番外編1:師匠を探して

 

此方は本編のシモン視点となっております。
【本編】よりは多少R18成分がありますが、かなり温いです
本編のあの時、シモンはどんな気持ちだったのか。
そんなお話です。

 

では、どうぞ!

 


 

 

 

 師匠が居ない。

 どこを探しても見つからない。

 

「師匠……ここ、痛い」

 

 俺がそう言えば、師匠はいつだって「また成長痛か、仕方ねぇな」と言って、体を撫でてくれたのに。

 今は誰も俺の体を撫でてはくれない。そりゃあそうだ。だって、ここに師匠は居ないから。

 

「ししょう、どこ……」

 

 誰も謁見などしに来る筈もない真夜中に、俺は一人で玉座に腰かけながら、静かに目を閉じた。

 

——シモン、どうした。ここが痛いのか?

 

 師匠の声が、どこか遠くに聞こえた気がした。

 

 

◇◆◇

 

 

 師匠は、突然俺の前に現れた。

 

 

「はい、捕まえた」

「っへ?」

 

 その日も、俺は自分とチビ達の食い扶持の為に、街のパン屋からパンを大量に盗んで逃げていた。捕まる気なんてサラサラなかったし、この街のどの大人が追いかけてきても、どんなに大勢で追いかけられても逃げ切れる自信があった。

 

「え?あれ……俺、なんで?」

 

 それなのに、師匠にはアッサリと捕まってしまった。

 完全に避けきったと思っていたのに、俺の体はいつの間にか師匠の体の中にすっぽりと納まっていたのである。

 

「離せっ!はなせよっ!」

 

 終わった。絶対に憲兵に突き出されてしまう。俺が捕まったら教会のチビ達は、きっと一週間ももたないだろう。どうにか逃げ出す方法を考えないと。

 と、焦ってそんな事ばかりを考える俺を余所に、師匠は本当にワケの分からない事ばかりを俺に言ってきた。

 

「見つけたぁぁぁぁっ!」

 

 まるで、最初からずっと“俺”を探していたみたいな言い草だ。

 

「よし、分かった。スラム街の子供達は今後、俺が腹いっぱい食わせてやる。その代わり、シモンは俺の弟子になれ」

 

 正直、ヤバい奴だと思った。

 もしかしたら、子供を売りさばく闇市の商人なんじゃないかと、最初は本気で思った程だった。でも、だからと言ってその時の俺にはどうする事も出来なかった。師匠は、見た目はそうでもない癖に、強引で、どんなに俺が必死に抵抗してもビクともしなかったから。

 

「シモン、ほら。お前だけ特別。こっそり食えよ」

「ははっ、シモン。たくさん食え!」

 

 ただ、師匠は何があっても“約束”を守った。

 俺がどんなに反抗的で生意気な態度を取っても、毎朝毎朝、俺達の為に大量のパンを焼いてくれる。

 「お前だけ特別」とか「たくさん食え」なんて、言って貰えたのは本当に生まれて初めてで――。

 

 師匠に言いはしなかったけど、本当は嬉しくて堪らなかった。

 

 

◇◆◇

 

 

 ガキ共を面倒見る変り者の道楽貴族。

 

 いつしか、師匠は周囲からそんな風に呼ばれるようになった。

 そりゃあそうだ。身寄りのない貧しい子供の世話を、何の見返りもなくやるなんて、それこそ貴族の道楽としか考えられない。

 

 まぁ、師匠が回りからどう言われようが、俺には関係ない。

 

 ただ、途中から我慢ならないネタが、その噂の中に混じり始めた。

 「道楽」の部分が「変態」に置き換えられ、俺が師匠に体を売っているなんて噂が飛び交い始めたのだ。その時の俺は、師匠が回りのヤツから何と言われようがどうでも良かったが、俺が「オンナ」扱いされているのは我慢ならなかった。

 

 だって、俺の母親は“オンナ”を売って生活していたせいで死んだから。俺は、あんな生き方ごめんだ。俺は絶対あんな惨めな死に方ごめんだ。

 

