1:初代様には、敵は居ない!

 

 

 

 そもそも、俺みたいなヤツを“勇者”にしたのが間違いだったんだ。

 

 

「え?コレ、無理ゲーでは?」

 

 

 この時、俺は完全に戦意を喪失していた。

何にって。そりゃあ、魔王にだよ。勇者が闘う相手と言えば、そりゃ魔王だろ。

 

目の前で、何やら最高にヤバそうな目つきで此方を見下ろしてくる魔王を前に、俺は成す術もなく固まる事しか出来なかった。

 

「勇者!どうしよう!攻撃魔法が全然効いてないわっ!」

「おい、勇者!どうすんだ!このままじゃ全員犬死だぞ!」

「ごめんなさいっ、勇者!私、もう回復魔法が使えない!」

 

 どうしようも、こうしようもねぇよ。

 俺達に魔王は倒せない。それだけは、もうハッキリとしている。俺達は負けたんだ。

 

「おいっ、勇者!アイツ何かヤる気だぞ!」

 

 仲間の一人が、俺の目の前に立ちはだかる魔王を指した。

体つきだけで此方を圧迫してくる大きな肢体。真っ黒いマントを背負い、全身甲冑に身を包んだ魔王を前に、俺は思った。

 

「あー、俺。死んだわ」

 

 レベルが違い過ぎる。マジな意味でレベルが違う。

 あぁ、こんな事なら、もっとレベルを上げてくりゃ良かった。脇腹からドクドクと血を流す傷口に手を当てながら、仲間達の声をどこか遠くに聞いた。

 

「勇者!逃げて!」

「おい!勇者!諦めてんじゃねぇ!」

 

 そう、言われましても。もう、俺も腹の傷が痛過ぎて身動きが取れないのだ。

 

だって、これ!すげぇ痛いんだよ!?ついさっき魔王からエクスカリバーで腹刺されたばっかりの出来たての傷口だからね!

皆も刺されてみ!?あのぶっといエクスカリバーで!マジで痛いから!

 

「み、みんな逃げろ!ここは俺がどうにかするから!」

 

 腹も痛いし、完全に身動きが取れそうにないので、最期に勇者っぽい事だけ言っておく事にする。

 俺の声に、仲間達はそれぞれ“勇者の仲間っぽい事”を叫んでくれた。まぁ、集約して要約すると、「お前を置いてなんか行けるかよ!」みたいな感じの事だ。

 

 あぁぁぁ!もういいから!そういうのいい!

もう腹の傷に響くから叫びたくないのに!

 

「いいから!絶対に俺がなんとかしてみせる!だから、皆逃げるんだ!」

 

 いや無理だわ。何をしても勝てっこない。結構、ガチ目にレベルを上げて、装備品もSランクのヤツを揃えてきたんだが。

 一太刀も浴びせられないって一体どういう事ですかね。

 

 そのくらい、今回の魔王は強すぎた。

 なにせ、今回の魔王の正体は――。

 

 

「……初代、勇者様が闇落ちすんなし」

 

 

 目の前に立つ、甲冑で顔の見えない魔王を前に震える声で嘆いた。そうだ。今回のラスボス。シリーズ最大の敵は【初代勇者様】なのだ。

 だからこそ、初代勇者様が当時の魔王を倒す際に使った、光の聖剣エクスカリバーを魔王であるコイツが使いこなしているのである。

 

 あぁ、そろそろ意識が遠のいてきた。

 

 

「「「「「勇者っ!」」」」」

 

 

 此方に向かって腕を伸ばしてくる魔王に、俺は覚悟を決めた。何をって?死ぬ覚悟を、だよ。

 

「あぁ。クソ、二度目は痛くない死に方が良かったのにな」

 

 呟きながら傷口を抑える手には、おびただしい血が流れて続けている。そう、目を閉じかけた時だった。

 

「勇者!聞け!」

「……え?」

 

 突然、仲間の一人である“召喚士”が大声で叫んだ。それまで、他の仲間達がやいのやいのと叫ぶのには、一切参加していなかったのに。急にどうしたのだろう。

 

