんをよこしなさい!」

「もうベロベロやん!」

「たくみくんの告白がききたい!」

「したやろ!?ヤスキには!直接マジのやつば!したやん!もうそれでよかやん!」

「おれは、ひらかわアナの告白が聞きたいんだーー!」

「え、ナニソレ。別枠にされてんの、めっちゃ、複雑なんですけど。ヤスキって、めっちゃアナウンサーの俺のファンやんな」

「推しじゃけぇ!」

「酔っぱらってるせいで、どこぞの方言が混じっとる……可愛い。ほら、ベッド行こうね」

「ひらかわアナの、あいのこくはくが、ききたかった。ききたかった」

「……はぁ」

 

 最早、酔っ払い幼子のような口調で愛の告白を所望するヤスキに、拓道はヤスキの肩を抱きながら、深く息を吐いた。

 

「テレビの前の貴方。ワガママばかり言わずに、今日もゆっくりおやすみなさい」

「っ!!!!!」

 

 次の瞬間、酔いなど一発で醒めたヤスキが、推しからの最高のファンサに、その場に激しく倒れ込んだ。

 野澤ヤスキは現在、元生徒であり、推しでもあり、人生の伴侶と共に、毎日たくさんの独り言を口にしながら暮らしている。

 

 

 おわり!!

 


※方言ランキングは、本気でテキトーなのであしからず◎

次頁【方言を喋らせてみた】(Twitterのお喋りまとめです)

忘れられない記憶より、愛を込めて 番外編3
米騒動
タイトルとURLをコピーしました