1:このアカウントは存在しません

 

 

『あれ?』

 

 携帯の画面に映し出された言葉に、俺は思わず目を見開いた。過去の「いいね」を貰ったリンクから、もう一度アカウントへと飛んでみる。

 しかし、何度繰り返してもやはり同じ言葉が画面に踊っていた。

 

 いや、踊ってない。何だ。その表現。そんな愉快なテンションじゃないだろ。画面に……“こびりつく”。うん、どっちかって言うとそんな感じ。

 こすって消したい。でも、消えない。

 

【このアカウントは存在しません】

 

 そんな、どこか呆然とした気持ちで、SNSのアカウントのプロフィール画面に目を奪われた。「豆乳」というアカウント名の横に付く、鍵のマーク。

 フォロー0      フォロワー0

 

『なんで?』

 

 確かに昨日までは、フォローもフォロワー「1」だった筈だ。けれど、今このアカウントは誰とも繋がっていない。ゼロだ。

 

『……キッコウさん、アカウント消しちゃったんだ』

 

 そんな素振り、昨日までは何も無かったのに。昨日も短いけれど一本小説を更新したのに。

 

『……なにか、あったのかな?』

 

 このSNSアカウントを作って丸3年が経過したその日。唯一のフォロワーであったキッコウさんが消えた。

 

『もしかしたら、サイトにメールが来てるかも』

 

 一縷の望みを込めてサイトの受信ボックスを覗いてみる。けれど、メールの受信ボックスはいつ見ても「0」だった。

 

『今は……ちょっと忙しいだけだよな。アカウントも、携帯が……壊れた、とか』

 

 そう、自分に言い聞かせ、小説は更新し続けた。短いモノだけでなく、少し長いシリーズモノも。きっと、コメントが無いだけで、見に来てくれているに違いない。

 

 ただ、その後も、キッコウさんからの感想メールが届く事はなく、SNSのアカウントもメールの受信ボックスも、いつ見ても「0」のままだった。

 

 そして、キッコウさんが消えてから一ヶ月後。

 

『もう、いいや』

 

 俺は、小説の更新を止めた。だって、書いても全然楽しくないのだ。

 

『就活しないと』

 

 大学四年でちょうど就活も本格的に開始せねばならなかった時期。目まぐるしく変化する日常の中、そこから、俺はサイトもSNSも一切見なくなり――。

 

 

 

 五年の月日が流れていた。