第26話(最終話):11時間差ラブレター

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あの日、薫さんと会った日を境に、俺は毎日1本早い電車で学校に向かうようになった。

理由は簡単。

 

「おはようございます、薫さん」

「………おはようございます」

 

塾を掃除する薫さんを、手伝うためだ。

手伝うと言っても、電車が来るまでの約15分くらいの間だが……それでも俺はこの朝の時間がとても好きだ。最初は、殆ど話す事が出来なかったけど、最近になってようやく会話が弾むようになってきた。

 

それが、あの手紙の文章が徐々に長くなっていった時と雰囲気が似ていて、本当にこの時間が愛おしくなる。しかし、そんな俺としても薫さんと話していて一つだけ、気になる事がある。

 

「薫さん、これは燃えるごみの方に入れてもいいんですか?」

「……い、いえ、それは、外側の包装を取ってリサイクルボックスです」

 

そう、会話が弾むようになってきたにも関わらず、何故か薫さんの話し方は手紙同様敬語だと言う事だ。

しかも、使い慣れていないのが凄く良くわかる、一生懸命な拙い敬語。

最初、俺に向かって敬語で話していたのを見た瀬高先輩が、薫さんに向かって大爆笑をしていたのを見ると、敬語を使うのは俺に対してだけらしい。

 

俺の方が年下だし敬語なんか使う必要ないですよと言ったが、薫さんは頑として敬語をやめようとしなかった。

 

「俺は、これでいいんです」

 

そう、金髪黒メッシュな彼に敬語で言われてしまって、俺はなんだかおかしくなって、わかりましたと了承するしかなかった。けど、俺には手紙の時の薫さんのイメージがもともとあるせいか、そんなに違和感は感じなかった。

ただ、一生懸命に敬語を使ってくる薫さんを、凄く可愛いと思ってしまう。

 

あぁ、好きだな。

そう、自然と湧いてきた感情に俺は、あぁこれか、とあの日の感情に答えを見出した気がした。

 

幸せと言うには熱すぎる。嬉しいと言うには物足りない。

好きなんだ。俺は、この人の事が。ものすごく。

 

だから、今日、俺は伝えようと思う。

この気持ちを。

あぁ、もう此処を出るまで後、残り1分くらい。とりあえず、残りの1分で俺はまたあの席にこっそりと手紙を置いて行く事にしよう。

 

前から3番目のあの席へ。

そう思って俺が、あの席へ向かうと、そこには既に1枚の小さな折りたたまれた紙が置いてあった。

 

何だ、考える事は同じか。

 

俺は自然と込み上げてくる笑みを隠さずにその手紙を手に取ると、代わりに俺の手紙を置いて自分の荷物を肩にかけた。

 

「薫さん、じゃあ、俺、いってきます」

 

また、明日会いに来ます。

 

そう言った俺は、多分顔が真っ赤だったんだ。だって、俺を見送る薫さんの顔も赤かったから。

俺は、わざとらしく時計を見ると急いでいるフリをして走って塾から出て行った。

 

手には薫さんからの手紙。

きっと、あと10分もしたら俺の手紙も薫さんに見つけられてしまうんだろう。

そう考えると、今以上に顔が熱くなってしまうがとりあえず今は学校へ行こう。

 

とりあえず、全てはまた明日だ。

 

 

 

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いつも、掃除を手伝ってくれてありがとうございます。

俺は、あなたの事が

大好きです。

 

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