番外編4:【あるぷす!テメェマジで良い加減にしろ!???】(カミュ←???)

 

 

小学3年生のある日、おれは初めて一人で旅に出た。

 

『ここが、かぶしき会社あるぷす……?思ったよりちっちゃいな』

 

目の前に現れた、どこか古ぼけた建物を前におれは驚いてしまった。

あんなに面白いゲームを作る会社なのだから、もっと大きなビルなのかと思っていたのに。なんだか、少しがっかりした。

 

『あーぁ、ここまで来るのに三百円もかかっちゃった』

 

ここに来たのは、お母さんにも内緒だ。

一人で電車に乗る時は駅員さんに止められないか不安だったけど、全然大丈夫だった。きっとおれが、六年生くらいの大人に見えたのかもしれない。だって、おれはクラスで3番目に身長が大きいから。

 

『よし、がんばるぞ』

 

ここに来たのには、理由がある。

 

『どうにかしてカミュを生き返らせてもらわないと』

 

これが今回のおれの旅の目的。

百回やってもカミュを助けられなかった。だとしたら、もうゲームを作った大人に頼むしかない。

 

『でも、子供が言ってもオトナは話を聞いてくれない』

 

きっと、このままこの建物に入っても「どこから来たの?」「お母さんは?」「入っちゃだめよ」とか、色々言われて結局話を聞いて貰えないに決まっている。

だから、おれは作戦を考えた。

 

『あっ、あそこだ!』

 

おれは、あるぷすのすぐ傍にある、古ぼけた喫茶店まで走った。今日のおれの戦いの舞台はここだ。

 

『よし、ちゃんと開いてる』

 

少し緊張しながらお店の戸を開けると、扉の上にくっついていた鈴がカランとなった。

 

『いらっしゃい』

『は、はい!』

『……ん?キミ、一人?』

 

お店の奥に居たおじさんが、おれを見て眉間に皺を寄せた。ほら、大人は子供が一人で店に入ると、すぐにこういう顔をする。

 

『お、オレンジジュースをください!お金はあります!』

 

帰りなさいと言われる前にそう言った。

そして、ちゃんと財布があるのも見せた。

 

『あ、あぁ。そう』

 

おれはパタパタと店に入ると、そのまま一番奥の大人が四人座る椅子に座った。お店の人がジッとこっちを見ているのが気になったけど、気付いていないフリをした。

 

『……いた』

 

お店を見渡したら、何人かのスーツの男の人が居た。

きっと、あるぷすの人だ。

 

『カミュ、待ってろよ。絶対におれが助けてやるからな』

 

おれの考えた「カミュ救出作戦」はこうだ。

株式会社あるぷすの近くのお店で、お店のお客さんに聞こえるようにカミュの良いところをたくさん言う。

 

何故かって。

大人は酒とコーヒーを飲むから、会社の近くのそういう店に行けば、きっとあるぷすの人が居る筈だ。子供のおれはお酒を出す店には行けないけど、コーヒーの店なら大丈夫。前にお母さんと入ったけど、そういう店は子供用の飲み物も置いてあったから。

 

『っふーー、がんばれ、がんばれ。おれ』

 

カミュがどれけ良いヤツか、作った人は作った人なのに分かってないのだ。だから、おれが教えてやることにした。カミュがどれだけ良いヤツかを!

そうしたら、きっと「やっぱりカミュを死なせるのは惜しいな」って言って、ちゃんとカミュが生きているゲームを作ってくれるに違いない。

 

「はい、お待たせ。オレンジジュース」

「っ!は、はい!」

 

急に話しかけられてびっくりした。

顔を上げると、そこにはお店のおじさんが居た。

 

『この辺の子?』

『……う、うん』

『へぇ、今日はなんでこの店へ?』

『えっと……』

 

なんて言ったらいいか分からなくなった。とっさに本当の事を言いそうになる。

でも、グッと堪えた。だって本当の事を言ったら追い出されるかもしれない。

 

『……えっと』

 

どうしよう。

カミュを助る為に来た癖に、おれの方がカミュに助けて!って言いたくなった。

 

『か、か……』

『ん?』

 

おじさんがおれの事を見てる。

怖い。帰りたい。そう思った時だった。

 

——どうした、ループ!もしかして怖いのか?

『っ!』

 

カミュの声がした。

 

——そんなワケないよな?なにせ、お前は「恐怖」を倒す為の「勇気」を人よりたっぷり持ってる!なぁに、もし足りないようなら、おれが分けてやるから安心しろ!さぁ、行こう!ループ!

