28:他人の進むべき道は、よく見える!

 

 遠くで、声が聞こえる。

 

——–テル、俺と一緒にパーティ、組んで。

 

 その声に、今度こそ俺はハッキリと言ってやる。

 

「……絶対に、ヤだね」

 

 お前なんかと、誰がパーティ組むかよ。

 

◇◆◇

 

 

 俺の人生は、いっつも他人に流されっぱなしだった。

 

『来週から、店長として東町店に入ってくれ』

『へ?』

 

 就職して、たった半年で店長やれって言われた時もそうだった。

 

『えっ、でも。まだ俺……入って半年しか経ってないんですけど』

『半年やってりゃ十分だ。いつまで新人ぶってるつもりだよ』

『で、でも』

『大丈夫だって、お前色々細かい事に気付けるだろ?やれるさ』

『……わ、わかりました』

 

 まぁ、ここまでは別にいい。よくある事だろう。

 でも、その後も俺は流され続けた。

 

『テンチョー、私ばっかり一番レジなのってどうなんですかー?』

『店長、俺その日入れなくなりましたぁ』

『店長の組むシフトって、贔屓があからさまで、腹立つんだよね』

『つーか、全部店長がやれば良くね?』

 

 分かったよ。俺がやりゃいいんだろ。

 そんな風にしてたら、いつの間にか俺は死んでいた。

 

 

◇◆◇

 

 

『テル、俺のパーティで弓使いやらないか?』

『へ?』

 

 リチャードから弓使いやってくれって頼まれた時もそうだ。

 

『……でも、俺。弓とか矢とか持ってないし、使った事もない』

『そんなの最初は誰だってそうだろう。皆最初は初心者だって』

『で、でも』

『それに、お前ってよく周りの事見てるし。前衛より後衛向きだと思うぞ』

『……そ、そっか?』

 

 まぁ、ここまでは別にいい。俺も弓使いって憧れがあったし。

 でも、その後も俺は流され続けた。

 

『テル、お前は後ろから文句言うだけだから分かんないんだろうけどな。前衛は前衛で見えてる世界が違うんだ。口を出すな』

『個人の武器まで皆で面倒見なきゃならないって、それはちょっと甘えすぎじゃない』

『なんで、後衛の貴方が怪我なんかしてるの?』

『いっつもトドメだけ持っていきやがって。討伐数稼ぎにしたって、そりゃあんまりだろ』

 

 嫌われてるのは分かってた。

 でも、戦闘の事になると妥協は出来ない。矢の事も、戦闘に口出す事も。だって、俺が妥協したら皆が怪我するかもしれないから。だって、前の世界じゃ血なんてまともに見た事すらなかったのに。この世界じゃ、当たり前に皆血を流す。

 

 正直、俺は他人が怪我するところなんて見たくなかった。

 そう思っていたら、いつの間にかパーティから追い出されていた。

 

 

 

 

『……じゃあ俺は、どうすりゃよかったんだよ』

 

 あぁ、そういえば。いつだったか、セイフに尋ねた事があった。

 

『なぁ、セイフ。お前、なんで戦士なんかになったんだ?一番死ぬ確率高いのに』

『……か、体が、大きい、から。皆が、似合うって』

 

 体が大きいから。まぁ、確かにそうだ。セイフは俺がこれまで出会った誰よりも大きかった。でも、その後セイフは言ったんだ。

 

『でも、俺……ほんとは、一番前は、苦手』

——–こわいから。

 

 確かにセイフは大きい。でも、セイフは俺がこれまで出会った誰よりも「怖がり」でもあった。だから俺は言ってやった。

 

『そんなに怖いなら、戦士なんか辞めてジョブチェンジすりゃあいいじゃん。命張って無理する必要ねぇのに』

『でも、俺……コレしか、した事ない』

『ソレで死んだら元も子もねぇのに。変なヤツ』

 

 ったく、どの口が言ってんだって話だ。

 他人の事ならすぐに気付けるのに、自分の事だとなかなか気づけない。

 ほんと、俺もセイフも変なヤツだ。

 そう、俺達がどうすればいいか。そんなのは簡単だ。

 

 

「辞めれば、良かったんだ……店長も、弓使いも」

 

 

◇◆◇

 

「っ!」

 

 目が覚めた。

 すると、最初に俺の目に飛び込んできたのは深い青色の髪の毛と、金色の瞳。そして、キラキラと輝く、大粒の涙だった。

 

「……あ、セイフ」

「て、テル?お、起きたっ!テルが、起きたっ」

 

 いつもよりハッキリと声を張るセイフに、俺は一瞬頭が混乱するのを感じた。

 あれ、ここはどこだ?俺は一体、何をしていた?

 

「っあ゛ぁぁぁ~~~っぁぁ!!」

 

 しかし、そんな俺の混乱を他所に、俺の目の前にいるセイフは、言葉にならない声を上げ勢いよく俺に抱き着いてくるだけだ。ただ、いつものように鎧の感触を感じない。どうやら、セイフは今鎧を着ていないらしい。

 

 というか、待てよ。ここは――。

 

「起きたか、テル」

「……あ、リチャード」

「ここが、どこだか分かるか?」

「や、ど?」

「そうだ、ここは聖王都の宿屋だ」

「聖王都……?」

 

 リチャードの言葉と、目に入ってくる情報で、俺は少しずつ状況を飲み込んでいく。そうか、宿屋だからセイフも鎧を着てないのか。そうか、なんだ。

 

「もう、聖王都に着いちまったんだ」

「テル、お前にとっては〝もう〟かもしれないが、俺達にとってはそうじゃない。大変だったんだぞ」

「ごめん」

「ごめんじゃない。お前の勝手な行動のせいで、どれだけパーティが危険な目に合ったと思ってる。」

「……ごめん」

 

 冷たさと棘を孕んだリチャードの言葉に、俺はただ謝る事しか出来なかった。

 あぁ、全部思い出した。俺は、自分の感情を最優先にしたせいでパーティに迷惑をかけてしまったのだ。

 

「っひ、ぅっぁぁ。てるっ……てる」

 

 セイフもこの調子だ。きっとあの後色々と大変だったのだろう。

 

「俺は言ったよな?あのくらいの魔法攻撃なら、セイフは平気だって。それなのに、お前はそれを無視した……なんであんな事をした」

「なんで?」

 

 リチャードからの問いに、俺はむしろ「分からないのか?」と口を吐いて出そうになった。でも、そうだ。リチャードには分からないのだ。

 だって、リチャードはリーダーだ。個人よりも全体を見ている。その、どこまでも理性的なモノの見方が出来るからこそ、リチャードは弓使いでありながら、リーダー足り得ている。それは、誰もが出来る事ではない。

 

 現に、俺には出来なかった。