12:このアカウントに嘘偽りは存在しません

 

 

 茂木君の部屋に来た。

 

 

「お邪魔します」

「どうぞ」

 

 一人暮らしなので仕方がないが、キッチンは部屋に入った通路に付いていて、部屋は一つ。広いとは、お世辞にも言えない部屋だった。

 

「へぇ」

 

 一人暮らしの部屋って、このくらいのサイズ感なんだ。勉強になるな。……創作の。

 

「狭くてすみません」

「ううん。凄く綺麗な部屋だね」

 

ただ、狭くても茂木君の部屋は、とてもスッキリしていた。無駄がないというか、モノが少ないというか。ともかく、ごちゃごちゃした俺の部屋とは大違いだった。

 あるのは、ベッドと小さな机と、そして……一台のノートパソコンくらいだ。

 

「茂木君、買ってきたモノはどうしようか」

「冷蔵庫にしまいますので、廊下に置いておいてください」

「うん」

 

 手伝うとは言ったものの、あのキッチンでは男二人が並ぶには少しキツそうだ。冷蔵庫に食材を仕舞う茂木君の傍をウロウロしていると、「部屋でゆっくりしていてください」と言われた。

 

「ベッドに腰かけてもらって構いませんので」

「あ、うん」

 

 頷いたものの、外をうろついたしたスーツのまま他人のベッドに乗るのはどうかと思ったので、床に座り込んだ。茂木君はしばらく戻って来なさそうだ。

 

「……よし」

 

ここで、俺は決意を固めた。SNSを見る決意を。

 

「か、鍵開けちゃったけど……大丈夫かな。変なコメントとか、荒らしとか来てないかな」

 

 怖くて、昼休みに鍵を開けてから、ずっと見ていなかった。あと、ここに来るまではずっと茂木君と話していたし。

 

フォロー:1   フォロワー:2

 

「あ」

 

 開いたSNSには、通知を示す赤い丸。そして、一人だけ増えているフォロワー。そこに居たのは、もちろん。

 

「しょうゆさん!」

 

———-

しょーゆ   3時間前

豆乳さーん!教えてくれてありがとうございますー!

さっそくフォローさせて貰いました!

これからよろしくお願いしまーす!

———–

 

「ふへ」

 

 思わず、変な笑みが零れた。なにせ、しょうゆさんは、物凄く過去の投稿まで遡って「いいね!」をしてくれていたのだ。

 たいした事は書いていないのに、いいね!が貰えると嬉しい。さすが、俺はかまってちゃんなだけはある。

 

 よし、俺もしょうゆさんをフォローしよう。これで、相互フォローってやつだ。

 

「大豆先輩、どうされたんですか?」

「ううん!何でもないよ!」

 

 俺はスマホをポケットに仕舞いながら、振り返った。

 

「ベッドに座っていてくださって構わなかったのに」

「ううん。俺、床で」

 

大丈夫だよ、と言おうとした。けれど、最後まで言い切る事は出来なかった。

 

「そんな、神様を床に座らせるなんて出来ませんよ」

「……え?」

 

 俺は、いつの間にかベッドの上に寝ていた。あれ?さっきまで床に座っていたと思ったんだけど。なんで?どうしたんだろ?勘違いじゃなければ、茂木君に抱えて連れて行かれた気がしたのだが。

 

「どうぞ、ごゆっくりされてくださいよ」

「あ、あれ?」

 

何やら、両腕が頭の上で固定されている。どうやら、茂木君が片手で俺の手首を拘束しているようだ。あれ?なんで?ちょっと、痛い。

 ていうか、なんで、こんな間近に茂木君の顔があるんだ?

 

「何でですか?」

「え?え?茂木君、どうしたの?」

「何で、」

 

——-鍵開けてるんですか?

 

 

 そうやって俺の目の前に差し向けられたのは、見慣れたプロフィール画面だった。

 

———-

豆乳

@maroyakamainiti

創作BLサイト【まろやか毎日】を運営しています。日常の事を呟く事が多いです。

フォロー:2   フォロワー:2

———-

 

 

「変な奴からフォローされてるし。しかも、フォローし返してるし」

「……え、えと」

 

 一瞬、俺のスマホを見せられているのかと思った。でも、違った。俺のスマホは小さい。だから、茂木君の大きな手いっぱいに握り込まれているコレは、俺のスマホじゃない。これは茂木君のだ。

 

「俺にしか見られたくないって言って作ったアカウントじゃないですか?」

「……も、茂木くん?」

 

 いつの間にか、俺の体の上に茂木君が居る。両手は頭の上で拘束されて、目の前には茂木君のスマホ。その上から凄まじい目つきで俺の事を見下ろしてくる茂木君。

 そして、茂木君は次の瞬間ハッキリと言った。

 

