ラストにあやもも様からのイラスト有◎
まずはなち様からの「ついのべ」をどうぞ!
《2月10日は》
「ふーん、2月10日は世界マメの日か……。マメの日ってなんだ?節分なら三日だが……しかも世界?」
十勝は休憩中、コーヒーを飲みながら何とはなしに壁に貼られていたカレンダーを眺めていた。 誰が貼ったのか、びっしりと今日は○○の日という雑学が書き込まれていて少し見にくいカレンダーだ。
「今年のバレンタインは水曜日か」
そういえば、投稿サイトのBL小説にもバレンタインネタが増えていたように思う。
(大豆もこういうイベントを絡めたネタを書いたりするのか?)
分析した限りではバレンタインネタは受けが攻めに渡すのが王道……。
(いや、作品じゃなくて大豆が誰かに渡したりするかもしれない)
十勝ー!バレンタインだからチョコあげるね!はい、あーんして?(上目遣い) とかって自分がくわえたチョコを……俺に……。
「……いいな」
「お疲れ様です」( ˙-˙ )
顔文字みたいな表情のまま、挨拶してきたのは水筒を手に持った茂木だった。 いけ好かない相手とはいえ、同僚。挨拶くらいはする。 いけ好かない相手とはいえ!(2回目)
「あーお疲れ」
茂木はちらりと十勝を見た。
お互い気が合いそうにないと思っているのにここにいるのは、コンビニに行った大豆を待っているからだ。
休憩室にいますねと言ってしまったのでそこにちゃんと居ないと大豆は捨てられた子犬の如く途方にくれた表情をする。それもとても可愛らしいのだけど!
「茂木さん」
「はい?」
「茂木さんは……その大豆にバレンタインチョコを貰ったりするのか?」
「は?」
何を言い出すんだこいつという顔で茂木は十勝を見た。
自分と目線の高さが同じ相手は多くない。
職場では十勝くらいだろう。 というか。 あの大豆がバレンタインなんて華やかなイベントに関わる訳がないではないか。 いや、ネタとしては使うかもしれないが。
……バレンタイン限定で「チョコじゃなくて俺を食べて」とか誘う受けとか……。
「大豆先輩がそんな俗なイベントにうつつを抜かすわけがないじゃないですか」
「まあ、あの大豆が積極的にそーゆー事するのは考えにくいな。でも、そうか、茂木さんにもしないのか。茂木さんもバレンタインとか興味なさそうな感じだしな」
「神からの賜り物……?欲しいに決まってるだろうが!!」
思わず本音が漏れて茂木は水筒を握りしめた。
「あの臆病な大豆先輩がなけなしの勇気を振り絞って女子の戦場、バレンタインフェアに行き、雰囲気におののきながらも必死に選んで買ったチョコなんて貰ってみろ、家宝を超えてもはや聖遺物だぞ!」
「聖遺物が何かはわからんが……好きな子が一生懸命なのは可愛いなうん」
十勝がさらりと「好きな子」発言した事に茂木は思い切り講義しようとした。
「慣れないのに何度も試作して、練習して完成させた手作りチョコなんか照れながら渡されたら、感動する」
茂木くん、あのね、俺、小説以外のもの作ったの初めてなんだ。感想、聞かせてくれる?(上目遣い)
「ベタだな……だが、悪くない……」
「あんまり手作りのもの貰うの得意じゃないけど、大豆なら」
少し含みを感じて十勝に視線を向ける。
「アンタも手作りと称した特級呪物を押し付けられた過去がある口か」
「……気持ちは嬉しいんだけど、変な匂いがする物とか明らかに異物が入ってるのとか……」
「わかる……」
※イニシエには、自分の使ってるコロンを1滴チョコにいれる、とかマジヤバなおまじないがまかり通っていましたね!
「大豆ならそんな事はしないだろうし」
「ははっ!まだまだだな!俺なら大豆先輩の手作りなら何が入ってようがありがたくいただくのみだ!!」
「(ドン引き)」
缶コーヒーの飲み干し、ゴミ箱に空き缶を捨てながら、十勝はふと思いついた。
「まあ、こっちから贈ればいいか」
誰にとは言わないが今までの文脈で察せない茂木ではない。
「現物を神への供物にするなど烏滸がましい!」
「お前の言ってる事ちょいちょい意味がわからないんだが!?」
茂木の声が大きくなった。
「供物はイイネボタンから始まって感想を書き込みDMを送って相互フォローしてオフ会に至ってからだろうが!」
言い返す十勝も、ヒートアップして声を大にする。
「イイネ押してる!感想も作品毎に送った!DMは社内メールだがやり取りしてるしそもそも平日は毎日会ってるだろうが!」
十勝はいつの間にかすっかり界隈の用語に慣れ親しんでいるようだ。
幸い、休憩室にいる人達にはインスタの話かな?くらいにしか思われていなかったが。 休憩室に入った途端、イケメン二人が真剣な言い合いをしている光景が目に飛び込んできて、大豆は思わずスマホを手に取った。
これは……!
……職場の同僚兼ライバルのケンカップルは美形✕美形の方が盛り上がるかも!
神はいかなる時も、いと高き峰より常人の預かり知らぬ視界で物事をみておられるのであった。
ちなみに、この後、二人は大豆がコンビニで見つけたというチ■ルチョコとおしるコーラのコラボ商品を1つずつ貰い、神への愛と忠誠を試される事となる。
茂木、十勝「……おしるコーラ、実は流行ってるのか!?」
茂木も十勝も2月10日に限らず、年中無休で「世界マメの日」ならぬ「マメが世界の日」です。
《終》