 それなのに。

 

「ほーら、シモン。帰るぞ」

 

 師匠ときたら、そんな噂なんて知りもしないで夜中に教会を飛び出した俺を追いかけてくるから堪らない。あぁ、もう。面倒くさい。

 

「なぁ、早く帰って一緒に寝ようぜ」

 

 誤解を招くような言い方すんな。

 正直迷惑でしかなかった。だって、師匠と居るところを、他のヤツに見つかったら面倒な事になるのは目に見えていたから。だから、俺なんて放っておいて欲しかったのに。

 

 そしたら、案の定、面倒臭いヤツらに絡まれた。

 

「っは、どうせテメェの事だ。ガキ好きの変態貴族にケツでも差し出したんだろ。お前、顔だけは母親に似て女みてぇだもなぁ?」

 

 俺はオンナじゃない。男だ。

 どこに行ってもそんな風に言われるけど、俺は自分の体を売った事なんか一度もない。でも、何を言っても、誰も信じてくれない。

 

 それは俺が弱いからだ。

 

 それが、俺には悔しくて悔しくて堪らなかった。でも、言い返したくても俺には、それを証明するだけの力が無い。ガキだし、ひょろひょろだし。力じゃ何をどうしたってコイツらに敵わない。だから、生きる為にはプライドを捨てて逃げるしかない。

 

 今回も、そうするしか無かった筈なのに。

 

「シモンは立派な男の子だ!勇者なんだから!」

 

 師匠が俺の代わりに、アイツらに言い返してくれた。しかも、それだけじゃない。

 

「シモン、ここで見てろ。師匠がちゃんと強い所を見せてやる」

 

 師匠は本当に強かった。

 刃物を持ってる、自分よりも凄く大きな相手を簡単に全員倒してしまった。その辺に落ちてる小石と、自分の拳だけで。

 

「すげぇ……」

 

 でも、それだけじゃない。師匠はそんな状態で更に手加減をしていた。相手を殺さないように。あんまり怪我しないように。

 あんな風に自分をバカにしてきた相手にすら、そんな優しさを見せる師匠に俺は思った。

 本当に強い奴って、師匠みたいな奴の事を言うんだって。

 

「本当に!?俺も師匠みたいになれる!?」

「シモンなら、修行したら絶対に俺より強くなれるぞ!」

 

 そう、師匠は本当に嬉しそうな顔で俺に言った。その顔を見て、俺はなんとなく分かった。師匠は、お世辞でこんな事を言っているワケではない。本気で俺が強くなると思っているんだ、と。

 

「シモン用の木刀も買わなきゃな」

「っっっ!!」

 

 強くなる修行の為に、俺専用の木刀も買ってくれると約束してくれた。俺はワクワクした。俺も師匠みたいに強くなったら、自分の尊厳を傷付けられても逃げずに立ち向かう事が出来る。そう思ったら、嬉しくて、楽しくて、物凄く元気が出て来て。

 

 初めて、早く明日になって欲しいって思った。

 

「じゃあ、俺の心臓の音だけ聞いてな」

「わかった、師匠」

 

 俺はその日、師匠から“尊厳”を守られ、“安心”を与えられた。師匠の腕の中は温かくて、俺は生まれて初めてグッスリ眠った。

 

 

◇◆◇

 

 

「シモン。これ、見てー」

「しもん、おなかへったぁ」

「シモン、こっちに来てー!」

「しもん、あそんでー」

 

「はいはい、ちょっと待ってな。順番」

 

 俺はチビ達の「兄貴」だ。

 皆、俺と同じ孤児だから、周囲には守ってくれる大人なんて誰も居ない。誰かが守ってやらなきゃ、すぐに死んでしまう。

 そんなチビ達を守るのは、一番年上の俺がやらなきゃならない。それは俺の大事な「役割」なのだ。

 

「おれ、しもんみたいになりたいー」

「へぇ、なんで?」

「だってぇ、かっこいいからー」

「ふふ、そっか。ヤコブは俺みたいになりたいんだ」

 

