長編お喋りシリーズ
(最後、小説がすこーしだけ入ります)
外伝:オブの去った村にて~インとビロウの交流~
→IF外伝:オブの去った村にて~もしインが病気にならなかったら~
へと続く予定の、今回は【オブの去った村にて~インとビロウの交流~】のみとなります。
——前書き———–
オブの去った村にて~インとビロウの交流~
こちらの外伝は【本編】オブの帰還後、村に残されたインとビロウの交流を描いたものです。こちらは【本編】準拠であるため、前半は、あの後二人がどんな風に過ごしていたのか重視でお喋りをしています。イン曰く「ビロウは甘いのもくれるし、優しかったから好きだったなぁ」との事だったので、ビロウはインを気に入っていた……というより好きだったようです。
後半は、その後のIF外伝へと続く流れになる為、物語が大きく動きます。
イン:オブが大好き。会いたい。
オブ:インを愛している。けれど、インを捨てた。
ビロウ:オブに勝ちたい。インへの想いは濁っている。不明瞭。
ニア:もう好きにしろ。
そんなお話です。
————————
イン『……おぶ、うう』
ビロウ『イン、まだ泣いてるのか』
イン『…びろう。だって、おぶ、もう帰ってこないんでしょ?』
ビロウ『あんな奴忘れろよ』
イン『わすれられない。さみしいよぉ』
ビロウ『はぁっ、ほら。食べろよ。好きだろ。チョコ』
イン『…ありがとぅ』
ビロウ『(そこは食うのか)』
〇
イン『うえぇ、おぶぅ』
ビロウ『イン、お前そんなに泣いててニアに何か言われねぇのかよ』
イン『いえではぁ、ながない』
ビロウ『へぇ。俺の前ではこんなに泣いてるのにな』
イン『びろうはぁ、おぶ、と、にてるからぁ』
ビロウ『あんな根暗と一緒にすんな』
イン『もっど顔みぜてぇ』
ビロウ『…』
〇
イン「びろう。こんにちは」
ビロウ「お前、また森に行ってたのか?」
イン「うん。オブが帰って来てないかって思って、木に登ってた。でも、ニアにバレると怒られるから内緒ね」
ビロウ「ニアが?」
イン「未練がましい事はするなって……でも、おれぇ」
ビロウ「また泣くのか。お前も飽きないな」
〇
ビロウ「イン、居るか」
ニア「お兄ちゃんなら、多分森よ」
ビロウ「そうか」
ニア「行ってどうするの?もう貴族にはお兄ちゃんに関わって欲しくないわ。どうせずっと一緒に居れはしないんだから」
ビロウ「ずっと一緒」
ニア「貴方達の背負ってるものは私達には理解できないし、分かち合えないから」
ニア『ビロウ。別に貴方ってお兄ちゃんにそこまで執着するのは、オブに勝ちたいからでしょ?』
ビロウ『……そうだ』
ニア『あら、私。今、貴方の事を初めて見直したわ。貴方、オブと違って潔いもの』
ビロウ『はぁ。あんな根暗と比較されて気に入られてもな』
ニア『ま。なら、好きにすしたらいいわ』
ビロウ『あぁ、好きにする』
ニア『(ビロウ。あんなお兄ちゃんの傍に居たら、貴方も辛い筈なのにね。男って、分からないわ)』
〇
ビロウ『(俺には、一族で上に行く力なんてない。俺は……オブとは違うんだ。だが、だからこそ、俺はアイツとは違う道を歩める。優秀だからこそ、一族に従属し、縛られるアイツに、俺が奪える可能性のあるモノは、インだけだ。優秀じゃない、お前より下の俺が、お前からインを完全に奪ってやる。インの口から“オブ”ではなく“ビロウ”と呼ばせる。俺にはお前だけだ)……イン」
〇
ビロウ『……イン、こんな所に居たのか』
イン『びろう』
ビロウ『木の根本にこんな大穴があるなんてな』
イン『おぶとの、ひみつきちだった』
ビロウ『そうか』
イン『おぶ、あいたいよぉ』
ビロウ『……会わせてやろうか』
イン『っ!あえるの?』
ビロウ『すぐには無理だが、約束しよう。俺が必ずお前をオブに会わせてやる。ただし、それには条件がある』
イン『条件?』
ビロウ『そうだ。俺も家には内緒で勝手をやる。俺も……お前を利用したいからだ』
イン『りよう?使うってこと?』
ビロウ『そうだ。だからイン。お前も“俺”を使え。利用しろ』
イン『……むずかしい』
ビロウ『まぁ、今は分からなくていい。そのうち分かる筈だ。ただ、イン。分からなくとも、お前には“今”覚悟を決めてもらわないといけない』
イン『……覚悟』
ビロウ『そうだ、覚悟だ。お前の持つ大切なものと引き換えなければ、この約束は結べない』
イン『覚悟できる。オブに会いたいから』
ビロウ『っは。聞く前からか…腹が立つ程、オブだけなんだな。お前は』
イン『おれぇ、このまま、オブに会えないのは、嫌だ』
ビロウ『イン。お前、故郷と家族を捨てられるか?』
イン『………』
ビロウ『オブに会いたければ、ここを捨て、一緒に帝国に来てもらう。そして、俺がお前を飼うんだ』
