「っへ?」
「じゃあ、くつしたがする!」
「っへ!?え。え……っぁ、ひっ、っン!!」
元気の良いくつしたの言葉が背後から聞こえてくる。同時に、それまで体の表面のありとあらゆる場所に感じていたヌルリとした感触を、まさかの後ろの穴の中に感じた。
え、え!?今、俺は一体くつしたにナニをされてる!?
「っふ、ぅーー、ん……っは、んンぅぅ、レロ」
「~~っぁ、っふ、くつ、し……っぁん!」
湿り気と温かみを帯びた長い舌が、容赦なく俺の尻の穴に挿入される。そこに、躊躇いや戸惑いなど欠片も無い。俺は、ベッドのシーツを握り締めながら、くつしたに向かって尻だけを突き出すという、とんでもない体勢でその舌を受け入れていた。
「くつし……っくすぐった……っぁ、あぅ、っひぅぅっ!」
「っはぁ、っはぁ。ン、ん、ちゅっ……ン」
汚いから止めろと止めたいのだが、口を開こうとすると、まるで声にならない気持ち悪い悲鳴ばかりが上がってしまうため、シーツで口を抑え込む事しかできない。両手は同じくシーツを握りしめる。
シーツの上に、キラリと光る白銀の毛が見えた。
「っん゛―――っ!」
あぁ、やっぱりコレ……くつしたの毛だったんだ。
そう、襲ってくる快楽の合間に、ぼんやりとした思考を巡らせた時だ。それまでよりも、もっと奥にザラついた舌が入り込むのを感じた。
「っ!」
あ、コレ。狼の舌だ。
キラリと光ったのは、くつしたの毛か、それとも快楽の爆ぜた視界の見せた幻か。
「っむ、ぅぅ……ぅ!」
「ひぁっ、っぅンン~~っ!」
ナカのとある一点をザラついた舌が掠めた瞬間、ビクンと体が跳ねた。
ぴちゃぴちゃとしたいやらしい水音と共に、くつしたの舌が俺も知らないようなナカを行き来する。どうやら、奥を奥をと目指すうちに、舌だけ狼のソレになっているらしい。微かにチラリと振り返ったそこには、必死に俺の尻に吸い付く美青年の姿があった。
「~~っっ!!」
俺はこんな綺麗な相手に何をさせているんだ!
そう、美しい宗教画のようなくつしたに尻の穴を舐められ、吸われる現状に罪悪感やら背徳感やら。ともかく様々な感情が次々と襲ってくるのに、再び視線をシーツに戻した。
(ヤバイヤバイヤバイ!これは、もう頭が、変になるっ!)
次第に、窄まった入口に、くつしたの指がグッと食い込み、左右に開かれるのが分かった。
「――っっぁぁ!」
「んっ、ぅぅ、むぅぅぅっ」
そんな風にこじ開けられた経験なんて、もちろんない。正直言って、今の俺の有様はとんでもなく無様だろう。なにせ、三十過ぎのいい年した男が無垢で綺麗な青年を相手にケツを突き出し、どうする事も出来ないままベッドに顔を埋めて喘ぎ泣いているのだから。
でも、一番とんでもないのは――。
「いあん、いあん……ちゅっ、ぅいあん」
「ぅん、うん……!」
「いあん」と舌ったらずな口調にも関わらず、ジワリと腹に響くような低い声に勃起している自分自身の有様だった。くつしたの声から溢れる「大好き」が、羞恥も快楽も超えて、腹の奥を疼かせる。
(あぁ……きもち、いぃっ)
そうやって、どのくらいの間くつしたに後ろの穴を舐められていただろう。まるで、自分の性欲など忘れて何かに憑りつかれたように俺の穴を舐め続けるくつしたに、先に俺の方が音を上げてしまった。
「っぁ、ぅ……くつ、したっ!」
「っ!」
思わず喘ぎそうになるのを堪え、出来るだけハッキリと名前を呼ぶ。その瞬間、ふやける程に舌を這わされていた穴から、ヌルリと柔らかい感触が一気に引いていく。
「っひ、ぅっぁん!」
ゾワリと背筋に走る快感と共に、ハッキリと「物足りない」という感情が湧き上がり、ジワリと体温が上がった。
俺は、一体どうしてしまったんだ。
「い、いあん?イアン!」
「う、わ」
