5:最強福の神様の墓ケツ!

 

 

◇◆◇

 

 濃い、とても濃い精の匂いがする。

 

「……っうぅ」

「やれやれ、やっと起きたか」

 

 目覚めると、そこには最後に見た破廉恥な姿など、まるで幻とでも言わんばかりのピシリとした着物姿で此方を見下ろしてくる福の神様の姿があった。どうやら、俺は夢を見ていたらしい。

 

 福の神様に、初めて体を暴かれたあの日の夢を。

 

「……ぁー」

「なんだ、体の調子でも悪いのか?」

 

 ぼんやりとした頭で福の神様の顔を見ていると、福の神様が少しだけ眉を潜めて顔を覗き込んできた。夢の中では物凄く怒っていた様子だったので、なんだか少し頭がついていかない。

 

「あ、えっと。その……いいえ」

「ウソを吐いたら承知せぬぞ。不調があるならハッキリ言え」

「い、いえ。ご心配を、おかけして、すみません。俺は大丈夫です」

 

 そう俺が福の神様に頭を下げた時だ。それまで白磁のように白かった福の神様の美しい肌が、ジワと色付き始めた。

 

「別に、俺はお前の心配なんか欠片もしておらぬわっ!」

「あ、あの……福の神様?」

「まったく、このいやらしい鬼め!神である俺に口づけを強請るなど、どこまで図々しいのだか」

 

 俺の記憶が正しければ、いつだって口づけは福の神様の命令で「口付けをしてください」と口にさせられているのだが。しかし、それを言っても良い事など一つもない事は、彼がこの家に誕生してからの一週間でよく分かっている。ここは、福の神様の機嫌を損ねないようにすぐにでも謝罪するのが正解だ。

 

「も、申し訳ございません」

「っは、本当に申し訳ないと思っているんだか」

「思っております!底辺鬼の分際で、とても恐れ多い事をしてしまいました……!もう、二度とあのような身の程を弁えないような事は言いません」

 

 俺は福の神様に向かって出来うる限り、低姿勢でヘコヘコと頭を下げた。狭い押し入れの中。小柄な俺とは違い、体の大きな福の神様はえらく窮屈そうだ。

 

「別にっ!俺はそこまでは言ってなかろう!?」

 

 顔を上げると、そこには顔を真っ赤にして怒りを露わにする福の神様の姿がある。

 これは困った。では、これから俺はどうすればいいのだろう。口づけを強請ればいいのか、強請らねばいいのか。

 俺が思案していると、目を見開いて此方を見ていた福の神様が腕を組んで「ハッ」とバカにしたように笑った。

 

「そもそも!お前という底辺鬼は、ともかくいやらしくて浅ましい!」

「……っひん」

「望み通り口づけをしてやったと思えば、いやらしく舌まで絡めてきおって」

「っあ、っあ!あ!」

「俺の男根も食いちぎらん程に締め付けてな?ナカも媚びを売るようにうねらせる!」

 

 明け透けな福の神様の言葉に、膝の上に置いた拳をぎゅっと握り締め項垂れるしかなかった。まったくもって言い訳のしようがない。どれもこれもその通りだ。

 俺はまるで豪雨のように頭から降り注いでくる卑猥な言葉の嵐に、体の芯から火を噴き出すような感覚に襲われた。もちろん、実際に火なんて噴いていない。短小ツノの底辺鬼に、そんな特殊な力などありはしないのだ。

 

「しかも!俺がお前の汚らしい穴から男根を抜こうとすると、まるで出て行くなと言わんばかりに足を腰に絡みつけてくるしな?鬼の分際で厚かましいとは思わんのか!」

「……っぁ、っぁ」

 

 本当の、本当に言い訳のしようがない。最近、俺の体はとことん変だ。福の神様をの立派な肢体を見ると、体が疼いてしまうのだ。

 でも、だからと言って俺にはどうする事も出来ない。止めたくても、止められないのだ。

 

「っひ、っひ、っひぅぅぅ」

「え?」

「っも、もうじわげ、ごじゃいません」

 

 俺は恥ずかしかのあまり両腕で顔を覆っていた。同時に、隠した腕の下でボロボロと涙が零れ落ちてくる。

 あぁ、雄鬼なのに、これしきの事で泣くなど情けない。でも、仕方がない。止めたくとも流れ出る涙は一向に止まってくれないのだから。

 

「っっっな、なにを泣いておる!?なぜ、泣く必要がある!?」

 

 頭の上から、福の神様の追い立てるような声が聞こえてくる。あぁ、また福の神様を怒らせてしまった。

 

「っひ、っぅ……ずみ、ましぇっ」

「あ、謝れなどとは言っておらぬだろう!俺は、何故泣いているのかと聞いているんだ!?」

 

 福の神様からの激しい問いかけに、思わず息が詰まる。

 

 俺は破廉恥な事に対してあまり耐性がない。なにせ、この家には情報集約装置(パソコン)や、光無線機(ワイファイ)等が無いので、普通の劣性鬼よりも知識が脆弱なのだ。おかげで、俺はこれしきの卑猥語ですら、恥かしさのあまり涙を流してしまう。

 

 まったくもって、不甲斐ないばかりである。

 

「も、もしやアレか!俺がお前の穴を汚らしいと言ったからか!?」

「っひ!」

「いや、き、汚らしいのは確かに汚らしいが!他の鬼と比べればっ、汚いとは言い難い!色も熟れた桃のようで触り心地も悪くはないし、ナカに窄まる皺も……そう、愛嬌がある!」

「~~~っ!?」

 

 何が悲しくて自分の尻と穴の詳細を聞かされなければならないのだろう。最早、俺は顔を隠したらいいのか、それとも尻を隠したらいいのか分からなくなってしまった。

 

「ぁぅ~~~っ」

「ま、まだ泣くか!何故だ!?……あぁ、分かったぞ!俺がお前以外の鬼を、同じように可愛がってやっていると思い、やっかんでいるんだな?そうだろう!?」

 

 なにやら福の神様は必死な様子でこちらに向かって何かを叫んでいる。

 

「それは、まったく心配の必要はない!なにせ俺は千年に一度の尊い存在だからな!その辺に居るような畜生鬼共なんかにくれてやる種はないのだ!お前だけ、特別なのだ!」

 

 俺はと言えば、顔を隠そうか尻を隠そうかと迷っているうちに、自分の体も福の神様同様、きれいさっぱり清められている事に今更ながらに気が付いた。

 そうなのだ。あれだけ乱れて精でビシャビシャになっていたズボンも、今や綺麗な姿で俺の下半身を隠してくれている。

 

「じゃあ、なぜ他の鬼と比べてお前の尻穴がマシか分かるのかって!?それは……それはだな……えっと」

 

 突然勢いの弱まった福の神様の言葉に、そろそろと頭を上げてみる。

 すると、そこには腕を組みつつ首を傾げてみせる、どこか幼げ気な様子の福の神様の姿があった。見た目は立派な雄の成体神の姿なのに、時折見せる幼子のような姿は妙に愛嬌がある。