幕間16:クリアデータ7 07:10

 

 

 

「うーん、無事にリーガラント軍を撤退させる事は出来たけど、皆に私がこの世界の住人じゃないってバレちゃったわね」

 

体を投げ出した体勢でベッドを背もたれにしながら、栞はジッとテレビ画面を眺めた。そこには、驚いた表情で此方を見つめてくるテザーやエーイチ、そしてエイダのスチルが表示されている。

 

「……でも、いいわねぇ。この隠していた正体が皆にバレて驚かれる瞬間って。いやぁ、こういう女子のアガる展開のツボを抑えててくれるから【セブンスナイト】シリーズは最高なのよ」

 

栞はコントローラーから手を離すと、近くに置いてあったペンを手に取った。そして、机の上にあるノートへとサラサラと手を滑らせる。ゲーム画面は一旦停止させ、これまでの会話ログのページを開き展開の確認していく。

 

「どんな風にサイトにまとめたら見やすいかしら?やっぱ、チャート式がいいわよね?えっと……」

 

栞は現在、サイトに掲載する為の攻略情報をノートに細かく録していた。

これまでも栞は、ゲームの合間に提示された選択肢と、それにまつわる展開の内容を記録し続けている。こういう記録が、後々レビュー動画を作る際に最も大切な資料になるのだ。

栞にとって「ゲームをプレイする」というのは、「サイトに攻略方法をまとめる」「レビュー動画をアップする」というトコロまでがセットだ。

だからこそ、ここぞというタイトルのゲームが発売された時は有休をフルで使う。

 

「昔からこういうの好きなのよ……。魔法少女だってバレちゃいけないのに、ピンチを前に皆の前で魔法を使う状況然り。男装して男子校に入学した主人公が女だってバレる瞬間然り」

 

女の子の秘密がバレるって最高に夢があるわー!

栞は動かす手を止める事なく、うっとりとした表情で驚くイケメン達の顔を眺めた。そりゃあもう器用に“作業”と“トキメキ”を両立させている。そう、上白垣栞はマルチタスクを使いこなす、とことんデキる女なのだ。ただ、それが真価を発揮させるのはオタ活の時のみだ。実社会で発揮される事は殆どない。

 

「まぁ、イーサやマティックにしか知らせてなかったもんね。ほんと、リーガラント軍を全軍撤退させるのは骨が折れましたよ。ラスト目前とは言え選択肢の数とその難易度上げすぎ。こんなの、絶対に途中で詰む子が出てくるわよ?ねぇ?製作スタッフのみなさーん」

 

栞はサラサラとノートの上に滑らせていた手を止めると、ふうと軽く息を吐いた。最後に「これが最終章への道!」とペンで丸を書き記す。

 

「まったく、何回リセットしてやり直した事か……」

 

パラパラとノートを捲る。そこには殴り書きではあるものの、これまでのエイダとの会話と、それによって発生した大量の選択肢、及びその後の展開の全てが書き記されていた。このエイダとの会話だけで、一体どれ程の時間を要した事か。

 

「今から急いでこの情報をネットに上げるわよ!さぁ!私の後に続きなさい!恋するプレイヤー達よ!」

 

これも全て、後に続くプレイヤー達の為だ。

きっと栞の攻略サイトがなければ、多くのプレイヤー達がトゥルーエンドに辿り着く事は出来ないだろう。栞はこの【セブンスナイト4】をプレイする先頭走者として、後に続くプレイヤー達に道を示しているのだ。完全に趣味として。

 

「それにしても、最後の主人公の“鶴の一声”は本当に良かったわ」

 

ノートを片手にパソコンへと向かいながら、栞はこれまでの展開を思いしみじみと口にした。

 

「これまでの六人を攻略済だからこそ、リーガラント軍を撤退させるに至った最高にして意外過ぎる一言。まったく凄いストーリー展開よ。六人全員のエンディングを、このイーサルートで“伏線”にしちゃうんだから」

 

栞は寝不足にも関わらず、一切疲れを感じていなかった。それは、自分が寝不足を越えた先の限界点に居るからなのか、面白過ぎるゲームに没頭してしまっているからなのか。

答えはもちろん“両方”だろう。

 

「これからは【セブンスナイト4】はシリーズ最高峰って呼ばれるようになるわね。クリアした後に公開するレビュー動画のサムネもそんな感じにしよう!『シリーズ最高峰!究極にして神作!』……煽り過ぎ?いや、このくらい煽らなきゃ!」

 

栞はカタカタとキーボードを打ち込みながらクスクスと笑った。明日から有給明けで仕事だというのに、まだまだやる事は盛りだくさんだ。ゲームをクリアして、攻略サイトを完成させる、感想ブログを書いて、レビュー動画を撮影してアップする。

 

本当に忙しい。忙しいけれど、これほど充実した一週間は成人して一度も無かった気がする。

 

「はーー、もうすぐ終わりなんて寂しいなぁ。早くラストが見たいけど、まだまだ遊びたい……でも、終わらせなきゃ」

 

栞はノートをパタリと閉じ、キーボードの上を滑らせていた手も止めた。

 

「終わらせて次に行く事でしか、新しいモノには出会えないんだから。だって、今回の【セブンスない4】のテーマは」

 

【世代交代】なのだから。

栞は放り投げていたコントローラーを再び持ち直すと、停止させていた画面を動かし始めた。

 

「さて、ここから最終章ね。このまま一気にトゥルーエンドへ突き進むわよー!」

 

どうせ終わってもやる事は山盛りだ。終わらせたってロスを起こしている暇は欠片も無い。栞はご機嫌でボタンを押すと、ゲームの世界へと没入していったのであった。