「豆乳さん、何で鍵開けてるんですか?何で他のヤツからフォローされてるんですか?もしかして、俺が感想を送らなくなったからですか?」

「っ!」

 

 今、ハッキリと茂木君は俺の事を「豆乳さん」と言った。さすがの俺も、ここまで言われたら彼が誰なのか理解せざるを得なかった。

 

 茂木君が、

 

「き、キッコウさん?」

 

 キッコウさんだって。

 

「はい。オフでキッコウとしてお会いするのは初めてですね。すみません。こんな狭い部屋でお出迎えする事になって。もう少し稼げるようになったら広い部屋に引っ越しますので。一時間半の出勤時間は辛いでしょう。職場から、一番近いマンションを借りますので」

 

 キッコウさんの目の中に、俺が映る。

 

「まぁ、それはそれとして、です」

「……」

 

そうか、この距離になると、相手の瞳に映る自分が見えるのか。でも、俺の表情までは見えない。そっか、そっか。良い事を知った。勉強になる。うん、創作の。

 

「俺だけにしか見られるのが嫌だって言って、鍵付きで作ってたのに。何勝手な事してるんですか?え?誰ですかコイツ。しょうゆ?見ました?コイツのプロフィール。死ぬ程、色んな作家をフォローしてますよ。豆乳さんだけフォローしてるワケじゃない。色んなトコロで良い顔して擦り寄って、こんな奴フォローしてたら、変な奴がどんどんアカウントに入ってきますよ?いいんですか?こわいでしょう?そんなの」

 

 茂木君は俺の入る隙など一切与える気などないようで、ペラペラと話続けている。ちょっと、色々早口過ぎて何にどう答えていいのか分からない。

 

「えと、えっと」

「俺、ちゃんと読んでますよ。今日、直接感想を言おうと思ってました。語彙力がなくて大変申し訳ないのですが、【慇懃無礼ですがなにか?】面白いです。さすがです。豆乳さん。やっぱり、貴方は神です。昔からずっとそう思ってましたよ。すみません、ずっと感想送れていなくて。でも、仕方ないじゃないですか。これ、俺がモデルなんでしょう。キャラやストーリーを褒めようとすると、まるで自画自賛みたいになってしまって、照れ臭かったんです。すみません。寂しい思いをさせましたね」

 

 何だ、コレ。何が、起こってる?

 どうしたらいい。頭の上で掴まれた腕が痛い。血が止まってしまうんじゃないかってくらいギュッって握られてる。身動きが取れない。だって、茂木君が俺の上に乗ってるんだ。ちょっと、苦しい。

 

「大丈夫、今日は寝ずに感想をお伝えします。文字に残らないのであれば、素直にお伝え出来ますので。ただ、直接感想をお伝えするのは初めてなので、至らぬ所や無礼もあると思いますがご容赦頂けると幸いです」

 

 近い。いつの間にか。スマホは目の前から無くなっている。茂木君の顔がくっつきそう。鼻なんか、もう今にもくっ付きそうだ。茂木君の息が顔にかかる。

 

「……ぁ、ぁ」

「豆乳さん、そんなに怯えないでくださいよ。俺のこと、怖いですか?ずっと、仲良くしてたじゃないですか。今更こんな事くらいで俺の事を嫌ったりしませんよね?もちろん、フォローを外したりなんてしないですよね?だって、そうですよね?あのアカウントは、俺と豆乳さんだけのアカウントなんだから」

「……っ」

 

 どうしよう、怒ってる?怒ってるの?なんで?誰が、怒ってる?

 

「更新分の続き。どうなるんですか?あぁ、まだ決めてませんか?いつも、俺がした事でストーリーを決めていらっしゃいましたもんね。俺が風邪を引けば、キャラも風邪を引いて。俺が昼食に誘えば、二人一緒に昼食に行かせて。じゃあ、そうですね。そろそろ物語も良い頃合いでしたし、二人に性行為をさせるのも良いかもしれませんね?」

 

 「どうですか?良い考えでしょう?」なんて言われながら、茂木君は俺のズボンに触れてきた。手慣れている。片手でベルトって、こんな風に外すんだ。ズボンも、こんなに簡単に下ろされるんだ。へぇ、そっか。シャツも全部ボタンを外さなくても、乳首まで見えるくらいにははだけさせられるんだ。

 

 へぇへぇへぇ。腕が痛い。

 

「男同士は初めてですけど、俺ちゃんとマニュアルも読んでるので大丈夫です。だから、そんなに怯えた顔をしないでください。全部終わったら、ごはんにしましょう。そして、あの変なアカウントのフォローも外して鍵に戻しましょうね。いいですか?いいですよね?その後、もし更新したければ、俺のパソコンを使ってください。でも、まぁ今日はきっと疲れてるでしょうから、全て終わったら今日は一緒に寝ましょう」

 

 キッコウさん、怒ってる。ずっと俺を睨んでる。どうして、俺は何も台本とか見てないし、ミスもしてない。何も怒られるような事なんてしてないのに。

 

 なんで、キッコウさんが怒ってるんだ?

