2:無意味な会議は無くせ!

 

 

(庄司、そろそろ。カタチだけの会議ってやつは、もういいんじゃないか?)

 

 

「っはぁ、庄司」

「っひ、ちょっ。そこ」

「なんだ、ここがいいのか」

 

——–あれ?俺、今、何を、どうしている?

 

 最後に聞いた宮古の言葉から、俺は自身が一体今どういった状態に陥っているのか、イマイチ理解できなかった。

 理解できないし、意味が分からないので。一つ一つ戻って考える事にする。

 

 意味の分かる、理解できるところまで。

 

 

「みみが、へんっ」

「そうか、耳か。わかった」

 

———どうして俺は、今宮古の膝の上で、裸でのまま、耳を舐められている?

 

 

 そう、俺は無駄な会議によって押していた時間。

けれど、俺は仕事の出来る男だ。だから、俺は宮古との約束を果たす為、定刻通り宮古の家へと向かう為、走った。

 体力など、どんどん失われつつある32歳を目前に控えた、今日この頃。そんな少しの老いに追われる自身の体を追い叩き、月曜だと言うのにハロウィンの仮装で賑わう駅を駆け抜けた。

 

 

「み、やこの声が」

「好きか」

「す、すき」

「っはぁ、いいな。これ。最初から、こうすりゃよかった」

 

———-熱い、頭がぼーっとする。フワフワする。酒、飲み過ぎたみたいだ。体の奥の奥が、何故だか一番熱い。この熱いのは、ナニ。

 

 

 そして、クタクタの体で、宮古が一人暮らしをする部屋まで向かったのだ。駅から少し離れてはいるが、社会人なり立ての宮古にしてみれば、なかなか良い部屋だ。

 壁が薄かったり、隣の声が響いたりするようなアパートではない。

 

 そこで、俺は格好良い恋人から、温かい歓迎を受けた。

 最近は部屋に居る時は、多少恋人のような事もするようになったのだ。ただ、まだ宮古は19歳。俺は気を抜いたらいけないのだ。

 

 いくら寒くなってきて、人肌恋しくなったとしても、もう少しの辛抱。宮古が成人するまでは、ダメなモノはダメなのだ。

もし、俺が脳内の理性と感情の一騎打ちで、理性が負けるような事があってはならない!だって、俺は大人なのだから!

 

「あっ、さ、さわりかた、それ、いい」

「庄司、そういうのは全部言え。いいな、隠さず、全部」

「ん、くび、くびも」

「そうか。庄司、言えて、えらいな」

 

———-奥の奥で、何かがうごめくのを感じる。それと同時に、俺はまるで自分の体ではないみたいに、気持ちが良い事を全部、ぜんぶ、口にする。

 だって、言うと宮古が褒めてくれる。言うだけで。凄く良い声で「言えて、偉いな」と。たまらない。こんなの、物凄くたまらないじゃないか。

 

 会社じゃ、こんなに褒めてもらえない。

 

 

 なのに、どの辺りからだろう。

 宮古が俺を、後ろから抱き締めて、酒を飲むように勧めてきたところからだろうか。

 俺は最初、今日の会議の無意味さと、そのせいで、本当はもっと早く来れた筈だったのに、という恨み言をブツブツと口にしていた。

 

 だから、宮古の手渡して来た缶ビールを開けては、そりゃあもう水のように浴びる程飲んでしまった。普段はそんな事はしない。だって、今日は月曜日。まだまだ1週間が始まったばかりだ。

 

 大人はいつだって、走りきるペースを考えているのだから。

 なのに、なのに、なのに。

 

「う?」

「庄司、気持ちいからって、あんま暴れるな」

「っん、あ、あ、っひ!そこ、」

 

 カラン。カラン。

———宮古の上で下半身を露わにした俺が、足を勢いよくピンとした瞬間。何かを勢いよく蹴とばした。

 

 思考が、やっと追いついた。

 そう、そうだ。宮古に酒を進められるまま、俺は飲んだ。その空缶が、一つ二つ三つ、四つ、五つ六つ?あぁ、もう頭がクラクラしてダメだ。わからない。

 ともかく、たくさん飲んだ。

 

 飲んだら、もう、色々な事がどうでもよくなって、宮古がずっと、俺の体の色んな所に触ってくるから、もう気持ち良くて、気持ち良くて。

 

 太腿、内腿、首筋、下腹部、耳の後ろ、背骨。

 そこで、宮古に耳元で囁かれた言葉に、俺の理性は完全に敗北を喫した。

 

(庄司、そろそろ。カタチだけの会議ってやつは、もういいんじゃないか?中身のない、やったとしても何の結果も変わらない会議に何の意味がある?やったという形式だけが重要な会議に、存在意義なんてあるのか?)

