17:弓使いの観察眼

 

「セイフ?どうした?」

「……」

 

 ベッドに下ろされるまで、俺はセイフが怒っているのだと思っていた。だが、どうやら違うようだ。どちらかと言えば、今のセイフは、そう。

 

「俺、嫌な事言っちゃったか?」

「……」

 

 ひどく拗ねているように見える。まぁ、鎧を着ているので、どんな表情をしているのかまでは分からないが。ベッドの脇に腰かけ、ジッとこちらを見つめるセイフの瞳は、明朗に俺に語り掛けていた。

 

 俺は、お前のせいで怒っているんだぞ、と。

 

「セイフ、ちょっと兜を取らないか?」

「……」

 

 フルフルと、セイフは頑なに首を横に振る。うん、やっぱりそうだ。どうやら、俺はセイフの嫌がるような事をしたらしい。そして、今セイフは拗ねてしまっている。

 

「じゃあ、取らなくていい。俺はセイフが鎧を着てても、ちゃんとお前の考えている事が分かるからな」

「……」

 

 兜の中のセイフの瞳が、どこかジトッと恨めし気な色に染められた。嘘つけ、調子の良い事を言うんじゃない、と。そんな所だろうか。

 うん、鎧を着たままでも、だいぶ分かってきた、セイフの事。

 

「信じてないなぁ?弓使いの観察力を舐めるなよ。お前の考えている事なんて、今や手に取るように分かるんだからな」

「……」

「お前は俺に使い魔を飼って欲しくないんだろ?『自分が居るのになんで?』ってところか」

「っ!」

 

 少しだけ、セイフの瞳が見開かれた。

 うん、セイフは本当に分かりやすい。分かりやす過ぎて、なんかもう可愛さすら覚えてしまう。

 こんな風に言葉少なに、自分の感情を態度で示す。だからこそ、鎧を身に纏ったセイフは獣のような雰囲気を身に纏うのだ。

 

「コレ、間違ってたらスゲェ恥ずかしいんだけどさ」

「……っ」

 

 俺はセイフの頭を鎧の上からソッと撫でた。すると、直接触れているワケでもないのに、兜の中のセイフの目がうっすらと細められる。ほんと、さっきの狼が成長したら、こんな風になるに違いない。

 

「セイフは、俺とパーティを組みたいって思ってくれてるんだよな?」

「っ!」

「どう、コレは……間違ってる?俺の勘違い?」

 

 敢えて、セイフに問いかけてみた。間違ってない確信はある。けれど、これだけは直接セイフの口から聞いておきたかった。

 

「ま、ちがって、ない。かんち、がいじゃ、ない」

「そっか」

「俺、テルと……パーティ、組みたい」

 

 たどたどしくも、ハッキリと紡ぎ出された言葉に、俺は腹の底の自尊心がゆっくりと撫でられるのを感じる。セイフは、出会った頃からそうだった。

 

——–っそ、それは……すこし、過ぎる!

 

 こんな風に、俺の事を好意的に受け止めて、あまつさえ「一緒に居たい」なんて言ってくれるヤツが居るなんて思いもしなかった。

 

「そっか」

「ん」

 

 だから、俺はセイフをよく観察するようになった。俺の事を求めてくれるコイツの事を、よく知りたいと思ったから。

 

「なぁ、セイフ。兜だけでいいから取って話さないか?」

 

 出来れば、この後の話は顔を見て話したい。口にはしなかったが、気持ちは込めた。すると、それまで頑なに鎧を脱ごうとしなかったセイフが、スルリと兜を取った。

 

「ありがと、セイフ」

「ん」

 

 頷くセイフの瞳には、もう拗ねた様子は欠片も見えなかった。むしろ、俺を心配しているようにさえ見える。

 あぁ、セイフ。本当に良いヤツだ。こんなヤツが、前世の俺の傍に居てくれたら良かったのに。そうしたら、もしかしたら俺は死なずに済んだのかもしれない。

 

「セイフには言ったと思うが、俺は前のパーティから……その、追い出されてる」

「お、俺も、だよ」

「……俺は、セイフと違って戦闘技術や能力で追い出されたわけじゃない」

 

 正直、この辺の事はあまり話したくはない。でも、ここまできたら伝えておくべきだろう。

 

 

「俺は、性格が……ちょっとダメみたいで、仲間に嫌われてたんだ」

「……テルが?」

「そうだ、見事に全員から嫌われてた。超、嫌われてた!」

 

 自虐的な話になるので、敢えて明るく言う。でも、セイフには、そんな俺がカラ元気に見えているだろう。うん、正解。実際のところ、カラ元気だ。

 

「う、うそだ」

「嘘じゃない。それどころか、パーティを組む前、俺は別の仕事を……」

 

 仕事をしていた、と言いかけて止めた。

 俺の年齢はまだ十代やそこらだ。前世の仕事について触れてしまうと、セイフが混乱するかもしれない。

 

「んー、いや。別のパーティを組んでたんだが、そこでも俺は嫌われていたよ。めちゃくちゃ、陰口を叩かれてたし……それに、スゲェ舐められてた」

「なっ、なっ、舐める?テルを?」

「おいおいおい、違うからな!?誰も俺の事を、舌でペロペロ舐めてたワケじゃねぇから!」

 

 先ほど、俺が狼に指を舐められていたせいで、セイフの言葉のニュアンスが、完全に物理的に「舐める」方に寄っていた。陰口を叩かれながら、物理的に舐められるって、そりゃどんな地獄絵図だよ!

 

「えーっと、そうだな。何て言ったもんか……そう!俺は、周りの奴らにスゲェ軽んじられていたんだ!」

「軽んじ……」

「そう、雑に扱われてた!」

 

 ナニコレ。言ってて悲しくなってきたんだが。

 

「うそだ」

「そう言ってくれんのは、お前だけだよ」

「そ、んなこと」

 

 俺はベッドの上であぐらをかくと、膝に肘をついてジッとこちらを見てくるセイフの姿を見た。あぁ、綺麗な顔だ。でも、見慣れてしまえばなんてことない。

 綺麗だが、とても可愛いセイフの顔だ。

 

「お前だけだよ、セイフ」

「っ」

 

 この目で見られると、何度でも思ってしまう。

 三度目の正直がここにあるんじゃないか、と。