 そんなの変だ。おかしい。だって、本当に怒りたいのは――。

 

「……豆乳さん。貴方のファンは、俺だけでいいでしょう?」

「キッコウさん」

「なんですか?やめませんよ?ほら、小説のネタだと思えば、」

「キッコウさん」

 

 俺は、やっと頭と感情が現状に追いつくのを感じた。

 

「……なんで、急に居なくなったんですか?」

「え?」

 

 ここに来て、それまでずっと俺を睨み付けて一人で喋っていたキッコウさんの表情が崩れる。間抜けだ。イケメンが間抜けな顔をしている。

 じゃあ、俺は今、どんな顔をしている?キッコウさんの瞳の中の俺じゃ、どんな顔をしているか見えないんだ。

 

「前、急にアカウント消しましたよね?何も言わずに俺の前から消えましたよね?」

「……ぁ、そ、それは」

「フォロー0になった時、俺、悲しかったです。でも、何か理由があると思って、一カ月毎日毎日キッコウさんが好きそうな話をたくさん書いて待ってました。でも、感想いっこもくれなかったですよね?構ってくれなかったですよね?」

「それ、は……」

 

 目の前の慇懃無礼な彼が戸惑った表情を浮かべている。

そりゃあそうだ。職場の出来の悪い先輩が、とんでもない事を言っているのだから。きっと、ドン引きしているに違いない。

 

「なんで?」

 

 SNS上での付き合いなんて、急に居なくなったり、疎遠になるなんてよくある事なのに。作品の感想だって、必ず貰えるモノじゃない筈なのに。それを、俺は……何を言ってるんだ。

 

「なんでっ!なんでっ!なんでっ!」

 

 頭の片隅で思う。俺は今、物凄くヤバイヤツだ。

 でも、止められない!止められないんだから仕方ないだろ!

 

「俺は!怒ってます!毎日感想くれてた人が、急に居なくなって!アカウントのフォローからも居なくなって!そのせいで、お話書いてても全然楽しくなかったです!」

「あ、あの。と、豆乳さ」

「茂木君が言ったんじゃないか!俺は構ってちゃんだって!キッコウさんが言ったんだ!俺は寂しがり屋だって!そうだよ!俺は目立ちたくないし、人前に出るのは苦手だし、喋るのも苦手だけどっ!」

 

 ヤバイ、こんなに本音を喋ったの、

 

「おれ、のごと、かまっでよ゛!!」

 

初めてだ。

 

「……大豆先輩」

「っうぅぅ、ぎゅうに、がんぞういうの、やべないで。ざみじい、いいねだけじゃいやだ。もっど、がまっで。がまってぇ」

 

 俺は、泣きながら一体何を言っているんだろう。

俺は、こんなにヤバい奴だったのか。でも、頭がぼーっとして。もう上手い事考えられない。やっぱりだめだ。台本がないと。こんな風になるのか。

 

「ぎっごうざん。おれ、ざみじいぃ」

「……ははっ」

「ぅぇぇぇっ」

「あははっ!」

 

 泣いている俺を、キッコウさんが笑って見ている。ひどい。何で笑うんだろう。慰めてくれたっていいじゃないか。もしかして、引いてる?コイツ、ヤバイ奴って思ってる?

 

 そんな事はない筈だ。だって、キッコウさんも変な事をいっぱい言ってたし。

それに、キッコウさんは――。

 

「あはははっ!最高!俺の神様、最高じゃないですか!」

「っひぐ。っひぐ……っけほっ。っぅぅぅ」

「ちょっとちょっと。待ってくださいよ、豆乳さん。俺、こんなに興奮したの、生まれて初めてです。俺、腐男子ですけど、ゲイってワケじゃなかったんですよ。コレ、どうしてくれるんですか?」

「っん」

 

 完全に、勃起していた。

 ズボンの上からでもハッキリと分かる。「ズボンの中で苦しそう」って表現、たまに創作BLで見かけるけど。本当だ。本当に苦しそうだ。

 