 

 どこかで聞いたような台詞。そして、至極真っ当に聞こえる意見。

 

 あぁ、そうだ。そうだ。

 いくら俺が理性と感情の二者間で会議を繰り返しても、意味なんてなかった。意味のない議事録を作って、脳内の欲求不満のスペースに、どんどん放りこまれるだけ。

 

 いくら自身の手で慰めても、全然綺麗にならない。

 

(いくら、会議しても。お前は最後は俺に抱かれるんだろ?大人の意味のない会議は、庄司。そろそろやめちまえ)

 

「きもち、きもちいっ!奥、もっと、おく、ほし」

「っ庄司」

 

 いつでも帰れるように、事前に議事録を作るみたいに。俺は無意味な会議の横で、自分の後ろを少しずつ準備していた。

 ほら、おとなだし。何をどうするか、全部調べたらわかる。事前に出来る事はしておくのが、おとなってもんだ。

 

 会議もプレゼンも営業も、大事な事は準備で結果は決まるんだ。

 だから、俺は丁寧に入念に準備した。ほぐした。恥ずかしかったけれど。でも、へいきだった。大事な時に、しっぱいするよりはいい。

 

「こんなっ、準備まで、全部一人でしやがって!1年も我慢した意味、無かったじゃねえか!」

「う、う。きもち、きもちい。みやこ、おれ、いまのやつすき」

 

 俺は、奥を勢いよく突かれ、けれどそこからゆっくり引いては返す、緩やかな波打ち際のような動きに、背筋がゾクゾクする程の気持ち良さを感じた。

あぁ、やっぱり宮古は上手い。触り方も、動きかたも。経験回数が多いからなのか、これも運動神経が良いところからくるものなのか。

 

 あぁ、みやこ、好きなところ、ちゃんと言ったから。

 

「みやこ、ほめて」

「っあああもう!」

 

 俺が褒めて欲しくて、褒めて欲しい事も口に出してちゃんと言った。宮古には言わなければ伝わらないと何度も言われた。

 察するとか自分に期待するな、と。逆に俺は、勝手に考えて決めつけるなと、宮古から約束させられた。

 

 もう、全部伝え合おうと、それもちゃんと口で約束したのに。

 

「っふ、んん」

 

 叫んだ宮古に、俺は口を思い切り塞がれていた。塞がれ、口の奥を舌で蹂躙されるように、宮古の舌がいったりきたりする。

 あぁ、それ。舌の先で上顎を舐められるのも、俺はすき。

 

 言いたいけれど、如何せん声が出せない。出せないどころか、気持ち良すぎて唾液すら飲み込めず、口の隙間から、だらしなく流れ出る。

 

 きもちい、きもちい。

 気持ち良すぎて、後ろを思い切り締め付けてしまった。そのせいで、ナカにある宮古がはっきりとわかる。と、同時に、宮古の口が離れていく。

 さっきのキスも気持ち良かった、とくにあの上顎を、なでられる……

 

「庄司っ、庄司、庄司庄司」

「み、やこっ」

 

 と、口に出そうとしたが、それは完全に叶わなかった。

 だから、口に出来る最低限だけ。最低限しかもう言えない。

 

「みやこ、すき、すき」

「ああっ、もうわかった!もうわかったから……それは、やばいだろうがっ」

 

 言って褒められたかったのだが、もうそこからは完全にそんな余裕はなくなった。俺も宮古も。苦しそうな宮古の表情を間近で見ながら、俺は宮古の膝の上で、下からガンガン突かれていた。

 

「っくぅ。っはっはぁ。あっ、あっ、い、いく、イクッ」

「庄司、庄司、庄司っ」

 

 しょうじ。

 

 と、もはや薄らぼんやりする頭で、俺の名がゲシュタルト崩壊せん勢いで津波のように放たれるのを、俺は聞いた。もう、宮古からの一生分の“しょうじ”を言われたような気さえする。

 そして、俺もその後、一生分の「すき」を口にしたような気がする。

 

 あれが、すき。いまのが好き。こうされるのが好き。

 言えば格好良い宮古に褒めてもらえると思って、頑張ったのだが、如何せん、もう上手く言葉が発せられない。発せられないので、ともかく俺は言った。

 

 短く、そして分かりやすく。

 

———-みやこ、すき。

 

 その後、リビングでの騎乗位から始まった交わりは、ベッドの上へと移り、ともかく若い宮古の体力の有り余るまま、繋がり続けた。

 

「っは、庄司。体勢を変えるぞっ。こっち向け。庄司」

「っぅ、むり。いま。っあ」

「しょうじ、しょうじっ」

 

 しょうじ。

 呼ばずにはいられない、彼の本能をそのまま文字として具現化したら、まさにこうなりました、とでも言うような、激しく腰を振る男にとっての、それは嬌声も同然だった。

 

 耳元で囁かれているにも関わらず、どこか遠くで聞こえる、低い男の声は背筋にダイレクトにクる。

途中、酔いなど冷めきったにも関わらず、宮古の勢いに押され、俺は場所を変え、体位を変え、最後にはいつ眠りについたのか分からないところまで、繋がり続けた。

 

 あぁ、今は一体、何曜日だ?

 

 俺は頭の片隅から、理性が控えめに持ってきた問いを、片手で一蹴すると「もう仕事なんてどうでも良いだろ!」とツヤやかに発する感情担当の俺に、頷き、隣で眠る男に抱き着いて、惰眠を貪った。

 

 ともかく、起きた後の俺がなんとかするだろう。

 仕事も、そしてこの幸福いっぱいの惨状も。

 

 あとは、頼んだ。起きた後の俺。

 

 

◆◇◆◇

 

 

 その後、目覚めて前に後ろに、胸に、背中にと凄まじい行為の跡を付けた俺が意識を取り戻したのは、11月1日の昼の事だった。

 あーあ!!

 

「やっちまったーー!」

「……るせぇな。もう少し、ねてろ。庄司」

「……くう」

 

 そう、がっしりと力強い腕の中で囁かれては、もうどうしようもない。

 

 悪いな!昨日の俺!

 もう、どうにもできねぇわ!

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