どうやら、俺に叱られたとでも思ったのだろう。それまでうつ伏せにされていた俺の体が、ゴロンと仰向けにされると、目の前に不安気なくつしたの顔が現れた。
「く、くつした?」
「いあん?ど、したの?い、痛かった?くつしたは、ダメなことを、した?」
鼻先が触れるほどの距離感にくつしたの顔がある。真っ赤な瞳はユラユラと揺れ、首筋に貼り付く銀色の髪の毛から、ポタリと汗が零れ落ちた。ツンと鼻を突くのは、俺とくつした。どちらの汗の匂いか。
「どうしよう、どうしよ。イアンが居なくなったら、くつしたは、も、どこに……さがしに行けばいいのか、わからないのに」
「ぁ」
泣きそうに歪んだその顔は、あの日、薄れゆく記憶の中で見たくつしたの表情と酷似していた。それは狼の姿だろうが、人間の姿だろうが変わらない。
「くつした、大丈夫だ。俺はもうどこにも行かない」
「ほん、と?」
俺はくつしたの顔を両手で挟むと額をジッと目を見つめた。不安がっている時ほど、目を見てやらないと。
「ああ、本当だよ。大丈夫、怒ってないし。どこも痛くない」
「ほんとうに?」
「うん」
まだ、人間相手に目を合わせるのは苦手だけれど、くつしたならどうって事ない。だって狼だから――そう思っていた筈だったのに。
「あの、くつした……」
「なぁに」
俺はジッと見つめてくるくつしたの視線から、スルリと目を逸らした。
ダメだ。今はくつしただと分かっていても、こんなに真正面から目を見るなんて到底できそうもない。だって、だって!
「……あの、さ。もう、いいよ」
ゴクリと唾液を飲み下し、吐き出すようにそれだけ口にする。腹の底がジクジクと疼き、先ほど時間をかけて舌を抜き差しされた穴が、ナニかで塞いで欲しいと強い欲求を脳裏に響かせた。
「なにが?」
「え?」
「なにが、いいの?」
心底ワケが分からないと言った様子で放たれたくつしたの言葉に、俺は思わず目を剥いた。ただ、もちろんくつしたは誤魔化しているワケでも、俺に意地悪を言っているワケもなく。
「??」
ただ、本気で何に対して「よし!」と言われたか分かっていない様子だった。
「あ、えっと……」
「んぅ?」
おやつが目の前にあって「待て!」をしている時は、みなまで言わずとも嬉しそうにおやつに尻尾を振るのに、「待て」が長すぎて何をしていたか忘れてしまっているようだった。
「うぅ、う……なにって、その……えっと」
「イアン、大丈夫?」
そうやってスンスンと顔を寄せて匂いを嗅いでくるくつしたの下半身は、ずっと勃起したままだ。先ほどから、俺の足にずっと当たっている。
「~~っ!」
本当は「辛くないのかよ!?」と詰め寄りたい。でもチラと横目に見たくつしたの目は、先ほどからずっと心配そうに俺の方を見つめるばかりだ。今のコイツにとって、自分の性欲なんて二の次らしい。最初は、発散できない強烈な性欲にボロボロと涙まで流していたというのに。
「……もう、良い子すぎだよ。お前」
「くつした、いいこ?」
あぁ、こんな良い子は、他に見た事がない。
俺は恥ずかしいのを懸命に堪えると、荒くなる呼吸を必死に抑え込みながら必死に両手で膝裏を抱えて、くつしたの目を見た。
くつしただって、目の前におやつがあったらちゃんと食べられるんだ。もう、コレで分からないようなら、俺は知らん!
「っはぅ、っは……くつした」
「イアン?」
「お、俺と、こ、こっ……!」
熱い、死にそうなくらい。体が、熱い。
もう、目なんて開けてられない。
「こうび、しよう!」
「っ!」
くつしたの息を呑む声が聞こえる。
あぁ、なんて誘い方だ。これだから人間関係をサボってきたクソ童貞はダメなんだ。でも、仕方ないだろう!?俺は、本当に、こういうのは何も分からないんだからっ!