15:ふじょし

 

「あ。あの怖い男の事で忘れてたけど、アバブの好きそうな話を先週聞いたんだった」

「なんすか、なんすか!アウト先輩の持ってくる話っていつも二次創作の甲斐があって楽しいから好きっす!」

「にじそうさく、が何かはわからないけど。多分アバブは好きだと思う」

「二次創作ってのはですね、原作に対する理解とキャラに対する共感を必要とする特殊スキルっすよ!」

「……そんな凄いスキルを持ってなきゃ、ふじょしにはなれないのか」

 

 俺の隣で生き生きと話すアバブだが、彼女の前世は14歳で終了している。

 死因は自殺。

 理由は聞いてもよくわからなかった。

 なんでも、“ふじょし”である事がクラス中にバレて、気持ち悪がられイジメに合うようになったらしい。

 一体ふじょしとはどんな職業なのか。

 14歳にして、特殊能力を持っていたり、迫害されたり、自殺したり。短い人生の中に詰まり過ぎだと思う。

 

「でも、アウト先輩ならすぐにでもその能力使いこなせそうっすけどね」

「ふーん、じゃあ俺もふじょしになれるってことか?」

「あははっ。まぁ、どちらかと言うと、アウト先輩は腐女子じゃなくて受けって感じですかねー。才能めっちゃありますよ。受けの」

「うけって何だ?良いヤツか?」

「ふふ。腐女子の糧の一つっすよ。腐女子にとっての宝物と言っても過言じゃない」

「うーん、難しいな。アバブ、もうちょっと“ウケ”について詳しく教えてくれ」

「そういう真面目な天然入ってるところがアウト先輩のウリっすよね!あはは!」

 

 アバブは前世を自分の意思で捨てた割に、よく笑う。毎日楽しそうだと他人に思わせるだけの笑顔を、他者に振りまくのだ。

 前世って何だ?

 自殺する程辛い記憶を持ってても、今とは関係ないと笑えるものなのか。

 

 『イジメの記憶は辛いけれど、前世の記憶を持ったまま生まれ変われて本当に良かったっす』

 そう、以前アバブは俺に言った。

 

 『腐女子フィルターかけなきゃどの世界も、汚な過ぎてまともに生きてけねっすわ』

 言葉の意味はわからないが、そう言ったアバブの顔は、笑顔の癖に少しだけ怒ってるように見えた。

 

 『アウト先輩に話を聞いてもらえて良かったっす』

 

 前世のない俺には本当に、ちっとも分からない感覚。

 笑って、怒る。

 その怒りはどこから来るものなのか。

 その笑顔はどこから来るものなのか。

 

「ささっ、アウト先輩!ひとまず、私に生きる栄養補給を!」

「えーっと、画家と国王の……多分、ぼーいみーつぼーいの話」

「hoooooo!」

 

 

 明日は、あの酒場に行こう。絶対に。