エルフと人間との間の子。
「つまり、ハーフエルフを産み落とす事は、このクリプラントでは大罪だ」
ハーフエルフ。
それは、【セブンスナイトシリーズ】では、必ずパーティーメンバーの中に居た種族。彼らは、魔法を使える貴重かつ、重要な戦力だ。
そして、そのハーフエルフのキャラ達は、最初は必ずと言って良い程、自分の身分を隠していた。初代から、ずっとそう。そして、皆口を揃えて言うのだ。
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俺はクリプラントには入れないから。ここで待っているぞ。
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そう、そうだった。
だから、いつもクリプラントのダンジョンに潜る時。普段は絶対にパーティに居る筈の魔法職が抜ける為、苦戦を強いられていたではないか。
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何故って?そりゃあ、ハーフエルフは“穢れた血”だからな。見つかったら即死刑だ。
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「……穢れた血」
「そう。ハーフエルフは裏では、そう呼ばれているね。そもそも、このクリプラントは外界との交流を一切行わない、排他的な国家だって事は知ってるよね?」
「それは……もちろん」
「だからだよ。血が混じるなんて、それこそ国家が許さない。だから、ハーフエルフなんか作った日には、当人達はおろか、お家ごと国家から潰される事になる」
「……そこまでの大罪なのかよ」
「大罪も大罪。国家の中で最も最上級に位置する罪だよ」
エーイチの言葉に、俺は思わず息を呑んだ。
まさか、子供を作る事が一番の罪になるとは思ってもみなかった。だから、今までの【セブンスナイト】に出てくるハーフエルフ達は、皆して身分を隠していたのか。
「でも、男の場合はそんな心配ないでしょ?だから、都合の良い実験体として、人間のオスは使いやすいんだよ。こういう兵役とか、奴隷みたいな仕事とかもね。後は、金持ちの性欲処理の為の穴ペットとか」
「……」
性欲処理の穴ペット。
その言葉に、俺は強めの吐き気を覚えた。喉の痛みが増した気さえする。
は?何だよ、ソレ。
「サトシ?僕達の他にも、まだまだこのナンス鉱山には、たくさんのエルフ兵と、それぞれに人間の男の兵士が居る筈だよ。その人間を【炭鉱のカナリア】って呼ぶんだとしたら、弱い弱い俺達の同族は、それぞれの坑道で、今頃、一体どんな扱いを受けているんだろうね?」
「……」
——-コイツ、お前の穴ペットか?
三日前、テザー先輩に対して、あのエルフが言っていた言葉の意味が、ここに来てやっと現実味を帯びた。あれは、ただの下卑た悪口であると同時に、“可能性のある”もう一方の道でもあるのだ。
「そんな事を……僕はあの日のサトシを見てたら、思ってしまったワケだよ。どう?気分は?」
「サイアクだ」
「だよねぇ」
エーイチの大きな目が、真っ直ぐと俺を見つめた。眼鏡越しのその大きな目が、ユラリと揺れる。いつも飄々としたエーイチの、そんな目は初めてだった。
「僕、可愛いから怖いなぁ」
「……エーイチ。別に冗談っぽく言わなくていいよ」
「冗談っぽく言わなきゃやってられないんだよ」
エーイチだって、ずっと不安だったのだ。
こんな訳の分からない任務に急に駆り出されて。怖いから、たくさん準備をしたし、たくさん考えた。その結果が、今のエーイチを形作っている。
「でもね、サトシ」
「ん?」
そして、それはエルフの皆もそうだ。俺は、新しく発見された坑道に集まる皆の顔を見つめた。皆、泥だらけだ。今日、あと何時間こうして働き続けるのだろう。
いつ帰れるともしれない重労働の中、毎日必死に働いている。
皆、それぞれの役割の中で、必死に生きているだけ。
「三日前の、あのサトシを見て、僕、思ったよ」
「……なにを?」
「人間だって、諦めなければこの国で価値を作れるんだって。だから、良かった。僕のやってきた事は間違ってない。そう、改めて思えた。だからさ、」
「……」
「ここに一緒に居るのが、サトシで良かったよ。ありがとね」
ニコリと笑って放たれるエーイチの言葉に、俺は思わず肩をキュッとすくめた。こんなに面と向かって感謝されるなんて、なかなかない。しかも、それが自分自身の存在まるごとに対する事だとすれば、尚の事だ。
嬉しい。
俺は、エーイチから目を逸らすと、熱くなる顔を抱えたまま何を言ってよいのか分からなかった。台本さえあれば、きっと上手く返せただろうに。
「……え、と」
例えば、ビットだったら――。そこまで考えて、俺は逸らしていた視線を戻すと、照れる俺にニコニコとした視線を向けるエーイチに向かって、深く息を吸った。
『オレも!エーイチと一緒でスゲェ良かった!』
「え?」
そう、ビットの台詞をなぞるように、俺の気持ちを乗せて答えてみると、それまでニコニコと笑っていたエーイチが、その目を大きく見開いていた。エーイチの「え?」に対し、俺も思わず「え?」と声が漏れる。
「「……」」
気まずい。ただ、ただ気まずい。
その中で、エーイチのパチパチと瞬たく視線が、容赦なく俺へと向けられる。
「ごめん……今の、忘れてくれ」
俺は、一体何をやっているんだ。
そう、俺が自身の腕の中に自身の顔を隠しながら言うと、いつの間にか俺の体にピタリと何かがくっ付いてくるのが分かった。
多分、エーイチだ。いや、エーイチ以外に考えられない。
「サトシってさ、前から思ってたけど」
「……何も言うな」
そう、俺が恥ずかしさの余り、ぶっきらぼうに答えるが、エーイチの声は止まらなかった。止まらないどころか、隠れきれていない俺の耳元で囁くように言う。
「照れると、かわいいね?」
「っ!」
その声は、まるでいつものエーイチとは違って、トーンを落とした、なんとも言えないイケメンな声だった。まさか、エーイチにこんな声まで隠されていたとは……!
「チクショウ!」
「えっ、サトシ!?」
その瞬間、俺は作業中のテザー先輩の元へと走って逃げた。そうやって急に逃げて来た俺に、テザー先輩は「一体どうした?熱でもあるのか?」と、色気のある声で尋ねてくる。
あぁ、本当に堪らない。悔しくて悔しくて堪らない。
「くそっ」
畜生!どいつもこいつも良い声しやがって!