「っはぁ、んっぅ……っぁ、ぅン」

「っんん!」

 

 激しく舌を吸われる。かと思えば、歯茎の隙間、上顎など絶妙に気持ちの良い部分を舌先で撫でまわされる。初めの頃の、狼が飼い主を舐めるような動きから、相手の快楽を追求した動きに変化している事に、俺は内心驚いた。

 

(あれ、くつしたって物凄く上手いんじゃ……?)

 

 正直、そう言った経験が皆無の俺には、他と比べてどうと言える事はないのだが明らかに気持ち良さが増した。そのせいで、先ほどまで殆ど反応しなかった自身もゆるゆると反応し始めてきているのがわかる。これは、ちょっとヤバいかも。

 

「っは、っぁ……はぁ、っは。くつ、した……っちょっ」

「いあん、いあん……ひもちぃ」

 

 くつしたも素肌同士が触れ合う感覚がよほど気持ち良いのだろう。先ほどよりも動きは緩いがしっかりとした腰つきで、下半身の熱を俺の腹や自身に擦り付けてくる。綺麗な見た目に反し、そりゃあもう立派な熱源は、表面に浮かび上がる血管やカリの段差も擦り付けられるだけで感じ取れる。

 

「っひもち、っき、もち!いあん、いあん……っは、っは、っはぁっ!」

「っぁ、く、つした……あのっ!ちょっ!ま、まっ」

 

 待ってくれ!俺はこんなの知らない!

 そう、俺が今まで感じた事のない強烈な快楽に腰を引こうとした時だ。俺の素肌を行き来していたくつしたの性器が、とある場所に行き当たった。

 

「っひ!」

「……あった」

 

 元々真っ赤な目が、その瞬間、本能で血走った気がした。同時に、くつしたの硬度を増した性器が俺の後ろの穴のすぼまりにピタリとくっついている。

 ヤバイ、これはマジで……ヤバイ!

 

「ま、待て!くつした……まって、ちょっと。あ……ぅ」

「いれる、ここ……ここ、ここに。いあんのここ、ここから、いあんのなか。はいる、くつした……の、いれる」

 

 うわごとのように口にされる獣の……いや、雄の本能に支配されたくつしたの姿に腹の底が一気に冷えた。雄同士でも疑似交尾を行う野生動物は少なくない。次いで、マウントを取り合う動作は交尾の動作とほぼ同じだ。

 それに――。

 

「っふー、っふぅっ……っふー」

「っぁ、あ……!」

 

 俺を見下ろすくつしたの目は、まるで〝あの時〟と同じだ。本能的に〝死〟に近い何かを感じた。圧倒的な強い雄の前で、弱い相手は成す術などない。後ろの穴に火傷するような熱さが触れる。きっと、次の瞬間にはソレが容赦なく俺のナカに突き立てられるのだろう。

 

——–おいで、くつした。

 

 そう、俺が言ったんじゃないか。

 それに、くつしたは俺の為に人間の姿になってくれたけど、でも本当は人間じゃない。神獣だ。獣だ。野生動物だ。仕方ない、仕方ない仕方ない。

 

「……しかたないっ!」

 

 なに、死ぬワケじゃない。

 ちょっと痛いだけだ。噛まれたり、体当たりされたり、そういうのと何も変わらないさ。俺は、痛いのになんて慣れてる!

 

「~~っぅぅぅ、でも、ごわいぃ」

「いあん?」

「っひ、っひぅぅ」

 

 なぜか、死ぬ覚悟を決めた時よりも凄まじい恐怖に、肩を震わせ泣いていた。情けない。痛いときや苦しい時ほど無反応が大事だ。それは、決して狼や犬の躾の為じゃない。だって、痛いと、叫んだり泣いたりしたら、更に怖くなる。

 

 だから、歯を食いしばってこれまでも耐えてきたのに!

 

「ぅ~~っ、うぅぅっ!」

「いあん、いあん?」

 

 ペロペロ、ペロペロ。

 

「っぁ、え?」

 

 くつしたが目を真っ赤に染めたまま、小首を傾げた。そして不思議そうな表情を浮かべたまま、俺の目から流れ落ちる涙を救うように舐めていく。その姿は、まるで狼のようだ。でも、違う。

 

「イアン、どうしたの?」

「……え」

「どこか、いたいの?」

 

 そうジッと俺の目を見下ろしてくるくつしたは、腰の動きを止めて、どこか悲しそうな表情を浮かべている。

 

「……くつ、じだ。っン」

「ここ、痛いの?ん、んっ……ん」

 

 生暖かい舌が肩の傷を舐める。その仕草はまるで狼のソレなのに、野生のソレとはまるで違う。くつしたの瞳には、ハッキリとした後悔の色が浮かんでいた。

 

「もしかして、ここ?ここも痛い?くつしたのせいの、ところ」

「あっ、ちがう……違うんだ!」

「ごめんなさい、ごめんなさい」

 

 「ごめんなさい」なんて言葉は狼には存在しない。だって、彼らは本能の生き物だ。

 でも、目の前の相手は腹の底に渦巻く凄まじい性欲を抑え、優しい目で、俺をおもんばかっている。

 

「……くつした」

「いあん、いあん……ごめんなさい。くつしたを嫌いにならないで」

 

 狼と人間は違う生き物だ。それは確かにそうだ。だから、俺は狼の事をたくさん勉強した。違う生き物の彼らの事を知りたくて。

 でも、もしかしたら〝今〟は違うのかもしれない。

 

——–くつした!人間になった!

 

「お前、本当に……人間になったんだな」

「んぅ?」

 

 俺のために。

 くつしたは、今や自分の付けた傷だけでなく、俺の体中にあるこれまでの狼に付けられてきたありとあらゆる傷に舌を這わせていた。生暖かい感触が、素肌を滑っていく。それは性的快楽とはまた別の、胸を満たすような気持ち良さで溢れていた。

 

「くつした、あの……あのな」

「うん?」

 

 人間同士は言葉で通じ合える。まずは話さなければ、伝えなければ何も始まらない。

 俺はゆっくりと体を起こすと、悲しそうな表情を浮かべるくつしたの頬を両手で挟み込んだ。

 

「ここ、挿れても……いいんだけどさ」

「ん」

「この、ままだと……痛いから、だから。ちょっと時間が、欲しくて」

「いたい?」

 

 言いながら、何て事を言ってるんだと恥ずかしくなった。先ほどまでは体全体から急激に引いた熱が、勢いよく戻ってくる。

 でも、ここで止まるワケにはいかない。俺達の間ではやっぱり萎える事なく勃起し続けるくつしたの性器が苦し気に震えているのだから。

 

「くつしたのが、入る、ように……慣らすから。あの、それまで、ちょっと……」

 

 待って、そう言いながら俺は同時に頭を捻った。

 慣らすって何をどうすりゃいいんだ?そもそも慣らしたとして、あのデカいヤツを受け入れる事は可能なのだろうか。

 

「ならす?と、イアンは痛くない?」

「う、うん」

「ならすって、どうするの?」

「……ぬ、濡らしたり?する?」

 

 隣から飛んでくる無垢な疑問に俺が必死に頭を捻って答えると、次の瞬間、俺の視界はグルンと回転していた。