アオイ`Д´
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では、また明日の夜!
皆さんにお出かけがどうだったのか報告しに来ますねー!
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は?誰が更新なんかさせるかよ。
「あ、あの……アオイさん」
「どうしました?タローさん」
あぁ、キモイ。マジでキモ過ぎるわ。何で、俺がこんなキモヲタと一緒に、こんな所に来てるんだろうな。
友達にでも見られたら完全に死ねるわ。でも、まぁ仕方ない。これも“仕事”だ。
「あ、アオイさん……。あの、ホントに……ここで着替えるんですか?」
「ええ、もちろんですよ」
「あ、あぅ」
「だってお互いの家まで戻ってたら手間でしょう。着せてみてくださいよ。今日買った服」
「でも……その、ここって」
キモ過ぎ!なに照れてんだよ!なに顔赤くしてんだよ!なに想像してんだよ!なにキョドってんだよ!
あぁ、そっか!そうだよなぁ!?
「ラブホですね?」
「っ!」
キモいのを我慢して、分厚い鉄仮面を付けて笑顔でハッキリと答えてやれば、タローさんは俯いていた顔をパッと上げた。そこには、周囲のラブホ街の喧騒と、普段では見られないような色とりどりのネオンに照らされた、タローさんの眼鏡が見える。その眼鏡の奥では、羞恥心のせいか、ひっそりと涙ぐむタローさんの真っ黒い瞳。
夜でもハッキリと分かる。
タローさんの顔は羞恥で真っ赤に染まっていた。
マジでキモ過ぎ。
「マジで、かわい過ぎる」
あぁ、良かった。
とっさに本音が出そうな所を紙一重で言い換える事が出来た。やっぱり普段から本音と建て前を使い分けているお陰で、とっさに口を吐く言葉もきちんと理性的で助かる。さすがに客相手に「キモイ」は無いからな。
しかし、どうやら俺の言葉はラブホ街を闊歩する男女にチラチラと視線を向けていたタローさんには聞こえていないようだった。なんだよ、キモヲタの癖に余所見してんじゃねぇよ。
「タローさん!」
「っは、はい!」
「さ、いつまでも此処に立ってると迷惑になりますから。入りましょうか」
「でも、アオイさん。あの、俺なんかが入って……お、怒られないでしょうか」
笑う。誰が怒りに来るんだよ。
未成年かよ。それか、キモヲタは来るなってか。まぁ、言いたくなる気持ちは分かるが……しかし、俺は今日一日共に過ごしたタローさんを改めて見て、思わず眉間に皺が寄るのを止められなかった。
「……大丈夫ですから。さ、行きましょう」
「は、はい」
腰に手を添えキモヲタを誘導する。
今日の宮森タローは、残念ながらキモヲタには見えない。ただの、地味な眼鏡の男だ。もし、今日コイツがいつものクソダサジャージで来てくれてさえいれば、ラブホなんかに来る必要無かったのに。
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イケメンZ世代君、ありがとう^^
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シンプルながらも、全身まとまりのある整った服に身を包んだタローさんを見下ろしながら、俺は腰に添えた手で軽くそのシャツを握りしめた。
あぁ、早くこの服ひん剥いてやりてぇわ。
「……すごい。人が居ない」
テキトーに部屋を選ぶ俺の隣で、ラブホ初体験であろうタローさんの小さな感想が耳をつく。もちろん休憩ではなく泊まりだ。キモヲタのラブホ初体験にまで付き合わされて、マジで最悪の一日でしかない。
「ねぇ、ここ来た事ある?」
「いや、ここは初めてだなー」
「っ!」
その瞬間、フロアの奥から人の声が聞こえた。他人の声に、タローさんが思わず俺の後ろに隠れる。
あぁ、男にそういう事されてもキモいだけなんだけど。
「……かわい過ぎ」
「え?」
あぁ、良かった。またとっさに本音が出る所だった。
「さ、行きましょう。鉢合わせるの嫌でしょう?」
「あ、あ!はい!で、でも……あの、お金は?」
「後払いなので」
「あ、はい。じゃ、あとでお支払いします!」
嘘、もう払った。
なんでラブホの金の清算についてゴチャゴチャしなきゃなんねぇんだよ。つーか、コイツ。前も家でヤった後すぐに金の話してきやがったし。萎えんだよ。やめろ。ここで着てる服ごとひん剥いてやろうか。あ?
「そうか……こういう所は、後に払うのか」
勉強になったと言わんばかりにボソボソと呟くタローさんに内心思う。
お前がオンナと来る事なんて一生ねぇよ、と。
今日一日、俺はよく我慢した。
何食わぬ顔で待ち合わせ場所に集合し、休日でクソみたいに込み合うファミレスでテキトーにメシを食わせ、別に行きたくもねぇオタクまみれの本屋に寄ってやり、その辺のテキトーなカフェでキモヲタの早口ノンブレス語りに付き合ってやった。
途中、タローさんを連れて俺がよく服を買いに行く店に向かったが、あまりにもビビり散らかすもんだから、俺が急いでいくつか服を見繕った。
あぁ、その時もゴチャゴチャと金の事を言われたんだっけ。
『あ、あの……お金』
『あとでまとめてお伝えしますね』
『は、はい!おねがいします!』
あぁぁぁぁぁ!マジでダリィ!
突っ込まれてヒンヒン鳴くキモヲタの癖に、金の心配なんかすんなよ。キモヲタは黙ってノンブレスで好きなアニメの話でもしてろや!
「タローさん、ここです」
「っ!」
俺は子犬のように後ろを付いてくるタローさんの気配を感じながら、腕を引いて部屋へと引っ張り込んだ。