イン『かう?』
ビロウ『そうだ。条件は2つ。故郷を捨てる事。あとはお前の全てを、俺に捧げる事。そうすれば、必ずオブに会わせてやる』
イン『……』
ビロウ『どうする?お前に、その2つを受け入れる覚悟は』
イン『3つめは?』
ビロウ『は?いや、この2つだけだが……』
イン『え?それだけ?』
ビロウ『それだけって、お前』
イン『ビロウが、あんまり怖い顔をするから、何かと思ったけど…なぁんだ』
ビロウ『いっ、いいのかよ!?』
イン『うん』
イン『もともと俺は帝国でお店を作る予定だったし。でも、それは一人じゃ無理だったから、どうしようかと思ってたんだ』
ビロウ『店?何の店だ?』
イン『酒場だよ。此処で作ってるレイゾンで作ったお酒を出す店。俺が店を大きくして、みんなのレイゾンを高く買うんだ』
ビロウ『それは……オブの案だな』
イン『オブと、一緒におみせを、する、よてい、だったから……』
ビロウ『また泣くのか?』
イン『な、泣かないよ!』
ビロウ『その夢は……悪いが、俺とやってもらう事になるだろう』
イン『ビロウが一緒にやってくれるの!?』
ビロウ『まぁ、俺は支援するだけだ。まずはお前が努力して、学べ』
イン『……うん』
ビロウ『あともう一つが重要だ。お前はこれから俺の所有物だ。俺がお前の飼い主だからな』
イン『飼い主。俺はビロウに飼われる……俺は、これから、うちのぴーちゃんみたいになるって事?』
ビロウ『ぴーちゃんが何か知らんが……それはお前の家で飼っている鳥か何かか?』
イン『そう、お父さんが拾ってくるんだ。籠に入れて、大事に皆で育ててる。家族だよ』
ビロウ『……まぁ、そんなところだな』
イン『わかった。俺、ビロウに飼われるよ。俺の事なんて、別に誰も欲しがらないから……。ビロウに俺をあげても誰も困らないし。それに、飼うって事は、うちのぴーちゃんみたいに優しくして貰えるってことでしょう?』
ビロウ『っく、ハハハッ!そうか!そうだな!優しくしてやろう!俺が!存分に!』
イン『(ビロウが笑った……顔は似てるのに、オブとは全然違う顔で笑うんだなぁ)』
ビロウ『よし!これからイン!お前の全ては俺のモノだ!ただ、勘違いするなよ?お前は俺のモノだが、俺はお前のモノじゃない。飼うとはすなわち、そういう事だ』
イン『うん、分かった。俺はビロウのだけど、ビロウは俺のじゃない。それが飼うって事。そして、俺はたくさん勉強して、お店を作って、レイゾンで作ったお酒をたくさん売る……そして、いつかオブがお店に来て、お客さんになってもらう』
ビロウ『……そうだ。それでいい』
イン『ビロウ。ありがとう。ここでオブとしてた計画の続きが出来て、うれしい』
ビロウ『……さぁ、近いの口付けだ。跪いて、俺の足に口付けをしろ』
イン『…………』
ビロウ『嫌か?逆らうのか?』
イン『ううん。それはオブが、よく俺にしてたなぁって』
ビロウ『オブが?はっ、アイツ……とことんだな。……っおい!?どこにしてんだよ!?俺は足って言っただろ!?そこは太ももだろうが!?なんて所に触れてるんだ!』
イン『あれ?足ってここじゃないの?オブは、いつもここに口付けしてたから、ここかなぁって思ったんだけど』
ビロウ『……アイツっ(心臓が、心臓がっヤバイ)』
イン『じゃあ、口付けする足はどこ?ビロウ、教えて』
ビロウ『っ!もういい……!お前にこの手の覚悟の確認は不要なようだな!?さぁ、行くぞ!(なんだ、これはっ……なんなんだ!なんなんだ!)』
イン『うん!行こう!行こう!』
———–
——–
—–
ビロウは、インを背後に携え、森を抜けた。
そして、その後、数年間もの長きにわたり、ビロウはインを屋敷で飼殺す事となる。ただし、飼殺す間、インは文字を学び、経営を学び、ともかく帝国へと向かう準備を着々とこなしていった。
インは確かにビロウに飼われた。
ビロウの定めた部屋から一歩も出ず、逃げ出す事もない。それは、まるで鳥かごに飼われた鳥のように、従順に、そして、そしてビロウが触れる度に、小さな声で鳴く事だけの事を許された生き物だった。
村でのインの消息は絶たれ、インは崖から身を落として自殺したのだ、と。そう、村では囁かれた。オブが帰ったショックで、身を投げたのだ、と。
ただし、妹のニアだけは帰って来ない兄と、囁かれる訃報に対し、涙を流す事はなく、それはまるで兄がどこかで生きている事を、確信しているような様子であった。
その後、時は流れ――。
成長した二人は、共にオブの居る帝国へと向かったのだった。
おわり
————
→IF外伝:オブの去った村にて~もしインが病気にならなかったら~
へ続きます。
ビロウ×イン←オブ