「まだ諦めるな!俺に考えがあるっ!」

 

普段は陰キャ気味のキャラだった癖に、ここに来てめちゃくちゃ声張るやん。コイツ、昔の俺に似てたから傍に居て一番落ち着いたのに。

ゲームオーバー間近で、急にキャラを変えないで欲しい。新キャラみたいで戸惑うから。そういう事されると、人見知りしてしまう。

 

「な、なに……?」

 

 俺がガチ目に戸惑いながら返事をすると、召喚士は俺に向かって一冊の本を掲げて見せた。本が何やら光っている。この期に及んで何をする気なのだろう。嫌な予感がする。やめてほしい。

 

「勇者!お前を今から過去に飛ばす!」

「は?」

 

 なになになに!?急に何!?

 

「初代勇者の魔王討伐時代まで戻り、お前が勇者の闇落ちの原因を探せ!そして!未来を……“今”を変えてくれ!」

「えぇぇぇっ!?」

 

 急に何を言い出すかと思えば!

この物語の最終局面で、キャラ変どころか、新章突入のフラグぶっ立ててきやがった!

 

「迷ってる暇は無い!お前ら!おれの詠唱の間!勇者を守れ!」

 

「えっ?えっ?」

 

「分かったわ!」

「承知した!任せろ!おい、皆!勇者を守れ!」

「回復は出来ないけど!絶対に守ってみせる!」

「おう!死んでもお前を守ってやるよ!勇者!」

 

 俺だけが状況に付いて行けない中、目の前では激しい戦闘が繰り広げられ始めていた。しかし、やはり魔王には一切攻撃が通じていない。

 

「お、お、おいっ!皆やめろっ!死ぬぞ!」

 

 マジで、やめてやめて!

確かにこの圧倒的な強さは、ちょっとレベル上げをすればどうこうなる話ではないと思っていたが!まさか、ここから新章なんて……!

 

 ちょっと、キツいだろうが!

 ここまで来るのに、三年もかかってるんだぞ!なのに、今からまた――!

 

 

「勇者!準備は整った!今からお前を過去に送る……頼む、過去を変えて。俺達を助けに来てくれっ」

 

 

 そう、どこか切な気な笑顔を向けてくる召喚士。それと同時に、魔王に挑んでいた仲間達が、倒れ伏しながら召喚士と同じように俺を見ていた。皆からの強い意思を感じる。

集約して要約すると、「信じてるから……」みたいな目だ。

 

「う、あ」

 

 あぁ、完全に希望を託されてしまった。

 魔王討伐だけでも荷が重かったのに、ここに来て仲間全員の命まで、俺一人の肩に乗っかってくるなんて。

 

 出来る事なら、俺も倒れてる側の人間が良かった。誰か俺の代わりに過去に行ってくれないかな……!

 

「わ、わかった」

 

 しかし、だからと言ってここで「いや、無理だわ」とは言えない。言えっこない。

だって、俺、元引きこもりゲーマーだよ?陰キャ過ぎて、高校中退した挙句、一歩も家から出られなくなったメンタル弱々人間なんだよ?

 

自分の考えを、皆の意見に逆らって口にするなんて……死ぬより無理だ!

 

「時空転移!」

 

 詠唱!そのまんまだなぁ!?もうちょっと横文字の格好良いヤツとか無かった!?

 俺は自分の意識がふわりと宙に浮くような感覚に陥りながら、最後にチラと魔王の方へと目をやった。

 

「……あ」

 

 パチリ、と。

 魔王と、目が合った気がした。

いや、全身甲冑なので、目がどこを向いているのかは分からないが。確かにその瞬間、俺は魔王と目があった。そう、俺は確かに感じたのだ。

 

「あぁぁぁ!もうっ!」

 

 クソ。闇落ち初代勇者様!

俺は、絶対にアンタを闇落ちさせないからな!?

 

 

 こうして、この俺、「シリーズ最新作の勇者」は、ゲームオーバー直前に、「初代勇者」様の闇落ちを救済する為、過去へ戻る事になったのであった。