「っぅぅ、ぐりぐりしないでぇ」

「いいじゃないですか。豆乳さんも勃ってるんですから。小説に使ってください。布越しに勃起したモノ同士をこすりつけるって、よくありますよね?コレ、思ったよりエロくないですか?ね?」

「っふぅ、っん」

「気持ちいですか?その顔良いですね。受けの表情は、豆乳さんは見れないでしょうから、俺が後から教えて差し上げますよ。あぁっ!それか、鏡の前で立ちバックなんてどうですか!いいですね!鉄板ですよ!」

「っぁう」

 

 キッコウさん、楽しそう。

もう、いつの間にか俺の下着は剥ぎ取られて、下半身で身に付けているのは靴下だけだ。うん、これもBLでよく見る。

そんな事を考えていたら、いつの間にか勃起したちんこを上下に扱かれていた。気持ちいい。でも、今一番気持ち良いのはソコじゃない。

 

「どうですか?気持ちいでしょう?ねぇ、豆乳さん」

「っひぅっぁ」

 

 俺、今物凄く構って貰えてる。嬉しい。凄く、凄く嬉しくて仕方がない。そう、心が、凄く気持ち良いんだ。

 

「っはぁ、豆乳さん。また、鍵かけて、俺だけにしてください。そしたら、もう絶対に寂しい思いなんてさせませんから」

「っほん、とうに?」

「ええ、本当です」

 

 信用していいかな。また、急に消えたりしないだろうか。本当は、鍵なんて開けたくなかった。知らない人から見られるの、怖いし。

でも、構っては欲しい。そんなだから、もう、どうしていいか、自分でも分からなかった。

 

「っぁん!」

 

 物凄く熱いモノが俺のちんこに触れた。何かと思って見てみたら、キッコウさんの勃起したちんこだった。凄く大きい。熱い。固い。

 

「っぁ、っん」

「っく」

 

 キッコウさんの大きな手が、俺のとキッコウさんのを重ね合わせて擦ってくる。二人分の先走りの汁がいっぱい出てきて、ヌルヌルで凄く気持ちい。ナニコレ。すごい、BL小説みたいだ。

 

「っん、ん」

「っはぁ、っ本当です。信用してください。本当です。っそうだ。やっぱり、引っ越しましょう。貯金、ありますから。広いところに。豆乳さん、一緒に住んで。鍵、かけて、一緒に住みましょう。ね?良いでしょう?そうしましょう」

 

 そうしたら、毎日構ってもらえる?一緒に住んだら、ずっとずっと鍵をかけたままでもいいかな?

 

 気持ち良い。体も、心も気持ちがいい。俺、すごく構って貰ってる。キッコウさん、すごく俺のこと、構ってくれてる。

 あぁ、もう本当にキッコウさん!

 

「っ好きだ!」

「っ!」

「キッコウさん、好き。すきすき。好きです、大好きです。きっこうさんっきっこうさん」

 

 心の中で、何度も何度も言って来た言葉を、全部口に出した。気持ちが良い。思った事を口にするって、こんなに気持ちが良い事なのか。

台本、作らなくても。思ったまま話せるって、こんなにも、

 

「キモチ良いよぉっ」

「っあ゛ぁぁぁっ!ほんっと!最高!俺の神様!俺だけの神!」

「んんっ」

 

 すると、次の瞬間、俺の口はキッコウさんの口で勢いよく塞がれていた。

 

あ、キスだ。凄い、初めてした。しかも、同時に舌が入ってくる。キッコウさんの舌が俺の口の中を好き勝手行ったり来たりする。なにこれ、凄く気持ち良い。

エッチな事をしながら、ディープキスをするなんて、本当にBL小説みたい。そっか、キスとかエッチって、こんなに気持ちいんだ。

 

「っい、きもち。きもちぃっ」

「っは、っはぁ……豆乳さん、とうにゅうさん、……だいず、せんぱい」

「かまってぇ、おれのこと、かまってよ。キッコウさんでも、もぎくん、でもいいから。おれのこと、ちやほや、してぇっ」

「構いますっ!構いますから!チヤホヤしますから!豆乳さんも、大豆先輩も、俺以外に構われないでくださいっ!俺っ!同担拒否なんでっ!」

 

 どーたんきょひ。

 なんだろう、ソレ。また、キッコウさんが、茂木君が、おれの知らない言葉を使ってる。今は、メモが出来ないから、頭の中でメモして、あとで、調べないと……しらべて、そして、小説の彼に、使ってもらおう。

 

「っき、っこうさん、すき。だいすき」

——–俺に、構ってくれるならね。

 

 

 俺は下半身と胸の中に走る、物凄い快感に押し流されながらそのまま、ベッドの上で激しく溺れたのだった。

 

 

 

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