遠くで、声が聞こえる。
——–テル、俺と一緒にパーティ、組んで。
その声に、今度こそ俺はハッキリと言ってやる。
「……絶対に、ヤだね」
お前なんかと、誰がパーティ組むかよ。
◇◆◇
俺の人生は、いっつも他人に流されっぱなしだった。
『来週から、店長として東町店に入ってくれ』
『へ?』
就職して、たった半年で店長やれって言われた時もそうだった。
『えっ、でも。まだ俺……入って半年しか経ってないんですけど』
『半年やってりゃ十分だ。いつまで新人ぶってるつもりだよ』
『で、でも』
『大丈夫だって、お前色々細かい事に気付けるだろ?やれるさ』
『……わ、わかりました』
まぁ、ここまでは別にいい。よくある事だろう。
でも、その後も俺は流され続けた。
『テンチョー、私ばっかり一番レジなのってどうなんですかー?』
『店長、俺その日入れなくなりましたぁ』
『店長の組むシフトって、贔屓があからさまで、腹立つんだよね』
『つーか、全部店長がやれば良くね?』
分かったよ。俺がやりゃいいんだろ。
そんな風にしてたら、いつの間にか俺は死んでいた。
◇◆◇
『テル、俺のパーティで弓使いやらないか?』
『へ?』
リチャードから弓使いやってくれって頼まれた時もそうだ。
『……でも、俺。弓とか矢とか持ってないし、使った事もない』
『そんなの最初は誰だってそうだろう。皆最初は初心者だって』
『で、でも』
『それに、お前ってよく周りの事見てるし。前衛より後衛向きだと思うぞ』
『……そ、そっか?』
まぁ、ここまでは別にいい。俺も弓使いって憧れがあったし。
でも、その後も俺は流され続けた。
『テル、お前は後ろから文句言うだけだから分かんないんだろうけどな。前衛は前衛で見えてる世界が違うんだ。口を出すな』
『個人の武器まで皆で面倒見なきゃならないって、それはちょっと甘えすぎじゃない』
『なんで、後衛の貴方が怪我なんかしてるの?』
『いっつもトドメだけ持っていきやがって。討伐数稼ぎにしたって、そりゃあんまりだろ』
嫌われてるのは分かってた。
でも、戦闘の事になると妥協は出来ない。矢の事も、戦闘に口出す事も。だって、俺が妥協したら皆が怪我するかもしれないから。だって、前の世界じゃ血なんてまともに見た事すらなかったのに。この世界じゃ、当たり前に皆血を流す。
正直、俺は他人が怪我するところなんて見たくなかった。
そう思っていたら、いつの間にかパーティから追い出されていた。
『……じゃあ俺は、どうすりゃよかったんだよ』
あぁ、そういえば。いつだったか、セイフに尋ねた事があった。
『なぁ、セイフ。お前、なんで戦士なんかになったんだ?一番死ぬ確率高いのに』
『……か、体が、大きい、から。皆が、似合うって』
体が大きいから。まぁ、確かにそうだ。セイフは俺がこれまで出会った誰よりも大きかった。でも、その後セイフは言ったんだ。
『でも、俺……ほんとは、一番前は、苦手』
——–こわいから。
確かにセイフは大きい。でも、セイフは俺がこれまで出会った誰よりも「怖がり」でもあった。だから俺は言ってやった。
『そんなに怖いなら、戦士なんか辞めてジョブチェンジすりゃあいいじゃん。命張って無理する必要ねぇのに』
『でも、俺……コレしか、した事ない』
『ソレで死んだら元も子もねぇのに。変なヤツ』
ったく、どの口が言ってんだって話だ。
他人の事ならすぐに気付けるのに、自分の事だとなかなか気づけない。
ほんと、俺もセイフも変なヤツだ。
そう、俺達がどうすればいいか。そんなのは簡単だ。
「辞めれば、良かったんだ……店長も、弓使いも」
◇◆◇
「っ!」
目が覚めた。
すると、最初に俺の目に飛び込んできたのは深い青色の髪の毛と、金色の瞳。そして、キラキラと輝く、大粒の涙だった。
「……あ、セイフ」
「て、テル?お、起きたっ!テルが、起きたっ」
いつもよりハッキリと声を張るセイフに、俺は一瞬頭が混乱するのを感じた。
あれ、ここはどこだ?俺は一体、何をしていた?
「っあ゛ぁぁぁ~~~っぁぁ!!」
しかし、そんな俺の混乱を他所に、俺の目の前にいるセイフは、言葉にならない声を上げ勢いよく俺に抱き着いてくるだけだ。ただ、いつものように鎧の感触を感じない。どうやら、セイフは今鎧を着ていないらしい。
というか、待てよ。ここは――。
「起きたか、テル」
「……あ、リチャード」
「ここが、どこだか分かるか?」
「や、ど?」
「そうだ、ここは聖王都の宿屋だ」
「聖王都……?」
リチャードの言葉と、目に入ってくる情報で、俺は少しずつ状況を飲み込んでいく。そうか、宿屋だからセイフも鎧を着てないのか。そうか、なんだ。
「もう、聖王都に着いちまったんだ」
「テル、お前にとっては〝もう〟かもしれないが、俺達にとってはそうじゃない。大変だったんだぞ」
「ごめん」
「ごめんじゃない。お前の勝手な行動のせいで、どれだけパーティが危険な目に合ったと思ってる。」
「……ごめん」
冷たさと棘を孕んだリチャードの言葉に、俺はただ謝る事しか出来なかった。
あぁ、全部思い出した。俺は、自分の感情を最優先にしたせいでパーティに迷惑をかけてしまったのだ。
「っひ、ぅっぁぁ。てるっ……てる」
セイフもこの調子だ。きっとあの後色々と大変だったのだろう。
「俺は言ったよな?あのくらいの魔法攻撃なら、セイフは平気だって。それなのに、お前はそれを無視した……なんであんな事をした」
「なんで?」
リチャードからの問いに、俺はむしろ「分からないのか?」と口を吐いて出そうになった。でも、そうだ。リチャードには分からないのだ。
だって、リチャードはリーダーだ。個人よりも全体を見ている。その、どこまでも理性的なモノの見方が出来るからこそ、リチャードは弓使いでありながら、リーダー足り得ている。それは、誰もが出来る事ではない。
現に、俺には出来なかった。