幕間2:クリアデータ7 00:01

 

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これは、決して賢王の話などではない。

 

この長い長い歴史を持つクリプラントの歴代国王の中で、最も私利私欲を尽くし、最も愚かで、けれど国民、そして家臣から最も愛された、一人の国王の話である。

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「あれ? あれれれれ? 何で? なんでっ!? 飯塚邦弘さん !?」

 

 上白垣栞は開始一分で、既に大興奮していた。

 それもそのはず、七人目の男であるイーサの章を解禁してすぐ、いつもの如く始まった、セブンスナイトでもお馴染みの物語開始を告げるナレーションに、“あの”、飯塚邦弘の声が流れたのだ。

 

「うそうそうそっ!? ちょっ! 開始早々、こんな神演出止めて止めて! 泣くからっ!? エモ過ぎる!いや……もう完全に泣くっ」

 

 栞は持ったばかりのコントローラーを一旦、床に置くと、傍にあったティッシュを一枚、乱暴に抜き取った。

 寝ていないせいで充血していた目が、今度は更に涙で赤くなる。

 

「う゛っ、うぇぇぇっ……!っひぅぅっ!」

 

 ボロボロと流れ落ちる涙。

 そう、この声は、記念すべき第一作目の第一声。

 

栞が中学生の頃、初めて、この【セブンスナイト】シリーズを買ってプレイした時に、最初に聞いたナレーションの声が、まさにこの声だったのだ。

全ての始まりが、“そこ”にはあった。

 

思わずすぐ隣に置いた攻略サイト構築用のPCに手を伸ばし、この感動を書き連ねそうになる。

 

「だめね……」

 

 でも、止めた。

 この感動と同じモノを、自分と同じプレイヤーにも同様に味わってほしかった。どんな書き方をしても、これは何も知らずに初見でプレイする感動を奪う。

 

 そんな、クソゲーマーにだけは、栞はなりたくなかった。

 

「やってぐれるっ……!今まで各章の物語のナレーションはぁっ……全部、3のアニメ化の時に代役に入った息子の明弘さんだっだのに゛ぃっ! スタッフの開発インタビューでも、今回のセブンスナイト4のテーマは【世代交代】って書いてあっだのに゛ぃっ! だから、今回は制作スタッフも、声優も大幅に入れ替えて殆ど新人も起用したんですって……。寂しいけど、でも、仕方ないなって……おもっでだのにぃぃぃっ!」

 

 栞はパソコンに伸ばしかけた手を、そのまま傍に置いてあったゲーム雑誌へと向ける。

 

開発者インタビューや、新作速報。ネットに記載されている情報だけでは飽き足らず、やはり昔のように紙媒体での情報も、事細かに追った。

 

【世代交代】

 

 それが、今回のセブンスナイト4という作品のメインテーマだと、そう、書かれている。

 “これまで”を愛してきた栞にとって、それは大層寂しいモノだった。それに加え、「制作スタッフも、声優も、新人を多く起用しています」と書かれた一文に、不安になったりもした。

 

 実際、ネットでは賛否両論様々だった。

 

 けれど、作品をプレイして分かった。

 

「今回のテーマは【世代交代】だけじゃない……ちゃんと【踏襲】も、されてるっ!!!!」

 

 この事だけは、書いても良いだろうか。

 いや、止めておこう。今は、何を書いてもネタバレになる。

 

 ただ一つネットに書ける事があるのだとすれば、本当に一言だ。

 

 

「セブンスナイト4は……神作品……っと」

 

 

 それは、ネットの中に、万を超えるフォロワーの居る栞のアカウントの中に勢いよく駆け巡った。