幕間:世界の全て

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足音が聞こえる。

 

軽快で、元気な足音。

それが聞こえてくると、僕の心はフワッと軽くなる。けれど、そのフワッとした気分は次の瞬間、だいたい小さく萎む

 

 

事はなかった。

聞こえてきた足音は2つあり、遠くから微かだが声も聞こえてくる。

 

『なんでー!なんでフロムがオブと仲良くなってるの!?最初にオレが仲良くなったのに!』

『お前が風邪なんか引いてるからだろー!』

『ねぇ、フロム!オブ、本当にオレの事忘れてなかった!?』

『さぁな!』

 

 

 あぁ、なんて会話をしているんだ。僕がお前を忘れる訳ないじゃないか。

僕は足音のする方に向かって立ち上がると、すぐそこまで来ていた彼に向かって走り出した。

 

知ってるか?イン。幸せって本当に存在するんだ。

触れる事もできるし、話す事もできるし、心の中に自分じゃない存在を鮮明に映し出す事だって出来るんだ。

 

『イン!』

『あーっ!オブ!俺の事覚えててくれたー!良かったー!』

 

 そんなおかしな事を言いながら駆け寄ってくるインに、僕は勢いよく抱き着いた。

 ほら、こうして抱きしめる事だって出来る。僕の、幸福はいつだってここにある。

 

——-イン。僕の幸福。僕の全て。僕の人生の意味。

 

『オブ!?どうしたの!?やめた方が良いよ!オレ、体を洗えてないから臭いよ!汚いよ!』

『汚くない、臭くない』

 

オブの言葉に僕は必死に首を振った。僕の幸福は決して汚くなんてない。決して汚れない。

 

『イン、イン、イン』

『っオブ?どうしたの?風邪引いたの?凄く、熱いよ?』

 

 あぁ、イン。やっと、会えた。

 熱いのは風邪だからじゃない。キミが腕の中に居てくれて、幸せだからだよ。

 

 僕はこれからキミに教えてあげなくちゃいけない。

 幸せが本当は熱いもので、僕にとってキミがどれほど熱いモノかを。

 

 

——–僕の世界の全てが、キミである事を。