「くぁ、ダリィ」
ある休日の事だ。
俺が暇すぎてブラブラしていると、道路の向こう側に敬太郎を見つけた。
「お、敬太郎」
その頃には、あの漫画を見つけた直後のような気持ちは、だいぶ落ち着いていた。敬太郎も特に変化はない。
そう、俺達は無事に“幼馴染”のままで居る事に成功しているというわけだ。
「あー、どうすっかな」
声をかけようか迷っていた所に、ふと、敬太郎の隣に俺の知らないヤツが居るのに気付いた。多分、クラスメイトか何かだと思う。だったら、声はかけずにおいてやるか、と、俺が再び大きな欠伸を漏らした時だ。
「は?」
すると、ソイツは敬太郎の肩に手を回し、そりゃあもう楽しそうに笑っていた。二人はピタリと体をくっつけ合ったまま、あろうことか敬太郎も楽しそうに笑っている。もしかしたら、俺と一緒に居る時よりも、楽しそうなんじゃないだろうか。
「なんだよ、ソレ」
その瞬間、俺はどんなに喧嘩で殴られた時よりも、そんなの目にならないくらいの衝撃を受けてしまっていた。まるで、リンチでも受けたようだ。
「は?」
ヒクリと呼吸が変な所で止まる。
どこも殴られてねぇのに、どこもかしこも“痛かった”。衝撃も凄い。心臓の音もウルサイ。
ただ、俺はどうして良いのかも分からず、そのまま通りの向こうの敬太郎を見送る事しか出来なかった。
「なんだよ……敬太郎」
俺の事が好きなんじゃなかったのか?
〇
そして、その日から異様に目につくようになった。
何がって?そりゃあ、敬太郎だ。
事あるごとに、敬太郎が目につくようになったのだ。しかも、だいたい他の男と楽しそうにしている姿なのだから堪らない。
「っは」
学校に行けば、アイツは俺には話しかけてこないので、だいたい他のヤツらと楽しそうにしている。どう見ても「ゼッテー俺の方が良いだろ?」って奴と、めちゃくちゃ近い距離で笑い合っている。キモ過ぎだろ。
ただ、そんな姿を見てると、俺は妙に焦ってしまうのだ。
もしかして、敬太郎は俺の事を諦めたのか?と。
「……別に、いいじゃねぇか。それで」
俺は、俺じゃないヤツと、楽しそう笑う敬太郎を横目に見ながら思う。
それなら、それでちょうど良かったじゃねぇか。俺は敬太郎とは“幼馴染”で良いと思ってたわけだし。
男同士なんて無理だし。キメェし。
なのに、どうしてだ。
「なんでだよ、敬太郎」
俺は家にある、あの漫画を捲りながら思う。
幼馴染だった二人が、そりゃあもう気持ち良さそうにセックスをして抱き締め合う姿を見て、俺は思うのだ。
「まさか、敬太郎。コレを他のヤツとするんじゃねぇよな?」
口に出して想像すると、そりゃあもう凄まじい吐き気に襲われた。
敬太郎が、俺の知らねぇ男とセックスをする。
「あり得ねぇだろ」
は?なんだと?そんなのありえねぇだろ。でも、だからと言って、俺と敬太郎がコレをするのもあり得ない。
「あぁぁぁっ!クソッ!訳わかんねぇ!」
俺は持っていた本を放り投げると、勢いよく起き上がった。丁度、敬太郎の家に行く時間だ。もうグダグダ考えるのは止めた。こういう時、俺はともかく走るのだ。敬太郎の家に、敬太郎の所に。
前もそうだった。
——-一郎って呼べ!
俺は、考えるより動いた方が断然上手くい。多分、そういうタイプだ。