「……」
「……」
どこからどう見てもヤケクソな誘い文句を口にした直後、ちっともやってこない後ろの穴への衝撃に、俺は閉じていた目を片方だけ微かに開いた。俺が「よし」と言えば、きっと「おやつ」を食べるみたいに、凄い勢いで挿入されるとばかり思っていたのに。
「え?」
「っはぁ、っはぁ、っはぁ」
目を開けると、そこには俺以上に顔を真っ赤にして肩を震わせるくつしたの姿があった。
「く、くつしたはっっ、」
「……おい、どうした。くつした?」
「くつしたは、……今から、いあんと、こうびを、する?」
真っ赤な顔。合わせられない視線。潤む瞳。
(あぁ、くつしたも恥ずかしいのか)
そういえばそうだった。くつしたも人間になったせいで「羞恥心」が、しっかりとその身に宿ってしまっていたんだった。
ただ、くつしたの視線は、しっかりと俺の後ろの穴に向けられている。瞬きもしない。釘付けとは、まさにこんな姿を言うのだろう。
「……あ、あの。あんまり見るな、よ」
「でも、見て、ないと……くつした。じょうずに、イアンのナカ、いれ、れない」
「た、たしかに」
なんてザマだ。こんな無様で、段取りもクソもないような交尾が……セックスがあるか。いや、確かにここにある。童貞と、そして獣上がりのまだまだ赤ん坊の二人によるセックスは、どこもかしこもぎこちなかった。
「こ、ここに。入れて、いい?く、つしたは……まちがって、ない?」
「あってる、あってるから。だい、じょうぶ」
必死に足を開きながら、俺はくつしたが隆起する自身に手を添え、ピタリと後ろの穴に添えた。焼けるような熱の塊に、穴の淵がヒクリと疼く。
「っぁ、ぅ」
ヤバイ、怖い。でも、怖い以上に、なんかスゴイ、ゾクゾクする。
「いれる、よ。いあんに、くつしたの、いれる。ここで、あって――」
「合ってるからっ!」
クソッ、早く挿れろよっ!
そう、叫んだ瞬間、舌よりもずっと硬くて大きいモノがナカに突き立てられていた。
「ぁ……っぁ、あ、っ――!」
早く、と自分で言っておきながら容赦なく奥まで捻じ込まれた太い亀頭に、目の前が爆ぜる。
(なんだ、コレ。こんなの、知らないっ、こんなの、俺は……今まで!)
視線の先に映り込む白銀の毛が、パチパチとまるで炭酸が弾けるように光輝いた。
「っん゛っぁぁ……っぁっ、ぁ゛、ひぅぅっ!」
「っは、っはっはぁっ!っ、く!」
「あッ、あ…ッ、ひゃ、っぁぁんっ」
ぬ゛っ、ぐっ……ズププッ!
考える暇もなく、くつしたは肩で息をしながら激しく腰を揺らし始めた。コレだ!コレが欲しかったんだと言わんばかりに叩き付けられる剛直に、ゴチュゴチュと耳まで犯されるような激しい挿入音が部屋中に響く。
「き、もちぃっ……!イ゛ぁんっ、これ、っぁ!すご、いぃっ!ひも、ちぃっ!」
「っぁん、っぁ゛!~~ぁっ!」
これでもかという程上体を抱きしめられながら、パンパンと激しく抜き差しされるせいで、一切の体の自由が利かない。ただ、そうやって成す術なく強者に体を好き勝手にされる感覚に湧き上がってきたのは、屈辱ではなく、凄まじいまでの安心感だった。
「くつっ、したぁっ!っぁ!ん゛ぅぅぅ!」
「っふ、っふ、ン!」
気付けば再び口を塞がれていた。もう、呼吸すら目の前の獣に制圧されている。視界には銀色のキラキラしか見えない。星みたいだ、と頭の片隅で思う。
「で、るっ!っぅ、っは、ぁ゛ぁッ!」
「―――ッ!!!」
腹の奥にジワリと熱い感覚が広がっていく。どうやら、射精したらしい。ただ、二度目の射精にも関わらず、凄まじい律動も、凶器のように固い性器もまったく緩む事はない。ナカを濡らすくつしたの生ぬるい種子が、滑りを助け更に抜き差しが早くなる。
ずりゅっ、ずりゅっ!ゴチュゴチュ!
「っぁ、っひぃっ!っあ、も……!激しっ、これぇっ!」
押しては引いていく快楽の波に、頭がおかしくなりそうだった。
はじめ、どうする事も出来ないほどの快楽に、くつしたがはらはらと涙を流していたのが分かる。俺も、今まさにそんな感じだ。視界が歪む。
「っぁ、ぁぁぁんっ!」
でも、最高に気持ち良いっ。
射精感が高まる。そろそろ俺もイきそうだ。
「あっ、あ!くちゅ、したっ……も、らめっ!おかしく、なるっ……ダメぇっ」
「っ!」
その時の俺は、自分がまさかAV女優みたいな言葉を吐いているとは全く自覚がなかった。ただ、気分が高まって。気持ち良くて。どうしたらいいのか、何を言ったらいいのか分からなくて。記憶の中にある「出来る限りいやらしい言葉」を口にした、それだけだったのだ。
それなのに、気付くと、それまで絶え間なく与えられていた快楽の波が、ピタリと止まった。
「っへ!?」
「……っはぁ、っは、ぐぅ」
目の前には、先ほどまでの激しい腰つきがまるで嘘のように静止させるくつしたの姿。もうすぐで俺も射精出来そうだったのに!自分は出したからって、これは余りにもヒド過ぎる!
「お、いっ!くつした!なんでっ!?」
そう、くつしたを睨み付けると、そこには唇を必死に噛み締めて肩で息をする情けない雄の姿があった。次いで、俺の耳に届いたのは、まったくもって予想外の言葉だった。
「い、あん……いた、い?」
「え、いた……え?」
「いあん、いたい?」
イアン、痛い?
くつしたは、自分自身が苦痛に表情を歪めながら、そんな事を言い放つ。
え、どういう事だ。くつしたは、何を言っている?
「だって、さっき……ダメェって、言った、から」
「っあ゛!」
あぁぁぁっ!そうか!そういう事か!
俺はこれまで、狼だったくつしたに一年間にわたって言い聞かせていた言葉をしっかりと思い出した。
——–くつした、ダメ!
(クソっ、俺がっ!ダメって言ったからじゃねぇか!)