カミュの価値基準は〝強さ〟のみだ。
——どんな女が好みかって?そんなの、強いヤツに決まっているだろう!強い女と交われば、強い子供が出来るからな!顔?そんなモノは付いてさえいれば問題な……いや、無くても別に構わんか……ってぇぇぇ!何で殴るんだ、セゾニア!
そんな事を言ってはセゾニアに殴られているのを、まだ小三だった俺は画面のこちら側からケラケラ笑って見ていた。女にデレデレしない。ただ強くあろうとするカミュの明るくて、ちょっとバカっぽい姿が大好きだった。カミュには恋愛要素は皆無で、それが小学生男子には安心して見ていられた。
——ループ、一戦やらないか!
それが、いつの頃からだっただろう。
この世界で、四十回程のやり直しを繰り返した辺りには、当たり前のように「愛の告白」をされるようになった。何がきっかけだったかは分からないが、今や告白されるのは必須イベントとなった。
そこから、カミュの言う「一戦」の意味が百八十度変化した。
「っぁ、っぁん……か、みゅっ。ひもちぃっ」
「あぁっ、俺もだッ」
森の中で、グチュグチュといやらしい水音に紛れ、俺の酷い声が響き渡る。正直、耳を塞ぎたいほど恥ずかしい。でも、我慢出来ない。そんな俺の気持ちを知ってかしらずか、カミュは俺の耳の中に容赦なく舌を捻じ込んできた。
「っふ、っぁ……かみゅ、くすぐったい」
「気持ち良いの間違いだろ?」
「あっ、あっ……ンっ!」
普段のやかましい声と違って、こういう時のカミュは囁くような物言いをするのでギャップで頭がおかしくなってしまう。酷い時は、声を聞いただけでイってしまう事もある。
「っぁ、ん。っふぅ」
「ループ、良い顔をしているな。こんなに締め付けて、全部絞り取られそうだ」
「っぁ、っっぁぁ……!」
ナカの奥深くまで怒張を捻じ込まれ、思わずカミュの体にギュッと抱き着いた。
最初は地面に寝かされ正常位でカミュの怒張を突きたてられていたのだが、今は向かい合った体勢のまま軽々とカミュに体を抱きかかえられ、絶え間なく奥を突かれている。
「ループっ、ループっ!どうだ、気持ち良いかっ!?」
「っん!ひ、もちぃぃっ!……あッ!っひ!」
あまりの激しさに、服のはだけたカミュの体が目の前に晒された。鍛え抜かれた体に入る無数の傷。その中で一際濃く残る傷に、俺は吸い込まれるように唇を寄せた。
「っは、かみゅっ……っん、んん」
「……ループ?」
俺はカミュの首元から胸にかけて覗く濃い傷の痕にひたすら舌を這わせた。これはカミュが俺を庇って出来た傷と同じ位置にある痣だ。こうしてカミュと体を重ね合わせるようになってから気付いた。最初は偶然かと思った。
でも、回数を重ねるごとに色が濃くなっている気がする。
「ループは本当にこの傷が好きだな」
いや、別に好きじゃない。むしろ見てると苦しくなる。本人に何の傷か尋ねたところ「生まれた頃から付いてるんだ!どうやら俺は生まれる前から戦っていたらしいな!」なんて笑って言うのだから堪らない!
言い返す余裕は無いので、笑ってこちらを見下ろしてくるカミュを無視し必死に傷を舐め続ける。
「……あぁっ、なんて良い眺めだ」
頭の上から唸るようなカミュの声が降ってきた。これも普段ではなかなか聞けない艶のある声だ。かっこいい。
「ループ、お前は本当に可愛いな」
「っは、ぅ……っひん。ンンッ」
気が付くと、俺はカミュに口を塞がれていた。カミュによって隙間なく後ろのアナを塞がれ激しく抜き差しを繰り返されながら、口の中ではカミュの舌が乱暴に暴れ回る。もう何も考えられないくらい気持ち良い。
「っふ、ンン……っむぅっ」
「可愛い」なんてカミュには似合わない言葉だ。だって、カミュにとって顔はどうでも良いんだから。
——強い女と交われば、強い子供が出来るからな!
