番外編10:テルの日課・セイフの日課

 

 

テル「セイフ、ちょっと散歩に行ってくるな」

セイフ「ん。じゃあ、俺も……」すくっ

テル「いいよいいよ。ほんとちょっと歩くだけだから。今から鎧着るの面倒だろ?」

 

セイフ「……いや、でも」

テル「いいっていいって。ほんと、ちょっとだけだから」

セイフ「……あ」

テル「じゃ、行ってきまーす」

 

バタン

 

テルが家を出た事で、部屋がシンとしたよ!

セイフ、一人ポツンと立ってる。

 

セイフ「……テル、いつも散歩は一人で出て行く」そわ

 

すごくシュンとしてる!

まるで「待て!」って言われてる犬みたい!

 

セイフ「なんば、しよるとやか」ソワソワ

 

いつもは言われた通り待ってたけど、どんなに付いて行きたそうな顔をしても断られるからちょっとずつ不安になってきたみたい!

 

セイフ「テル、俺じゃなかヤツと会っとるっちゃなかとやか」

 

——–散歩で誰かに会ってるのかって?いや、別に誰にも会ってねぇよ?散歩だぞ、ずっと一人だって。

 

セイフ「……ほんとやか」

 

不安過ぎて疑心暗鬼になっちゃってる!

 

セイフ「……俺も、散歩ばする、だけやけん」スタスタ

 

セイフ!

とうとうテルを追って家を出た!

 

セイフ「さ、散歩だけ。散歩だけ」

バタン…

 

◇◆◇

 

テル「おー、今日もいっぱい狼が居るなー」にこ!

 

テルは狼の共用訓練場(ドッグラン)の外で、たくさんの狼を見てにこにこしてる!

これが、テルの日課だよ!

 

わんっ!わんっ!

 

テル「狼、良いなぁ」ぼんやり

 

金髪のテイマー「ストロー!行け!……よしよし!最高じゃないか!」

 

っふん、っふん!

黒髪のテイマー「くつした!良い子良い子!お前は本当に賢いな!」

わふっ!わふっ!

 

テル「あの2匹、格好良いけど……変な名前だな。ストローとくつしたって、なんでそんな名前にしたんだろ」ぼんやり

 

テルは家から少し離れたこの場所で、元気な狼達やテイマーを見るのがお気に入りの時間なんだ!

 

テル「昔から……犬、飼いたかったんだよなぁ」

 

——–犬飼いたい!

——–ダメよ。お父さんがアレルギーなんだから。

——–あーーもう!大人になったら絶対犬飼う!

 

テル「……犬、かわいいよなぁ」

 

◇◆◇

一方その頃セイフは。

 

セイフ「……あ、あ。テル」オロオロ

 

セイフは嬉しそうに狼達を見つめるテルにショックを受けてるよ!

なんだか配偶者の浮気現場に立ち会った男みたいな顔をしてる!

 

セイフ「テルは、やっぱり使い魔が……欲しかとかも」

 

——–狼の使い魔を持つのは弓使いの夢みたいなモンだからな!

 

セイフ「……使い魔が来たら、俺の仕事、テルに取られるかもしれん」

 

——–狼の使い魔が居てくれたら、戦場もひっかきまわしてくれるし、色々手伝ってくれるだろうし。あと、寝る時もあったかいだろうなぁ。

 

セイフ「……ぅーーー。そげんかと、嫌やん。でも、嫌やけど」

 

セイフはドッグランをジッと見つめるテルの横顔を見たよ!

 

テル「ふふ、いいなぁ」にこ

 

セイフ「テルが、嬉しかなら……俺は」

 

セイフはそのままテルに背を向けて家に帰ったよ。

 

◇◆◇

 

テル「いけね、ちょと遅くなっちまった」スタスタ

 

テルはストローとくつしたという狼を見るのに夢中で帰るのが遅くなったみたい!

 

テル「セイフ心配してねぇといいけど……ってか、いつも一緒に付いて来たそうにしてるのを無理やり置いてきてるからなぁ」

 

テルは玄関を出る時の、ちょっと寂しそうなセイフの表情を思い出したよ!

 

テル「……でも、セイフのやつ。俺が狼とか使い魔とか見ると嫌がりそうだからなぁ」

 

——–俺が、テルの使い魔やけん。

 

テル「……何が使い魔だよ。もう夫だろ」ぼそ

 

テルは何とも言えない気持ちになると、そのまま急いで家に帰ったよ!

 

◇◆◇

 

テル「ただいまー。ごめんな、セイフ。ちょっと遅くなって……って、え?」

セイフ「……テル」

 

玄関を開けた瞬間、目の前に全身甲冑姿のセイフが立ってたよ!

しかも、扉を開けた瞬間、勢いよく詰め寄ってくるもんだから、更にビックリ!

 

テル「え、え?どうした?(なんで、こんな玄関の前に鎧姿で…)」

セイフ「テ、テル。あの……狼が欲しかと?」

テル「あ、え?いや別に(あ、まさかセイフ。俺の後を付いて来てた?)」

 

セイフ「ほ、欲しかなら……その、か、飼っても、よか……よ(いやや)」苦しげ!

テル「あーー(やっぱり付いて来てたか)」

セイフ「お、お金。ちょっと貯まって、きたし。あの……今度、お店に」ソワソワ

テル「なぁ、セイフ(……やっぱ、セイフって)」じっ

 

セイフ「な、なん?」

テル「狼はいいよ(すげぇ、狼みたいだよな)」

セイフ「えっ、えっ。でも、テルは狼が……その」

テル「うちにも玄関の前で帰りを待ってくれてる可愛い子が居るからな。いいよ」にこ

 

セイフ「っっ!!ほ、ほんとに、いらんと!?」ぱぁ!

テル「うん、もう一人居たら十分だよ」

セイフ「っう、うん!お、俺もそげん思う!」コクコク

 

テル「っふふ、じゃあ。そろそろ夜ごはんにしようか」

セイフ「うん!(これからも、毎日玄関の前で待っとこ!)」

テル(セイフは本当に可愛いなぁ)にこにこ

 

セイフ、この日から毎日テルが一人で出かけたら玄関の前で立って待機するのが日課になったよ!

最強の忠犬!

 

テル「あの、セイフ……玄関で待ってなくていいんだけど」おずおず

セイフ「待つ」

テル「そ、そっか(あんまり一人で出かけるのやめとこ)」

 

結果的にお散歩も二人で出かけるようになりました!