 まぁ、「年上だから」なんて、偉そうな事を言ってはいるが、ただ単に自分を頼って甘えてくるチビ達が可愛いから、俺が勝手にそうしているだけだ。それに、チビ達が居れば俺も“一人”にならずに済む。

 

 一人の方が生きるのはラクかもしれない。でも、一人だと寂しい。楽しくない。

 皆、俺の大事な家族だ。

 

 そう思っていた筈なのに。

 

「しよー」

「ほら、ヤコブ。口開けろ。あーん」

「あーん」

 

 最近、皆が師匠に甘えてるのを見ると、物凄く腹が立つようになった。特に、ヤコブは師匠にべったりだった。

 

 でも、それは仕方がない事だ。

 ヤコブは教会のチビ達の中で一番小さい。だから、世話を焼いて貰えるのは当たり前で、もちろん俺だってそうしてきた。

 それなのに、師匠がソレをするとムカついてムカついて仕方がない。

 

 だから、師匠と二人だけの時、俺は必ず尋ねるようになった。

 

 

「俺、師匠の弟子の中で何番目に強い!?」

 

 

 これは弟子じゃない他の奴らには聞けない質問だ。

 俺は、師匠に「お前が一番だよ」って言って欲しくて敢えてこんな聞き方をする。それなのに、師匠ときたら俺が考えてるよりもっと嬉しい事を言ってくれるのだから堪らない。

 

「俺にはお前しか弟子は居ないよ」

 

 師匠の弟子は“俺”しか居ない。今まで居た事も、これから作る事もないって、師匠は言ってくれた。だから、俺が師匠の弟子でいられるうちは、俺が一番で、俺が唯一。

 それなのに――。

 

「おれも、しぎゅおうするー!」

 

 なんで、皆。俺から“師匠”を取ろうとするんだよ。師匠は俺だけの師匠なのに。

 

「お前は小さいから修行なんて必要ないだろ!?あっち行けよ!」

「うぁああぁあんっ!じ、じじょーっ」

 

 あぁ、俺は“兄貴”失格だ。

 

「……いいよな、ヤコブは。泣けば甘えさせえて貰えるんだから」

 

 あんなに守ろうと必死になっていたチビ達を、心底邪魔だと思うようになってしまったんだから。

 

 

 

 

「シモン、コレ見ろ」

 

 そう言って服を脱いだ師匠の体には、俺の付けた傷がハッキリと残っていた。

 

「ぅあ、コレは……」

「お前が、俺に付けた傷だよ。凄いだろ?」

 

 普段、洋服と装備の中に隠れた師匠の体は、思ったより日に焼けてなくてなんだか綺麗だった。そんな師匠の体に入る真っ赤な傷痕。痛々しい程ハッキリと残るその傷痕に、俺は何故か腹の底がゾワゾワするのを感じた。

 

「コレは、俺が師匠に付けた傷」

「っん」

 

 その傷に、俺は自分の指をソッと這わせる。その瞬間、師匠の口から漏れた甘い声に、それまで感じた事がない程の衝撃が背中に走った。

 なんだ、コレ。凄く変な感じがする。体が、熱い。

 

「俺の弟子は後にも先にもシモンだけだ」

「ほっ、本当に?」

「うん。俺、お前以外に弟子は取らないって決めてるから」

 

 そう師匠に頭を撫でられながら口にされた言葉は、優しくて、静かで、そしてとても甘かった。師匠に甘やかして貰えると、腹の底がゾワゾワしたり、背中がビリビリする。でも、全部気持ちが良い。

 

「シモン。俺には甘えていいからな」

 

 あぁ、甘えるってこんなに気持ちが良い事だったんだ。だから、皆あんなに俺に甘えてきてたんだ。

 

「シモン、一緒に魔王を倒そうなー」

「……ん」

 

 

 師匠が一緒なら、俺は何でもいい。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 俺は、師匠に甘やかして貰えるのが好きだ。

 

