11時間差ラブレター
+α薫
———-
——-
—–
あの日、洋と会った日を境に、俺はまた、早起きが苦ではなくなった。
理由は簡単なもんで。
「おはようございます、薫さん」
「………おはようございます」
洋が塾の掃除を手伝うようになったからだ。
手伝うと言っても、アイツが乗る電車が来るまでの、だいたい15分くらいの間だが……それでも俺はこの朝の時間が、死ぬほど好きだ。
最初は、緊張しっぱなしで殆ど話せなかった俺だが、最近になってようやく会話らしい会話ができるようになってきた。
それが、あの手紙をやってた時ダブって見えて、俺は本当にこの時間を愛おしく感じる。
しかし、そんな俺だが洋と話していて一つだけ厄介な事がある。
「薫さん、これは燃えるごみの方に入れてもいいんですか?」
「……い、いえ、それは、外側の包装を取ってリサイクルボックスです」
そう、俺は未だに敬語がスゲェ下手くそ、と言う事だ。
最初、不覚にも、あの腐れ野郎の前で洋に敬語を使ったら、アイツ俺の事指差しながらスゲェ大爆笑してきやがった。あの時は本気であの野郎をぶっ殺してやろうと思ったぜ、マジで。
つーか、わかってんだよ。言われなくても。
敬語なんて俺のガラじゃねぇって。
けど、仕方ねぇだろ。俺は洋の中にある「手紙の人」のままで居たいんだよ。
俺は見た目はこんなだし、そんなもん今さら変えらんねぇ。
けど、喋り方くらいは、アイツの思う想像のままで居たいんだ。
洋は敬語なんかいらないっつったけどよ、ここだけは俺も譲れねぇ。
「俺は、これでいいんです」
そう、俺はこれでいいんだ。
お前の前に居る俺はこうありたいんだ。
ただ、そう俺が言った時の洋の笑顔がスゲェ可愛い過ぎてヤバかった。
あぁ、好きなんだ。
そう、自然と湧いてきた感情に俺は、あぁこれかよ。とあの日のわけわかんねぇ感情に答えを見つけ出した気がした。
お前の前だと死ぬほど緊張する。
体中が熱くてたまらなくなる。
好きなんだよ。俺はコイツの事が。スゲェ好きなんだ。
だから、今日、俺は伝えようと腹を決めた。
この俺の気持ちを。
あぁ、畜生。洋が出て行くまで後、残り3分ちょいしかねぇ。
とりあえず、俺は洋がゴミを仕分けてる間に、またあの席へ手紙置く事にするか。
前から3番目のあの席へ。
気付かれないかもしれない。けど、気付くまで毎日置いてやる。ぜってー、口じゃ言えねぇからな。
そう思って、手紙を置いて掃除の続きをやっていると、出発の時間になったのか洋が荷物をまとめ始めた。
「薫さん、じゃあ、俺、いってきます」
また、明日会いに来ます
そう言った洋の顔は……スゲェ真っ赤だった。それを見て、俺は思った。
手紙、見つけやがったんだって。そう思うと、俺も無条件で顔が赤くなるのを止められなかった。
そして、俺は洋が走って教室から出て行った後、何故か吸い寄せられるように、あの席へと向かっていた。
すると、そこにはやはりというかなんというか……
アイツからの手紙があった。
手紙を広げた瞬間、俺はさっき以上に顔が熱を持つのを感じると、その手紙から目が話せなかった
あぁ、クソ。
ほんと、洋の事になると俺はマジでガラじゃねぇ事ばっか考えやがる。
とりあえず、明日なんか待てない。
全ては今日だ。絶対に、会いに行って
………そして、抱きしめてやる。
ガラじゃねぇけどな。
————-
いつも、掃除をしてくれてありがとうございます。
俺は薫さんの事が
とても好きです。
————
おわり