≪感謝≫
自信が無かったお話だったのですが、皆さんが優しく褒めてくださるので元気にいつもの如く番外編を更新しに参りました。
これ以降も、色々更新していこうと思います。
元気を、ありがとうございました!
≪前書き≫
本編直後。ジルと三久地が巣作りプレイにチャレンジします。
果たしてベータの三久地は、ジルの満足のいく「巣作り」が出来るのか。
ちょっと長いです(一万二千字くらい)
もちろんR18。
ジルは三久地の前だと小学生男子に成り下がる。
そんなお話。では、どうぞ。
—–俺のホテルで巣作りをしてくれないか?
そう言われジルの部屋のカードキーを渡された。ジルのホテルは、俺に手配された部屋とは別のホテルだ。
「なんで、俺と三久地先輩が別々のホテルなんだ。調べてみたら、先輩の部屋の隣が空いてたんですよ。意味が分からない」
「はは、なんでだろうね」
ボヤくジルに笑って誤魔化してはみたものの、これはきっと会社側からの配慮だろう。同じ会社の人間が同じホテルの、同じフロアに居るのは、人によっては嫌だと思う。
特に……その、ジルは会社では「有能な問題児」扱いを受けているから。
「手続き上の問題でもあったんじゃないかな。まぁ、残念だけど仕方ないね」
そう、ジルから鍵を受け取った俺は、思わず「あれ?」と声を上げた。そのカードキーは、なにやら俺の持っているモノとデザインが同じように見えた。というか、同じだ。
「なので、三久地先輩の部屋の隣を予約し直した」
「は?」
一瞬、自分の耳を疑った。そんな俺の反応を、ジルは純粋に俺が聞こえなかったモノとして捉えたようで、再び同じ事を言われた。
「三久地先輩の部屋の隣に、部屋を取った」
一切情報が増えていない。
俺は一拍だけ思考を挟むと、今度はハッキリした問いを投げかけた。
「えっと……なんで?」
「何でって。会いたいと思った時に、物理的距離が心理的障壁になって会えないなんて事になったら過大な接触の損失じゃないですか。本当は週末に荷物を移動させようと思っていたんだが……良いタイミングだった」
何だかプレゼンの一節みたいに淀みなく口にするジルに、俺は目を剥いた。なんだか当たり前みたいに言うけど、そのホテル代は一体どうなるのだろう。
絶対に経費精算をしようとしても支払われないと思うのだが。
「ホテル代は……?」
「ホテル代?何を今更。俺は貴方に金の糸目はつけませんよ」
「……」
唖然というのはまさにこの事だ。
一体、この人はホテル代だけでいくら金を投げたのだろう。仕事で沖縄に来て、それで得た給料の分の殆どはホテル代に消えるんじゃないだろうか。
「う、わ……」
思わず声が漏れる。そんな俺の反応に、ジルはその碧い目をシパシパと瞬かせた。その仕草は妙に幼く見えた。
「引いたか?」
「す、少し」
「気持ち悪い?」
「……ちょっと」
「……別れたいと思った?」
またしても不安気な様子で、しかし真っ直ぐと目を見つめられながら問われる。そんなジルに、今やズレなくなってしまったメガネを少しだけ恨めしく思った。これは、余りにもハッキリと見え過ぎる。
こんな強い目で「求め」られたらーー。
「え、と……いや、あの」
顔が熱い。表情が緩む。
そんな俺に、頭上から「っふ」と笑い声のような吐息が落とされた。
「思っていないようで安心した」
「……ぅ」
ジルのホッとしたような声と共に、いつの間にか俺の左手にジルの右手が添えられていた。
ジルの手は既に熱すぎる程に熱く、スルスルと指先で手の甲を這いまわっていく。
「ジルっ……ん。だめ。ぅ、っはぁ……ここ、っ会社だから」
「ええ、そうです。俺は、会社のお手洗いの個室で、恋人の手を握っているだけですが?」