「シモン!大丈夫か!」

「シモン、怪我したのか?ちょっと見せてみろ」

「シモン!下がれ、後は俺がやる!」

 

 夜中にダンジョンに潜ってモンスターを倒すようになった当初は、師匠から物凄く甘やかして貰えた。特に怪我をすると、師匠が血相を変えて俺の所に来てくれる。その顔を見ると体がゾワゾワして凄く満たされるのだ。

 

 あぁ、凄く。気持ちが良い。

 だから、俺は師匠と二人きりになれる“夜”が大好きだった。それなのに――。

 

「あぁ、うん。最高最高。言う事ないわ」

 

 俺が強くなるにつれ、敵から攻撃を受ける事も減って、もちろん怪我をする事もなくなっていった。それと同時に、師匠が俺を甘やかす機会も減っていく。

 だから、たまに師匠にバレないように、わざと自分で体に傷を作るようになっていた。

 

「シモン、ちょっと腕見せてみろ」

 

 軽く剣に毒なんかを塗っておくと、師匠はもっと心配してくれる。俺を心配そうに見つめる師匠の顔を見ると、俺は心底満たされる。それは、物凄く気持ち良い事だった。

 

「シモン。俺が毒を吸うから、ちょっと嫌かもしれないけど……我慢しろよ」

 

 師匠の唇が俺の傷口に触れる。生ぬるい舌の感触。肌に触れる師匠の呼吸。

 あぁ、全部気持ち良い。最高だ。背筋がピリピリする。体が熱い。頭がぼーっとして何も考えられなくなる。

 

——シモン。俺には甘えていいからな。

 

 甘えていいって、師匠が言ったんだ。

 それなのに、師匠はたまに俺を「弟子」じゃなくしようとしてくる。お前はもう俺より強いから、なんて……そんな事ばかり言って。

 

 

「俺が、師匠より強い事は……もう知ってるよ」

 

 

 そう、随分前からそんな事は分かっていた。

 体の大きさも、力の強さも、頑丈さも。いつの間にか、俺は師匠を追い越してしまっていた。多分、今師匠と一騎打ちなんかしたら一瞬で倒せてしまうだろう。

 

 でも、実際の強さがどうかなんて、俺にはどうでも良い事だ。

 

「ほら、おいで。体が痛いんだろ?撫でてやるよ」

 

 師匠は俺の師匠じゃないとダメなんだ。友達なんて、そんなその辺にゴロゴロ居るようなヤツになんてされたくない。

 弟子だったら、俺は師匠に甘やかして貰える。師匠の“一番”で“唯一”でいられる。

 

 強くなって師匠の弟子じゃなくなるくらいなら、俺は強くなんてなりたくない。体もこれ以上デカくならなくていい。大きくなると、師匠に甘やかして貰えなくなるから。

 そう、思っていたのに。

 

「……皆なんか知るかよ。夜は俺と師匠だけの時間じゃん」

「っぅ」

 

 初めて懺悔室で師匠を押し倒した時。

 少しも抵抗出来ずに顔を歪める師匠に、俺はいつも以上に体が熱くなるのを止められなかった。

 師匠はいつの間に、こんなに小さくなってたんだ。いや、俺がデカくなったのか。まぁ、どっちでもいいけど。

 

「はぁっ、はぁ」

 

 息が上がる。

 いつもみたいに、甘やかしてもらってる時と違ってジワジワと体が熱くなるような感覚ではない。まるで竈の中に放り込まれたような、急激に体が熱くなるような感覚。

 

 俺は師匠に欲情していた。

 

「っはぁ……師匠、これ。どうしたら、いい?おしえて」

 

 何も知らないフリをして、勃起するペニスを師匠の体に押し付ける。

 その頃には、街の女に誘われてセックスをした事もあったし、一人での処理の仕方も、もちろん知っていた。

 

「あ、えっと……あの、それじゃ、まず。ズ、ズボンを脱いで」

「ししょう、引っかかって脱げないよ……」

「あ、えっと。じゃあ、ちょっと……腰上げろ」

「ん」

 

