13.変わらぬ関係

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合宿最終日

In別府

 

 2泊3日のゼミ合宿最終日。

 俺は非常に悩んでいた。

 

「うーん、お土産どうしよう」

「おいおい、彼女のお土産まだ買ってなかったのかよ!バカだなぁお前!」

 

 俺は相変わらず声のうるさい木田と、土産物通りをダラダラと歩いていた。

 この男のせいで、俺はゼミ合宿中、パッとしない見た目のキャラの割にしれっと彼女が居たという偽スクープをゼミのメンバー中に流され、一躍時の人となってしまった。

 

『マジで!?あっきー彼女居たの!?』

 

 こんなに他人から注目されたのはいつぶりだろうか。

 多分、記憶はないが、きっとこの世に生まれ出でた際に産声を上げた時以来ではなかろうか。

 というわけで、そんな生まれて初めてに近い経験に、俺は合宿開始早々、辟易の嵐だった。

 

 ただ、途中から、否定するのも面倒になりテキトーに俺の恋人というキャラ設定を作り上げ、話をでっち上げ始めた。

 その辺りくらいだろうか、少し楽しくなってきたのは。

 

 俺はしれっと嘘をつくのが上手い方だと、この時初めて知った。

 普段からあまり感情の起伏が表に出ないタイプなので、こういう時はその性質がかなり重宝する。

 

 ちなみに恋人のキャラは明彦と幹夫を足して2で割ったような人間性にしてみた。

 明彦への怒りもあったので、このくらい利用させてもらっても、俺としてはまだ釣りを貰いたい気分だ。

 

 ただ、幹夫には普通に申し訳なかった。

 俺の偽恋人のキャラに50%も成分利用をさせたなんて。

 

『はぁ!?あっきーの恋人とかキモ過ぎ!マジでありえないんだけど!』

 

 あぁ、この事実は墓まで持っていかねば、今度は軽く腹に風穴を開けられるかもしれない。

 

 そのお詫びとして、幹夫には美味しいものを買っていってやろうと、今は必死で土産物選びの真っ最中だ。

 明彦には未だにくすぶる怒りもある事から、土産物売り場の隅に置いてあった竹とんぼを購入する事にした。

 

「なぁ、なんで竹とんぼなんか買ってんだよ」

「喧嘩している相手に向かって飛ばすためだよ」

「……この合宿で思い知ったよ。あっきーって大分と頭のイカレたやつだったんだな」

 

 どんな喧嘩の仕方だよ、と隣で本気で引いた顔をしている木田に、俺は隣に置いてあった「たけとんぼを上手く飛ばすポイント」という紙を丁寧に畳んでポケットに仕舞った。

 

「あっきーってさ、予想以上に面白いヤツだよな」

 

 そして、次に俺が幹夫にはコレにしようか、と土産物です感満載のクッキーを手に取った時。

 木田がしみじみと言うのが聞こえた。

 

 俺が、面白い?

 その瞬間、ふっと幹夫の言葉が頭を過るのを感じる。

 

『あっきーってさ、思ったより面白い人間だったんだね』

 

「意味がわからん」

 

 俺が面白いなんて二人共どうしたというのだろう。俺はなんの特徴も、面白味も、注目されるような物も何もないヤツの筈なのに。

 

「いや、ほんと。上手く言葉には出来ないんだけどさ、あっきーは面白いやつだよ。この合宿で、俺はつくづく思ったね」

「……そんな風に言われたの、生まれて2回目だ」

「生まれて2回目っていう表現なに!?ほら、やっぱ感覚が独特過ぎるんだよ!ならさ、生まれて1回目にそれを言ったヤツは、あっきーの事、あっきー以上によく分かってるヤツだって事だよ!」

「俺以上に俺を……」

「てかさ多分、それ言ったの彼女だろ?彼女もさ、多分あっきーのそういうところに惹かれたんだと思うけどな」

 

 俺は腑に落ちない気分のまま竹とんぼとクッキーをレジに持っていくと、なんだか少しだけ帰るのが楽しみになってきた。

 帰ったらこの燻ぶった怒りのモヤモヤを、竹とんぼに込めて明彦へと飛ばしてやれるし、幹夫には「ごめん」と謝ってクッキーを渡しカフェラテを作ってやろう。

 

 そうだ、そうしよう。

 

 こうして、俺の2泊3日の合宿はそこそこ楽しく、そしてレポート発表は変わらずC評価で幕を閉じたのであった。