「あいつの持ってる俺の手紙を……取り返してくれ!」
俺は必死に電話口でそう叫んだ。
相手が一体どこのどいつなのか、あの腐れ幼なじみと一体どんな関係なのか。俺にはサッパリわからなかったが、相手の声があまりにも必死だったので、俺は思わず叫んでしまった。
そうでなけりゃ、こんなどこのどいつかもわかんねぇ奴に、こんな事頼むわけがねぇ。
『……て、手紙ですか?』
「そうだ!ぜってーアイツが持ってる筈なんだ」
『わ……わかりました!絶対に取り返します!だから…あの、取り返したら……』
「わかってるっつーの!アイツにはぜってー出だしさせねぇよ!?」
俺のその言葉に、電話口の相手は『ありがとうございます!』と勢いよく叫ぶ。
ありがとうございます。
俺はそう言われた瞬間、何故か手紙のアイツの最後の文を思い出した。
いつも、掃除してくれてありがとうございます。
あぁ、くそ。またあの言葉を読みたい。いや、今度は直接聞かせてくれよ。
俺は必死に走りながら、ぼんやりとそんな事を考えていた。
すると、そんな中、受話器の向こうから大きな叫び声が、俺の鼓膜を揺さぶった。
『先輩!手紙を返して下さい!』
おいおいおい!!!
んな、馬鹿正直に言ってアイツが言う事聞くわけねぇだろうが!!
『へぇー。洋君いつの間に薫と仲良くなったのー?2対1とか卑怯じゃなぁーい?』
ほらな!多分アイツの事だ。
多分今頃スッゲー嫌な顔でニヤニヤしてやがんだ、きっと。
面白くなってきたなぁとか思ってやがるに決まってる………あぁぁぁ畜生!あの腐れ野郎!
見つけたらぜってーぶっ殺す!!
『すみません先輩!でも手紙は返して下さい!この人困ってますし』
だぁかぁらぁぁ!
んな話が通用する奴じゃねぇだろうがっ!
俺は電話口から聞こえる必死な、しかしかなり非効率的なやり取りに、徐々に苛立ちが大きくなっていった。
クソッ!やっぱこいつじゃ役に立たねぇ!
コイツが時間を稼いでいるうちに俺が塾に到着するしかねぇ!
そんな受話器口の俺の心を読んだのか……あの腐れ野郎は笑いながら衝撃的な事を言い始めた。
しかも大声で。
『えぇぇ、なになにぃ?手紙って何の事ー?どの手紙かサッパリわかんないからちょっと俺朗読していー?』
あんの野郎ぉぉぉ!!
『ちょっ!せんぱ「ぜってー取り返せ!死んでも取り返せ!」
………っわかりました』
思わず俺が叫ぶと、電話口の男は「絶対に取り返します!」と言うや否や何やらバタバタと言う音が響いてきた。
何やってんだ?
俺がそう思っている間にも受話器からは『先輩、手紙を返してください』と言う声が聞こえてくる。
一体向こうがどう言う状態なのか、全く掴めない。
しかし、次の瞬間、俺の背筋がゾワリと嫌な感覚が走った。
『洋君つかまえたー』
『「…っ!?」』
捕まえた
あぁ、クソ。
俺まで捕まったって事じゃねぇかよ、そりゃ。