これは、むかしむかしのお話。
西の果てにある、モンデュール王国。
そこに、一人の王子様がいました。
第一王子、リゲル=モンデュール。
見目麗しく、心優しい——誰もが〝聖人君子〟と口にする、それはそれは素晴らしいお方でした。
けれど、その美しい微笑みは、いつだって作り物でした。
王子様の周りには、いつも〝醜いもの〟が集まってくるのです。
上辺だけの忠誠心で取り入ろうと群がる臣下。
王族の子を成して権力を手にしようと、下品に媚びを売る女たち。
そんな日々の中で、王子様の心はどんどんすさんでいきました。
そして、婚礼の儀を終えたある夜のこと。
王子様は、目撃したのです。
清らかな仮面の下で、第二王子である弟と密かに情を交わすお姫様の姿を。
その瞬間、王子様の我慢は限界を超えました。
「もう、こんな豚小屋で微笑み続けるのはごめんだ」
偽りの微笑みを続けるくらいなら、いっそ眠ってしまった方がずっとマシだ——そう思ったのです。
こうして王子様は、誰にも知られることなく、自分自身に「眠りの呪い」をかけました。
民たちは、それを悪い魔女の仕業だと信じました。
呪いを解く方法はただ一つ。
自分を心から愛する者からの口づけ。
「……あの汚いアバズレが口づけをしてきても、決して起きてなどやるものか。むしろ舌を噛み切ってやろう」
王子様は、起きるつもりなど毛頭なかったのです。
どうせ自分を心から愛する者など、現れるはずがないのだから——と。
眠りについた王子様に、国中は悲しみに包まれました。
嫁いだばかりのお姫様は枕元で涙を流し、魔法使いらも必死に呪いを解こうとしました。
でも、それも最初のうちだけ。
やがて王子様は城の片隅の冷たい塔へと移され、多くの人から忘れ去られてしまったのです。