そう、カミュにとって大切な事は「強い」かどうか、だけなのだから。でも、カミュは分かっているのだろうか。俺は……ループは、確かに強いかもしれないが、男なので子供が産めないのだが。
「ン、か……っ、みゅ。カミュ……!」
「っは、なんだっ!」
カミュの胸をトントンと叩いて、どうにかキスを止めた。すると、カミュは少しばかり不満そうな表情でこちらを見下ろしている。
「ループ、どうして止める。まさかっ、俺との口づけが嫌なのか!」
「いや、ちがう!全然嫌じゃないんだ。むしろ、大好きなんだけど……っぁ、ん」
「では止めるな!」
「いや、あのっ!っひ、ん……でも、ちょっと一つだけ言っておきたい事があって」
「なんだ!?」
こんな問答の間も、腰を止めないカミュのせいで上手く話せない。
いや、さすがにそんな事は無いだろうが、相手はあのカミュだ。何事にも真っすぐで皆から脳筋なんて言われている〝あの〟カミュだ。今更だが、一応伝えておかねば。
「カミュ、知ってると思うけど俺は——」
俺は男だから、お前の子供は産んでやれないんだぞ。
そう、言ったつもりだった。でも、実際に俺の口を吐いて出たのは、まったく別の言葉だった。
「俺は、カミュとの子供が欲しい」
「っ!」
あれ、何を言ってるんだろう俺は。いくらゲームの中とは言え、男同士で子供なんて出来るワケないのに。
すると、先程まで不満そうだったカミュの表情が一変した。
「ははっ……そうか。俺との子供が欲しい、か」
そう呟いた時のカミュの表情は、いつものような底抜けに明るい笑顔ではなかった。どこか仄暗い、ねっとりとした絡み付くような笑み。
「やっぱりお前は、最高だな」
その顔に、俺が「カミュ?」と尋ねようとした時だ。
「っぁ、ッぁぁぁぁん!」
下から激しく奥を突き上げられていた。
「っはぁ、っははは!本当にお前は最高だ!」
「っひぃっ、あっ、あッ、あッ……っ!」
ナカで膨れ上がる怒張が内臓を圧迫するほどに容赦なく突き上げてくる。もう、呼吸すらままならない。生理的な涙が瞳を覆い、視界が揺らぐ。
「ループ、お前と俺ならそれはもう強い子が生まれるだろう……あぁ、良いっ……!お前はどこまで俺を楽しませれば気が済むんだっ!」
「あ、あ……っはぅぅ」
否定する余裕もないまま、俺はカミュから振り落とされないように、四肢の全てを使ってその熱い体に抱き着いたのであった。
◇◆◇
「ちょっと休憩するだけって言ったでしょ!?アンタ達一体何戦やってきたのよ!」
「ご、ごめん!」
俺とカミュが皆の所に戻ってすぐ、セゾニアからのお説教が凄まじい勢いで飛んできた。しかし、どんなに遅くなっても仲間達はそれを変だとは思わない。普通に夢中になって剣を交えていたと思ってくれるので、それは有難いところだ。
「悪いな、セゾニア!俺はループを前にすると歯止めが効かなくなるのだ!」
「カミュ、あんた全然悪いと思ってないでしょ」
「ああ、思っていない!さぁ、日が暮れるといけないからな!早いところ出発しようじゃないか!皆急げ!」
「あんたねぇっ!?」
一切悪びれる事も誤魔化そうともしないカミュに、俺は思わず吹き出した。
やっぱり、カミュは何回やり直してもちっとも変わらない。ちょっと抜けてるけど、真っすぐで明るくて、最高に良いヤツだ。やっぱり、そんなカミュが好きだ。
だからこそ、俺は酷く申し訳なくなった。
「……なぁ、カミュ。ごめんな」
「ループ、お前は一体何を謝っている?」
プリプリと怒りながら前を歩くセゾニアの後ろから、俺はソッとカミュにだけ聞こえるように声をかけた。これだけは、どうしても伝えておかなければ。
「あんな事言ったけど。俺、男だから子供は産めないんだ」
「は?」
すると、それまで太陽の光に目を細めていたカミュの瞳が、そりゃあもう大きく見開かれた。直後、大きな笑い声が俺の耳に響き渡る。
「あははっ!やっぱり、ループは最高だなぁっ!」
「うわっ!」
突然、肩へ腕を回され、ギュッとカミュの方へと体を抱き寄せられる。突然のカミュの笑い声に、前を歩いていた仲間達の視線が一瞬だけこちらへ向くが、気にした風もなくまたすぐに前へと戻された。
「まぁた、カミュのループ最高!が始まった」
「男同士で暑苦しくないのかねぇ」
「ふふ、仲が良いのは良い事じゃない?」
そうだ、カミュのこの台詞もこの態度も〝いつもの事〟である。
小三の時にプレイしたあの頃のまま。カミュは十年前のあの頃から、ずーっと変わらずループが好きだ。そして、それは俺もそう。ずっとカミュが大好きだ。そんな気持ちで、俺がカミュの方を見上げた時だった。
「ループ、俺はお前さえ居てくれればそれでいいんだ。お前さえ……お前さえな」
そう、耳元で囁かれた声はいつもの元気な声とは違い、ささやかでどこか呪文のようだった。その言葉に、俺は背筋をヒヤリと凍らせる。
あ、コレ。ダメなフラグが立った気がする。