 顔を真っ赤に染め上げ、一生懸命“師匠”で居続けようとしてくれる師匠に、俺は更に体が熱くなるのを感じた。

 俺を何も知らない子供だと思い込んで。俺より弱い師匠が、俺の為に恥ずかしいのを我慢して頑張ってくれている。もう、堪らない。

 

「まず、手で、あの、上下にこすって」

「……それじゃ、わかんないよ。ねぇ。ししょうが、シて」

「……ぁ、えと。じゃ、見てろ、よ」

 

 もう顔だけじゃなくて耳や首まで真っ赤にしながら、師匠の手が俺の勃起するペニスに触れる。師匠の首に噛みつきたい。そんな獣みたいな衝動を必死に抑え込みながら、俺は師匠の真っ赤な首筋を眺めていた。

 

「はぁっ、は」

 

 師匠の息も上がってる。なんだか、いつもと違って熱い呼吸音に、師匠も興奮してるんだって分かった。

 

「師匠、きもち……」

「よ、よかった。じゃあ、ここからは自分で」

 

 師匠の目が、羞恥心で微かに潤んでいる。その顔を見たら、もっと興奮した。

 

「やだ、分かんない。もっと」

「……っぅう」

 

 女とヤる時は、相手が俺のをシゴいて勃起させる所から始まる。手とか、口とか。なんか色々されてるうちに、いつの間にか勃起して、そしたら女に挿れる。そして、しばらく腰を振ったら終わり。

 

 自分でやる時も同じ。確かに射精した、その瞬間は気持ちが良いけど、なんかソレだけって感じだった。

 

 それなのに、師匠にシて貰った時はそうじゃなかった。真っ赤な顔も、震える手も、緊張して掠れる声も、全部全部全部全部。

 最高だった。

 

「っはぁ……いいッ」

 

 俺のペニスは師匠が触る前から、完勃ちで、師匠に触られるのを喜んでるみたいにフルリと震え、先走りを流す。「痛くないか?」「こうやるの、分かるか?」と、恥ずかしいのを我慢しながら、チラチラと俺の顔を見ながら説明してくる師匠が、なんかもう堪らなく可愛くて。

 

「イくッ」

「っ!」

 

 程なくして俺はイってしまった。

 驚いた。こんなに早くイったのは初めてだったから。あぁ、勿体ない。どうせなら、もっと師匠に触って欲しかった。そう思いながら、師匠の体を見てみると、なにやら面白いモノが目に入った。

 

「しもん、あの……分かった、か?」

「ねぇ、師匠?」

 

 狭い狭い二人きりの懺悔室。その中で、俺の精液でその手を汚し、顔を火照らせる師匠に俺は言う。

 

「……師匠のも、苦しそうだね」

「あ、え……いや、これはっ!」

 

 俺のペニスをシゴきながら自分のまで勃起させるなんて、俺の師匠ってどこまで最高なんだろう。俺は壁と足の間に師匠を閉じ込めると、真っ赤に染まる耳に直接口を寄せ、わざと熱い息を吐いた。

 

「じゃあ、師匠のは俺がやるから。ちゃんと出来てるか……見てて」

「っん、ぁ、う……」

「……はぁ、ししょう」

 

 可愛い。

 

 その晩、俺と師匠は狭い懺悔室で向かい合いながら、たくさん気持ちの良い事をした。

 

 

◇◆◇

 

 

 最近、お金が足りてない事は、なんとなく分かっていた。

 

「え、聖王国に行く?なんで?」

「ちょっとアッチじゃないと買えない武器があってさ」

 

 絶対ウソだ。

 きっと、聖王国に行くのも、きっと金の問題のせいだ。師匠は、自分には家族は居ないって言ってたけど、でも“何か”はある筈だ。

 だって、師匠が何度か大鷲を使って聖王国と手紙のやりとりをしているのを見た事があったから。

 

「ほら、子供が金の事なんか気にすんなよ。気にせず腹いっぱい食え」

 

