俺は、ずっと一人だった。
「初代様。やっと魔王を倒せましたね。全部一人で……本当に凄いです」
“犬”が俺の元に走ってくる。
倒した魔王の亡骸から出てきた、汚らしい血が跳ねる。足元が汚れるのなんて全く気にしていない。まるで本当に犬のようだ。
「初代様、怪我はありませんか?ヒールは?」
この犬は、何故か旅の途中で俺について来るようになった。名前は分からない。何故なら、ずっと俺は、ソイツの事を“犬”と呼んでいたからだ。
「これで初代様もやっとお姫様と結婚できますね。おめでとうございます」
犬も、俺の事をずっと“初代様”とか言うワケの分からない呼び名で呼んでいた。俺が一体何の初代だと言うんだ。ワケが分からん。
「俺にも褒美を?いいです、いいです!俺、何もしてません。全部、初代様が一人で頑張って来られたんです。俺は、此処まで一緒に連れて来て貰えただけで十分なんです」
そして、犬はどこに行くにも、ずっと俺について来た。
そこがどんな危険な場所でも。理不尽な要求をされても。人を殺す事になっても。
俺が、どんなに嫌な奴でも。
「初代様、お幸せに。俺、貴方と旅が出来て良かったです」
「あの、子供、たくさん作ってください」
「えっと……明日の結婚式晴れるといいですね」
そうやって、必死に俺の気を引こうと会話を続けてくる犬に、頭を撫でてやった。気持ちを隠さずに言うならば「犬が可愛く見えたから」だ。
でも、絶対にそんな事は言ってやらない。そんな事を言えば、犬が調子に乗る。上下関係はしっかり解からせておかないと。
また明日聞いてやる、と言って。俺は犬に背を向けた。明日がある、明後日もある。なにせこの“犬”は俺のモノだ。
俺が居ないと生きていけない、グズで、ノロマで、間抜けで、可愛い犬。そう思っていたのに。
犬は、俺の前から居なくなったのだ。
【初代様には仲間が居ない!】