 

それは、強敵ドルッシラとの決戦の前にカミュがループに言った言葉だ。勇気が足りないなら、おれのを分けてやるってカミュはループに言ってくれた。

 

『……』

 

まるで、おれに言ってくれたみたいな気がして、おれは俯いていた顔を上げた。

 

『……か、カミュ』

『カミュ?』

『あ、えっとカリギュラの……』

『あぁ、カリギュラの!なに、好きなの?おじさんも好きだよ。カミュ』

『ほんと!?』

 

どうやら、お店のおじさんもカリギュラの……カミュの事が好きらしい!

 

『おれも、カミュが一番好き!だって、強いし、面白いし、かっこいいし!』

『分かるよ。武器も格好良いよな?何持たせてた?』

『せんぷ、トマホーク!あれが、いっちゃんカミュに似合う!格好良い!』

『へぇ、渋いとこ突くねぇ。おじさんはハルバードかな』

『あー、それも良いと思うけど形がなぁ』

 

まさか、大人でカリギュラをしている人が居るなんて思ってもみなかったおれは、そこからおじさんとカミュの話をたくさんした。

お父さんもお母さんも『また、ゲームなんかして』って言うけど、やっぱり大人でもカリギュラは楽しめるし、カミュは大人にも人気なんだ!

 

『へぇ、カミュを生き返らせたくて百回もやり直したのか。……すごいな』

『百回なんて全然へーきだよ!今度はおれがカミュを助けてやりたかったからー……でも』

 

おれは店の中を見渡すと、がっくりと肩を落とした。

いつの間にか、店にはおれだけになっていた。あーぁ、これじゃあるぷすの人にカミュの良いところを聞いてもらう作戦も失敗だ。

 

『……カミュと一緒に、魔王倒したかったなぁ』

『そうだな』

 

おじさんも残念そうだった。その声に、大人にもどうにも出来ない事があるんだなぁって思って、なんか凄く寂しい気持ちになった。

 

『おれ、帰ります』

『もういいのか?』

『うん、お金はいくらですか?』

『いいよ、久々にカリギュラの……カミュの話が出来て楽しかったし。ご馳走してやるよ』

『いいの?』

『ああ』

 

おじさんはそう言っておれの頭を撫でると、本当に嬉しそうに笑った。

 

『おじさん、ありがとう。さよなら』

 

おれは来た時みたいに、入口の戸をカランと鳴らしてお店を出た。

作戦は失敗したけど、楽しかった。

 

——諦めなければ、運は必ず巡ってくるさ!

 

カミュは助けられなかったけど、カミュと話せた気がした。

 

『……ごめんな、カミュ』

 

結局、おれはその後101回目のカリギュラをプレイする事はなかった。あの日、一人旅に出た勇気は、悲しいけれど「カミュ」を諦める勇気になってしまったのだ。

 

ただ、おれは知らない。

あの喫茶店の奥の店に、もう一人だけ「大人」が居た事を。おれは、最後まで気付いていなかった。

 

◇◆◇

 

『さっきの聞いてたかよ?あの子、百回もやり直したんだってよ』

『……子供ってのは凄いなぁ。コッチの予想を遥かに超える事をしてくる』

『なぁなぁ、カミュは生き返ったりしねぇの?俺も待ってるんだけどなぁ』

『はは、この世は不条理だからな。そう簡単に現実は覆せないさ。でも——』

 

十年後もプレイヤー達からカリギュラが求められているなら、まぁ何かが変わるかもしれないな?

 

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初代【カリギュラ】が発売されたその十年後。全てが一新された初代【カリギュラ】が発売された。全てが現代の技術で一新されたリメイク版は、特に、そのストーリーにおいて大きな変更点など殆どなかった。

 

しかし。

そのリメイク版には、鬼畜の所業と呼ばれる隠し要素が、一つだけ加わっていた。それは、百の苦難を踏破した者にのみ開ける

 

 

【真・エンディング】の存在であった。

 

 

 

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【真・エンディング】について、おまいらどう思う?

 

1945:名無しさん

百の苦難を踏破した者にのみ、ねぇ

 

1946:ナナシさん

百の苦難……つまり、百のクリアデータかぁ

 

1947:菜々氏さん

あるぷす!テメェマジで良い加減にしろ!???

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