 でも、俺が何を言っても師匠は金について何も言ってくれない。

 出会った頃に約束通り、師匠はずっと、俺達をお腹いっぱいにしてくれた。子供が十二人だ。きっと相当金がかかったに違いない。

 

「……なんで、俺には何も言ってくれないんだよ」

 

 この頃になると、俺は改めて気付く事があった。

 甘えるのも良いけど、師匠に甘えて貰えるのはもっと気持ちが良い事だって。たまに、二人でお互いの体に触れ合う時、師匠が甘えたように擦り寄ってくると、いつも以上に興奮してしまう。多分、師匠はそんな自覚ないと思うけど。

 

 じき、俺も十八になる。十八と言えば、もう成人だ。俺もやっと大人になれる。

 

「師匠が帰ってきたらさ……もう俺、成人だし。一緒にお酒飲もうよ」

「へ?」

「ね、お願い。俺、師匠と酒が飲みたい」

 

 一人で聖王国に向かうという師匠に、俺は一つだけ約束を求めた。帰ってきたら、一緒に酒を飲もうって。酒が飲めたら大人だなんて思ってない。ただ、師匠が酔っぱらったら俺にも甘えてくれるんじゃないかって思ったから。

 

 だって、街の奴らと酒を飲んだら、いつも以上に女が俺にくっ付いてくるから。もしかしたら、師匠もあぁなるかなって。

 女にされたら鬱陶しいだけだけど、師匠がしてくれたら最高だ。

 

 きっと凄く可愛いと思う。

 

 聖王国に向かう師匠の背中を見送りながら、俺は既に師匠に会いたくて仕方がなかった。師匠とは一緒に居る時も、ずっと会いたいと思ってる。いや、コレはちょっと変だ。会いたいんじゃなくて、ずっと一緒に居たい、だ。

 

 あぁ、どうすれば俺は師匠とずっと一緒に居れるだろう。

 

 

 

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「シモン、俺は世界を守る勇者になりたかった」

 

 

 師匠が居なくなってから、俺はたくさんの人を殺した。

 師匠を傷付けたヤツ、俺の邪魔をするヤツ、目障りな奴、鬱陶しいニセモノも。

 

 ソイツらは全員“魔王”だ。

 だから、全員殺した。

 

 師匠に会いたくて、師匠に褒めて貰いたくて。

 でも、なんとなく気付いていた。コレは師匠が望んでる事じゃないって事は。どこで道を間違ったのかは分からない。

 

 でも、もう俺にはどうしていいのか分からなかった。

 だから、師匠に剣を向けられた時、やっぱり俺は「ダメ」だったんだと悟った。

 

 きっともう、師匠は二度と昔みたいに笑ってくれない。パンを焼いてはくれない。眠れない夜に抱きしめて体をさすってくれる事も、怪我して心配そうな顔を向けてくれる事も、俺にだけ体を擦り寄せて甘えてくれる事も。

 

 もう、二度とないんだ。

 そう、思ったのに。

 

「シモン、俺にはお前しか居ない」

 

 そう言って俺に向かって膝を付く師匠を前に、俺は真っ暗だった目の前が一気に開けるのを感じた。師匠が居る。俺の前に、師匠が居るんだ!

 

「これまでも。そして、これからも。俺はお前の傍に居る。ずっと一緒だ」

「師匠……それって、師匠の中で、俺が一番って事?」

 

 出会った頃と同じ、俺を見て嬉しそうな顔をする師匠が、そこには居た。

 

——やばッ、もう見つけちまった!ラッキー!

——シモン、俺は運が良かったよ!こうして、お前に会えたんだからな?

 

昔のように、俺に会えて幸運だと言わんばかりの、心底幸福そうな顔で。

 

 

「一番で、唯一無二って事だよ。シモン」

 

 

 この瞬間、俺はハッキリと理解した。

 俺は、また師匠に救われたんだ、と。

 

 

 

 

おわり!


 

シモンが師匠に酒を飲ませていやらしい事をする話が……書きたいな(まがお)