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 約 318,000,000件

 

 

【エロ動画】とスマホで検索した時に出てくる記事の件数だ。

 スマホがあれば、何でもできる。エッチな動画だって見放題だ。

 

「エッチな動画が、見たいなぁ」

 

 そう、何度口にした事だろう。

 俺は現代を生きる十六歳の男子高校生にも関わらず、スマホもパソコンも一度として持った事が無かった。

 

これを言うと、皆に驚かれる。そして、必ず理由を聞かれる。

そんなの、単純な事だ。お金がないから。そう、俺の家は父子家庭で超の付くほどド貧乏なのであった。

 

貧乏だから、スマホもパソコンもない。ましてやテレビもない。十六歳だからAVもレンタル出来ない。そもそも、家にはデッキが無い。借りる金もない。

 

「……エロの世界は、遠いなぁ」

 

 そう。触れられないエロのせいで、俺のエロへの渇望は日に日に増して行った。

 そんな時だった。俺が、あのスマホを拾ったのは。

 

 

        〇

 

 

 その日、俺はスマホを拾った。

 学校からの帰り道だった。試しに俺の誕生日を入力すると、あっさりとホーム画面が現れた。そして、その中で俺はとてつもなく不思議なモノ達を発見してしまった。

 

「なんだ?コレ?」

 

 スマホの中には、男同士のエッチな動画が、たくさん入っていたのである。

 俺は誘われるように、思わず画面に触れた。動き出す映像。響き渡る矯正。凄まじいまでに色気のある男の人。絡み合う裸体。

 

「す、スゴい……!でも、なんで男同士?」

 

 そう呟いた時だ。

 俺の頭上に大きな影がかかった。顔を上げると、そこには目を見張る程、格好良い顔をした男の子の姿があった。

 

「んあ?」

 

 どこかぼんやりした俺の顔と違って、全体的に彫りの深い顔。キリっとした釣り目なのに、二重のせいでパッチリとしている。まるでテレビに出てくる人みたいだ。

 それに、その子は何と言っても体がデカかった。そのせいで、物凄く大人っぽく見える。

 

 ただ、着ている制服を見てみると、去年まで俺が着ていた中学のモノだったので、どうやら彼は年下のようだ。ちょっと信じられない。

 

「……ぁ、あ。そ、ソレ」

「ん?」

「…ぇせ」

 

『あぁぁっんっ!』

 

「っ!」

 

 顔を真っ赤にしながら、ボソリと何かを言う男の子を前に、俺は手の中にあるスマホの放った嬌声に再び視線を落とした。

 

『んっ、っあん、っあぁん!!』

「ふぉぉっ!」

 

 へぇ、男同士ってこんな風にヤるのか!そう、俺が再びスマホに見入っていると、俺の手からそのスマホは勢いよく奪われていた。

 

「返せや!このクソガキ!」

「あぁぁっ!!」

 

 その男の子は真っ赤な顔で俺を怒鳴りつけ、気持ち良く喘ぎ声を漏らしていたスマホを一瞬で黙らせてしまった。

 

「こんな外で……マジで、お前あり得ねぇ!」

「返せよ!それは俺のスマホだ!」

「はぁ!?何言ってんだ!コレは俺のスマホだ!」

「俺のだ!だって、さっきそこで拾ったんだから!」

「拾ってんじゃねぇか!?」

 

 真っ暗になった画面。喘ぐ事を止めたスマホ。

 そして、目の前の男の子は、その整った顔を大いに歪め、俺から奪ったスマホをこれでもかというほど握りしめている。

 

「っクソ。何やってんだ俺」

「ちょっ、待って!」

「ついて来んな」

 

 そう無情にも此方に背を向ける男の子に、俺は焦った。もし、ここで彼を逃してしまったら、もうあの動画の続きを見る事は二度とないかもしれない。

 そう思った瞬間、俺はその男の子の体に勢いよく抱き着いていた。

 

「お願い!さっきのヤツ!最後まで見せて!」

「はぁっ!?」

「俺はっ、その二人のエッチが最後まで見たいんだ!」

「っはぁぁぁっ!?」

 

 男の子の素っ頓狂な声が、下校途中の通学路に勢いよく響る。ふと、周囲を見渡してみれば、そこには下校途中の学生達がわんさか居た。

 何故か、皆して俺達の事を見ている。しかし、此処がどこだって俺は構わない。なにせ、俺は十六歳の思春期男子だ。

 

「さっきの男同士のエッチな動画の続き!見せて!」

 

 下校途中だろうが、何時だろうが、俺はエッチなモノが見たくて堪らないのだ。