5:作り話(加速)

 

 

「俺の……」

 

 住んでいた村は主要都市から遠く離れていた為、かなり人の出入りの少い村でした。

 村の主な収益は農業。

 そんな、広い田畑しか取り柄のない村で俺達は毎日駆け回って暮らしていました。

 あの頃は本当に毎日楽しかった。

 

 子供達のリーダーであったフロムと俺は幼馴染で、とても仲が良かったんです。何で仲が良かったかって?

 理由は特にありませんよ。

 ただ、家が隣同士で、同じ年に生まれたから。小さな村です。それだけで仲良くなるには充分だったんですよ。

 どこへ行くにも俺達は一緒で、よくイタズラをして大人達に叱られて

「……いました。マスター、お酒おかわり」

 

 普段こんなに話さない俺は、酒の追加を頼んだ。

 話すってこんなに喉が乾くのか。いつもは聞き役だったから気づきもしなかった。

 

「では、私も」

 

 そして、聞いてるだけの画家もノリノリで次の酒を頼んだ。この人大丈夫か。

 

「さぁさ、続きを!」

「………村のガキ」

 

 大将だったフロムは俺の2つ下の妹ニアに恋をしていました。

 さっき、妹は可愛かったと言ったでしょう。

 だから言ったじゃないですか。兄の欲目なんかじゃないって。

 しかし、妹のニアは兄である俺にベッタリでした。だから、俺はいつもフロムから八つ当たりをされていましたよ。

 

「幼馴染同士の恋かぁ……甘酸っぱいねぇ」

「……目の中に入れても痛くない妹でしたよ」

 

 この辺りで既に画家は、先程追加した新しい酒をグイと一飲みした。

 この画家、本当に飲み過ぎじゃなかろうか。

 しかし、俺も俺でアルコールの回りが快調なのか、じょじょ語るのが非常に楽しくなっていた。

 

 居もしない妹を目の中に入れるくらいには、立派に酔っ払っている。

そういう可愛い妹が欲しかった……そういう切ない願望が、そこにはあった。

 

 

「俺達が10歳」

 

 の頃、突然、村にその地方一帯を治める領主が息子を連れてやって来ました。

 どうやら、都と帝国のちょうど中間地点にあるこの村を、将来的に貿易の要として発展させられないかと考えての事だったらしいのです。

 

 その領主の息子というのが、俺のもう一人の親友であるオブです。

 オブはとても賢い子でした。けれど、オブは村の事があまり好きではなかったみたいです。

 小さな村です。学校なんかなくて、村の子供はろくに読み書きもできない者ばかり。遊ぶ場所もなければ、店もない。

 そんな田舎で、お金持ちの子供が馴染める訳もなかったのです。

 

 オブは読み書きすら出来ない村の子供達を心底馬鹿にしていました。

話しかけても無視するし、近寄れば汚いと触れようとした手を叩き落としたりするし。

 

 ハッキリ言って嫌な奴でしたよ。

 

 そんな事もあって、オブは村の子供から高飛車だ、嫌な奴だと遠巻きにされていました。まぁ、領主の息子ということで表立ってイジメがあったりはしませんでしたけどね。

 

「そんなオブ君とキミはどうやって仲良くなったんだい?」

 

 何杯目になるかわからない酒を片手に、画家は目をキラキラさせて問うてくる。

 ——そんなもん俺が聞きたいわ。

 という気持ちを抑えつけ、俺は酒を片手に思い出すような仕草で、酒場の天井を見つめた。

 

「貴方と国王様のような、ドラマティックな出会いのエピソードは特にないんですよ?」

「だから、僕は劇的なモノを求めているんじゃないよ。キミとオブ君の話が知りたいのさ」

「……そうですね、本当にコレといったきっかけはないんです。ただ、」

 

 俺は俺の知らない事ばかりを知っているであろうオブに、とても興味があったんです。

 この小さな村で、同じよう育ってきた子供達ばかりに囲まれて暮らしていた俺には、オブという少年の持つであろう俺の“知らない世界”が、とても魅力的に見えて仕方がなかった。

 

 俺はオブと話がしたかったんです。色々な話を聞いてみたかったし、村の外の事も知りたかった。

 ただ、それだけだったんですよ。

 

 だから、俺はフロムや村の奴らが止めるのも聞かずに、オブに付き纏ってにやったんです。

 

 そりゃあ最初は「臭い」とか「汚い」とか「近寄るな」とか、酷いもんでしたけど、なんでだろ……いつの間にか少しずつ話すようになっていったん

 

「……ですよ」

「なんだか、それはとてもキミらしい話だね。キミは昔から人の話を聞くのが好きだったんだ」    

「ははっ、そうみたいです」

 

 これは……いい感じにまとまったじゃないか。

 特に金持ちのオブと貧乏設定の俺が仲良くなる為のエピソードが思い浮かばないまま話したけど、じわっとボヤかしたら逆にいい感じじゃん。

 俺の今の前世収集癖と相成って、信憑性抜群のエピソードになったじゃん。

 すげえな!てか、酒足りねえ!

 

「マスター、ボトルごと貰えないかな?」

 

 この辺で、俺は調子に乗り新しい酒をボトルで開けてくれとマスターに頼んだ。画家と俺は完全な酔っ払いと化した。

 そして、この辺りからだ。

 酒の量に比例して物語にドラマティックさが増し始めたのは。