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「ループ……」
勇者の死亡は、世界を震撼させた。人々は口々に、この世界から希望は絶たれたのだと言った。
「そりゃそうだ。アイツが居ない世界のどこに希望があるってんだ」
ループが居ない事で揺れる世界を見るのは、酷く心地良かった。その絶望が、死にきれなかった俺には唯一の癒しになっていた。
もちろん、仲間達ともバラバラだ。完全に俺の言葉が引き金だった。しかし、遅かれ早かれこうなる運命だったように思う。元々、ループが居たからこそまとまっていたパーティだったのだから。
ループが居なくなれば、もう互いに一緒に居る理由もない。
「……あーぁ、早くこんな世界、滅びちまえよ」
自分でこの世界を絶つ事も出来ない俺は、世界の方が終わってくれるのを、今か今かと待ちわびた。
俺はどこまで落ちぶれれば気が済むのだろう。でも、もういい。自ら命を絶てなかったあの日から、俺は自分自身に期待なんてしちゃいない。
「ループ、お前が居ない世界なんて……こんなモンさ」
俺と違いループは勇者だ。その存在が、世界に与える影響は大きい。
アイツの死で、世界が終わりを迎えてくれるなら、俺はまだこの世界を愛せる。そして、世界と一緒に、俺も終わりを迎える事が出来るだろう。そうすれば、きっと俺は再びループに会える筈だ。
そう、思っていたのに。
この世界は、どこまで行っても不条理……いや、残酷だった。
「あ、あたらしい……勇者?」
ループが死んでしばらくして、新しい勇者が現れたというニュースが飛び込んできた。そして、その知らせを皮切りに人々は希望を取り戻す。あれよあれよという間に、新しい勇者は世界を光で照らし、魔王を倒した。
こうして、世界は呆気なく救われてしまった。
「……は?」
平和な世界で、祝福に包まれる世界。新しい勇者を称える声。その中には一つも「勇者ループ」の名を口にする者は居なかった。置いていかれる。どんどん、世界から置いていかれてしまう。俺が、ではない。
「ループ?」
これじゃ、まるで……ループなんて最初からいなかったみたいじゃねぇか。
なんだ、この世界。不条理過ぎて笑えてくる。なぁ、他に居ないのかよ。俺以外にループの死で絶望している奴は。足を止めてるヤツは。止まれよ、止まってくれ!
「ループ、どこに行った?」
俺の死に対して、俺以上に絶望してくれる。泣いてくれる。誰よりも愚かで誰よりも優しくて、この世で最も愛しいループ。
「会いたい……会いたい、あいたい」
自分に期待した俺がバカだった。世界に望みを託した俺が愚かだった。一回目から、俺の人生を賭ける相手は「ループ」お前だけだったというのに。
なぁにが、諦めなければ運は巡ってくる、だ。ほんっと、ボケ野郎は他でもない。俺じゃないか。
「あぁ……早めに諦めときゃ良かった」
俺は最後にループに買い与えられた、斧を首元に押し当てた。
死ぬ時に付いた傷は、次の体に引き継がれる。だから、死ぬときは出来るだけ傷が見えやすいところを選ぼうと決めていた。
「ループ、次こそは……俺が先に逝くからな」
その日、俺はやっとループの居ないクソみたいな不条理な世界に別れを告げた。それは、ループが死んでから十年も経った、それこそ何でもない夜の出来事だった。