ふぇふぇ、と腰を振りたいのを必死で耐えながら、俺の言葉に従うくつしたは苦しくて再び泣きそうな顔になっていた。
そうだ、今のくつしたは俺の言葉が通じる。だって人間だから。だから、俺がダメとか、イヤとか言ったら、言葉を言葉通り受け取るのは仕方のない事じゃないか。
「……ダメ、じゃないっ」
「でも、さっきイアンは……」
そう、俺よりも上に居る癖に恐る恐る上目遣いで見てくるくつしたに、俺は自分を恥じた。自分の痴態にではない、くつしたの事を何一つ分かってやれていなかった自分に対して、だ。
「……きもち、良いよ」
人間の高度な「嫌よ嫌よも好きのうち」を、今のくつしたに理解させようとしてもダメだ。
これは、俺とくつしたの大切な交尾だ……いや、セックスだ。コミュニケーションだ。何を恥ずかしがる必要がある!
「ほ、ほんと?痛く、ない?」
「うん。凄く、気持ち……いい。くつしたのがナカで動くの、気持ち、いいっ」
くぅぅ、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしいっ!
俺は少しでも羞恥心を逃がすように、ヤケクソでくつしたの唇に吸い付いた。でも、後から考えるとその方がよっぽど恥ずかしい事をしたと思う。
でも、もうこの時の俺は全くもって「普通」では無かった。
「んっ、はふ。じゃあ、まだいっぱいイアンのナカに出していい?」
「ん、出して。たくさん、出して。ふ、二人で、その――」
赤ちゃん、作ろう。
その瞬間、俺の中のナニかがガシャンと音を立てて壊れた。多分「理性」とか「世間体」とか「いつもの俺」とか、そういうヤツ。そして、壊れた瞬間。途端にどうでも良くなった。
「つくるっ!くつしたっ、イアンと赤ちゃん、つくるっ!」
「~~っひ、っぁぁあん!」
そこからは、人間同士の性行為というにはあまりにも本能に忠実過ぎる行為が始まった。俺には、比べるべき相手も、経験もない。でも、それが余りにもイき過ぎた行為であることはさすがに理解出来た。
「っふ、っぁあぁんっ!ひもちぃっ、もっと、もっと奥に、ちょうらいっ!」
「っは、っは!うぅーーっ!いあん、いあんっ!ぐぅぅっ!」
「っひぅぅぅっ!あッ、あっん!しょこ、もっとゴリュゴリュしてぇっ」
時に、獣同士の交尾のように、背後から腰を掴まれ奥まで叩き付けられ。
「っぐぅぅ、ぐぅぅ……いあ、んっ……っはっはっは!」
「くつしたっ、くつしたっ、も、おれのっ、俺のぉっ……っはぐぅ、はぐ」
時に、互いに正面から抱きしめ合いつつ、激しくくつしたの首筋に噛みつてやったり。
「っふ、っふあぁぁっ!……なか、いっぱいっ。……これ、いじょ、シたらっ、あかちゃん、できちゃ……ぁー……んっ、んっ」
「っは、っは。っく、っぐぅうぅ!」
律動の度にナカから溢れ出るくつしたの種子を、漏らすまいと自ら穴を締め、良い子という代わりに体中を舐めつくしてやったり――。
「……ぁーー」
俺の信条として、褒める時は全身全霊で、というモノがある。そして、人間の前では殆ど動かない表情筋も、犬や狼の前でなら、これでもかというほど仕事をしてみせる。嬉しい、楽しいを、全部表してくれる。
「くつ、した……」
「いあん?」
「……たの、しいなぁ」
意識を手放す際に思わず漏れた言葉は、セックスの後に口にする言葉としては情緒も余韻もないモノだった。でも、その時の俺は確かにそう思った。確かに、楽しいと感じた。
「……はぁ、くつした」
大好きだよ。
好きな相手は「楽しい」と「大好き」で縛らなければならない。だとするなら、俺はくつしたに出会った最初からずっと縛られていた。でも、それは本望だ。
「くつしたも、いあん、だいすきー」
フワリとした毛の感触が体全体を包み込んだ瞬間、俺は、これまでの全てを捨てても、今度こそ、この温もりと一緒に居続けようと誓ったのだった。
でも、最後に微かに残る理性が耳元で囁いた。
『お前、目覚めたら……絶対に今の自分に後悔するぞ』
うるさい。
起きた後に襲ってくる羞恥心の事なんて、今は絶対に考えない!
こうして、その時の俺はドップリと意識を沈めさせる事でその場の羞恥を回避した。ただ、まさか狼に戻った狼姿のくつしたに、無邪気な言葉責めを食らう事になるなんて、この時の俺は、知る由もないのだった。
おわり
【後書き】
イアンの淫語発言までの流れでした。エロしかないのに、謎のギャグっぽさが全体的に突き纏うコレは一体なんなのか。
次からは、その後の二人のアレコレや、ちょっとした事件についてお喋りさせていこうと思います。