悪びれず楽しそうに口にするジルに「このイタズラっ子め」と思いつつ、自然と指を絡めてしまった。無意識だった。
「ジル、もう出ないと」
「……こんな事されて、それはないだろう」
「手を引いてあげないと、キミは仕事に戻ってくれなさそうだから」
そう、今は午後七時。まだまだ、帰れる気配は微塵もない。しかも、木曜。明日への希望も無く、一週間の疲れの比重が一番きつくのしかかってくる曜日でもある。
「はぁっ、疲れても……人間は興奮するんだな。こういうのも初めてだ」
微かに興奮を孕んだ声が耳元で囁かれる。壁に押し付けられた体に、しっかりとジルの体が重ねられる。「ん?」と下腹部に押し当てられる違和感にジルの顔を見上げる。その下半身は既に緩く反応しかけていた。
「ジル?」
「……」
俺の呼ぶ声に、ジルは微かに視線を逸らした。にも関わらず、ジルの腰は緩やかに揺れている。
「ジル、待って」
「はぁっ……ン、イイっ…」
完全にその気になっている。俺はコラコラと嗜めるニュアンスを含みつつ、ジルの背中を撫でた。
さすがに、今からここでスるなんて本気じゃないよな?
「ジル、ここじゃダメだ」
「す、少しだけ」
「いや、少しって……ちょっ、んッ」
そんな「先っぽだけ」みたいなノリで言われても。言ってる側から、容赦なく更に硬くなった熱を押し付けてくる始末。グリグリ当てられる熱に、頭がクラリとした。ヤバイ。
押しのけようにも、ジルと俺の体格差では力ではソレも叶わない。
「んっ、っはぁ。いいっ……手つなぎさん、おれ、もう…」
徐々にハッキリと形を示し始めたペニスを携え、耳元で熱く喘ぐジルに俺も腰が甘く跳ねた。ヤバい、ヤバい。これは、本当にヤバい。
「っぁぅ。……ン。じ、る」
俺も、勃ってきた。
「っはぁ、っく……五分でだけ、それだったらっ……はぁっ、許容範囲内だ……っ」
許容範囲って。どこから出た。五分のソースはどこだ。その許容範囲は無いだろう。それに、五分って。そんな。そんな!!
俺はカッと目を見開くとジルの耳元に口を寄せて囁いた。
「きょうは、早く、ホテルで……巣作り、しないと」
「っ!」
「早く、しごと……おわらせて、部屋で、ゆっくりシたい」
「……ぁ」
俺の言葉に、ジルの乱れていた息が、ピタリと止まった。そして、最後の仕上げとばかりに、それまでの甘さを含んだ色を消して、彼の耳元で囁く。
「ジョーさん、行きましょう。昨日頼まれていた資料が出来てますので」
「……ああ、わかった」
俺の体からソッと離れて行ったジルの顔を見てみれば、そこにはしっかりと仕事モードに戻ったジルの精悍な顔があった。
あぁ、この人本当に格好良い。顔が。
「俺、九時には上がるようにしますね」
「俺も、出来るだけ早く済ませます」
外に誰も居ない事を確認しつつ、俺達はトイレの個室から外に出た。会社にプライベートは持ち込まない。それは俺もジルも同じだ。
すると、隣からジルのボソリとした誰に言うでもない独り言が聞こえてきた。
「寸止め出来る……運命じゃないって凄いな。いいね」
「……」
それって、そんなに感動できるほど凄い事なんだ。そう思えるのが凄い。育ってきた環境の違いって、面白いな。
こうして俺とジルは、三久地と城としてそしらぬ顔でデスクへと戻った。
「早く終わらせましょう」
「はい!」
そう、仕事とプライベートは分けないと!
「ねぇ、本社から来た三久地さんとジョーさん。あの二人絶対付き合ってるよね?絶対そうだよね?」
「そんなの、皆知ってるって。だって」
—–あの二人、いつも手繋いでんじゃん。
番外編1:ジル君のプレイリスト