「声がっ聞こえたんですっ」
最早朦朧とする意識の中、俺は納屋の外から音がするのを聞きました。戸を叩く音です。
ダンダンダンダン。
余にも激しい音で、俺は重かった瞼をゆっくり開けました。
そして、次の瞬間聞こえてきたのは懐かしい声でした。
親友二人の声と、妹の声。
最初は幻聴かと思いました。熱のせいで俺はとうとうおかしくなったのだと。
けれど、その声が余にもハッキリ聞こえてくるものですから、俺は必死に目を開け、耳を傾けました。
他にも声はたくさん聞こえた。
オブを連れ戻しにきた召使い達や、妹やフロムを止めに来た両親達の声も混じっているようで。
きっと、妹のニアがフロムに俺の事を言いつけたんでしょう。
そして、フロムがオブを呼んだ。
誰もが心のどこかで俺が長くない事を知っていたから。
『死ぬなよ!おい!離せ!俺が医者になるから!なぁ!生きてるよな!おい!』
『なんでこんなとこに入れられなきゃならないんだ!どうして!俺は強いから伝染らない!だから離せ!』
『お兄ちゃん!私のせいでこんなとこに入れられて……!ごめんなさい!ごめんなさい!』
皆の声を遠く聞きながら、けれど俺はもう声を上げる事も、最早動く事も出来ませんでした。
その後、俺がいつ死んだのか。俺自身にもわかりません。
ただ、最後に聞こえた3人の声はハッキリと覚えています。
それだけが、俺にとっては唯一の
「…………救いでしたっ。ううっ、ううっ」
「うっ、うっ、ううっ」
ここまで話し終えるのに、俺と画家はどれ程の酒を飲み干しただろうか。
全然わからない。
しかし、この達成感はなんだろう。かなり気分が良い。
というか、この画家。俺を褒める以上に、自分も聞き上手ではないか。
めちゃくちゃ泣くし、めちゃくちゃ反応いいし。お陰で、本当に気分良く作り話ができた。設定も細く盛れた。
「っっうう。さぞかし、キミの親友や妹は歯痒かっただろうっ……キミも一人でっ」
「俺もっ、アイツらに会いたいっ。皆無事だったのか……病気になってないことだけが……俺の気がかりでっ!っうう」
画家に流されて、俺まで居もしない連中に会いたくて涙に震えた。
これはきっと明日あたり、今日の事を思い出してかなり寒い気持ちになるに違いない。
けれど、今は全然かまわない!
何故なら、めっちゃ楽しいから!
俺は腹から湧き上がってくる、そのフワフワとした根拠のない楽しさに、酒の力の凄さを骨身にしみて実感した。
遠くでマスターも、目頭を抑えている。少し辺りを見渡すと、他の客まで目頭を抑えているではないか。
—–気分良すぎて、幸せが過ぎるわ!