—研究室
ヨハン「…」ひょこり
同僚「あ。ヨハンさん。カルドですか?」
ヨハン「…」コクン
同僚「どうぞ、どうぞ。どうせ俺達の声はカルドには届かない。直接渡してあげてください」にこ
ヨハン(苦笑)ぺこ
トコトコトコ
ヨハン「…」肩とんとん
カルド「……ヨハン!あぁ、私とした事が今日は大事な資料を忘れていたとは…!」
同僚(カルドは普段、俺達が肩を叩いたからといって、あんなにすぐは反応しない……最初からヨハンさんに気付いてたな)苦笑
カルド「ヨハン!君の顔を見ていたら良いアイディアが~」ペラペラ
ヨハン(コクコク)
同僚「ヨハンさんは凄いな。あの話に頷き続けられるなんて」
同僚「いいな、カルド」
同僚「あんなに一方的に優しく話を聴いて貰えてるなんてなぁ」
同僚「俺、こないだヨハンさんと少し話したぞ」
同僚「本当か!」
同僚「カルドに見つからなかったのか?」
同僚「ちょうど居なかったんだよ」ふふん
同僚「いいなぁ」
同僚「俺も話を聴いて貰いたい……」
ランペ(皆。まったく、何てザマだ)チラ
カルド「このコペルニアの原理を用いると~」
ヨハン(コクコク)にこ
ランペ「っ!(あ、あんなの適当に頷いているだけじゃないか!)」
ヨハン(こく、こく)にこ
カルド「君なら理解してくれると思った!やっぱり君は素晴らしい!」
ヨハン(照れ)にこ
ランペ「~~っ!おい、そこの部外者!いい加減にしないか!」ガタン
ザワ、ザワ…
スタスタ
ヨハン「っ!」ペコ
カルド「ヨハン、私以外は無視しろ!頷くな!」
ヨハン「…」オロオロ
ランペ「カルド、こんなヤツのどこが素晴らしいんだ?コイツは、何一つお前の言う事など理解していないぞ!」
カルド「なに?」
ヨハン「…」
同僚「おい、ランペ。やめろ」
同僚「そうだ、わざわざそんな事言う必要はない」
ランペ「ここは学び舎であり、未来の技術を切り開く為の研究施設だ」
ランペ「それを何も分かっていない頷く事しか能のない人間が。研究の妨げになっているのが分からないのか?」キッ
ヨハン「っ!」
カルド「私の論にことごとく反対をして、結局何の論も切り開けていないお前が、一体何を偉そうな事を言っている。ヨハンは理解してくれている」
ヨハン「…」オロ
カルド「なぁ、ヨハン?」
ランペ「っは、じゃあ。さっきお前の言ったコペルニアの原理について、彼に説明願おうか。この紙に理論の概要を書き給え」スッ
ヨハン「…」俯
ランペ「さっさと書いたらどうだ」
同僚「おい、やめろって」
同僚「ランペ、落ち着け。お前、顔があ…」
ランペ「うるさい、俺は彼と話をしているんだ!」
ヨハン「っ」
カルド「愚かな人間だとは思っていたが、ここまでとは思わなかった」
ランペ「何?」
カルド「お前の中にある”理解”という概念が、いかに浅いかよく分かった。まるで、浅瀬で水遊びをする子供のようだ。お前と私では見ている世界が違う」
ランペ「な、何を言っている」
カルド「ヨハンはきちんと理解している。論そのものではなく論を口にする”カルドと言う人間をまるごと”理解しているんだ。それはすなわち、私と同じ世界を見て、理解している事と同義だ」
ランペ「そんなのは詭弁だ!」
カルド「ヨハンがどれだけ素晴らしいか、今のお前に言葉を賭して論じたとしても、きっとそれは徒労に終わるだろう。お前は俺の見ている世界に到達する事は永劫叶わぬだろうし、ヨハンの素晴らしさを知る事も同じく永劫かな…」
ヨハン「…」スッ
ヨハンは紙をランペに差し出したよ!
ランペ「は?」
カルド「ヨハン?」
ヨハン「…」ぺこ
タタタ
カルド「っヨハン!」
ガラッ!タタタ!
ランペ「…あ」
同僚「ヨハンさん、カルド!」
同僚「おい、ランペ。あれはやりすぎだ」
同僚「ヨハンさん、もう来てくれないかもしれないぞ」
同僚「それより、カルドだ。腹を立てて明日から来ないかも」
同僚「学院を辞めるかもしれないぞ」
同僚「ランペ、どう……ランペ?」
ランペ「…これは」ジッ
同僚「それは、ヨハンさんが渡した紙か?」
同僚「論について何か凄い事でも書いてあったのか?」
ランペ「…今日は、俺も失礼する」スッ
同僚「おい、ランペ!」
ガラッ、スタスタ…
同僚「あいつ、どうしたんだ?」
同僚「ランペの奴、凄い顔が赤かったが」
同僚「それはいつもの事だろう」
同僚「ヨハンさんが来ると、いつも顔が凄まじく赤くなるもんな。今日も最初から凄かった」
同僚「それに、お手洗いの回数も増えるな」
同僚「何かの疾患にかかっているんじゃないか?」
同僚「頻尿も重なっているとなると…一度検査を勧めた方が良いかもな」
——-
—-
ランペ「……」
スタスタ
【ヨハンの渡した紙】
ランペさん。
貴方のおっしゃる通り、カルドの口にする難しい話を俺は何一つ理解出来ていません。
本当は俺もランペさんのように、カルドの言う事を理解して、お喋りを返せたらと、ずっと思っていました。
でも、出来ないのでそれはランペさんにお任せします。
研究の邪魔をしてごめんなさい。これからも、どうか、カルドと仲良くしてあげてください。
追伸
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ランペ「…『俺は、彼と話しているんだ』と言って下さって嬉しかったです。ランペさん、俺と”話してくれて”どうもありがとうございました……なんだ、これは」
—–ヨハンはきちんと理解している。
ランペ「…俺は、間違ってなど」ピタ
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—–
—-
次の朝
カルド宅
スタスタ
ヨハン「…」チラ
ゴソッ、ぺら、ぺら
ヨハンは沢山の手紙を仕訳けるルーティンをしているよ!
ヨハン「…?(差出人が無い?)」
ぺら
———
失礼な事を言いました。
私とも話してくださって、ありがとうございました。
———
ヨハン「…」にこ!
ランペはきちんと謝れる子だよ!好きな子には素直になれないタイプ!
ちなみに、ランペは毎晩カルド宅のポストにヨハン宛ての手紙を入れるのがルーティンになったよ!もちろん、カルドは知らないよ!
ヨハンは引き続きカルドに忘れ物を届ける毎日だよ!
同僚「あ、ヨハンさん!カルドですか?」
ヨハン「…」ぺこ
ランペ「…」チラ、チラ
ヨハン「…」にこ、ぺこ
ランペ「…」どきどき
カルド「あぁ!ヨハン!」
ヨハン「…」にこー!
もちろん、ランペの一方的な片想い!
ちなみに、研究一筋の面子が揃った研究室は、皆、恋愛にも疎いし、もちろん童貞ばっかりだよ!