「……キミの親友や妹も、きっとこの世界でキミを探しているよ」
「いえ、会えなくてもいいんです。皆、過去も今も幸せでいてくれたら」
「キミって奴は………!」
画家はまた涙をボロボロと流し始めると、二人してまた号泣した。
俺。わかったわ。泣き上戸って、一番酒飲みの中で気持ちいいやつだわ。まじで。
そうして、どのくらい泣いていただろうか。俺が泣き腫らした目をパチリと開いた時。
「っ?」
いつの間に画家の後ろに一人の青年が立っているのに気づいた。細身の美しい青年。きっとまだ10代後半程だろう。
その気品溢れる立ち姿に、俺は本能的に悟った。
「アズ、そろそろ帰ろう」
「国王様……」
「なに、その懐かしい呼び方」
やっぱりな!これ前世の国王様だよ!大正解!
俺の予想では、国王様は画家と同じ40代程のダンディな男だろうと思っていたが全然違った。
まさか、国王様がこんなにも若いとは。
この世界の不思議な所は、いくら前世で同時に死のうと、そこに数十年の差があろうと、こちらの世界ではそれが関係がない事だ。一体どんな時間の仕組みがあるのだろうか。
いや、そもそも時間の概念なんて前世を前にしてしまえば些細なモノなのかもしれない。
「すみません。長く彼が付き合わせてしまったようで」
国王様は自分の着ていた上着を、さりげなく画家……いや、アズの肩にかけてやると、俺に向かって静かに微笑んだ。
これは、確かに画家なら描かずにはいれないだろう。それくらい、彼は美しかった。
「いえ、俺も………久々に良い酒が飲めましたので」
「マスター、この方の分の会計も一緒に頼むよ」
国王様!!やっぱり器が違うわ!若いのに!
いつの間にか俺の分の会計も国王様にされ、デロデロに酔っ払った画家の肩を支えながら国王様は店を後にしようとした
その時だった。
国王様に寄りかかり、半分は夢の中だと思われたアズが突然顔を上げ、大声で俺に向かって叫んだ。
「キミ、前世の頃の名前は!」
その問いに、俺はそういえば作り話をする上で、主人公である俺の名前を語っていなかったなと思い出す。
というか、画家には今の俺の名前すら教えていない。
いや、しかし酒場での縁などそんなものだ。
俺は聞かれた通りに元々設定していた、作り話前世の俺の名前を言うべく口を開いた。
「「イン!」」
俺はその瞬間、己の耳を疑った。
今、この酒場のどこかで声が上がった。俺の作り話の主人公の名を、俺と同時に叫んだ奴いるのだ。
この酒場の中に。
—–あれ?俺、どこかで自分の名前の設定明かしてたっけ?