□■□■□■
話?俺の話が聞きたいのか?おかしなヤツだ。
俺は何も面白い話なんて出来ないぞ?
あぁ、そこまで言うなら聞いてくれ。酒?俺はあまり得意ではないから、そんな俺でも美味しく飲めるモノを貰おうか。
大陸の東の果てに小さな国があった。
国土は狭く、人口もさほど多くないその国が、俺の大事な故郷だ。狭い国土ではあるが、肥沃な土地で農業が盛んが故に、国は富んでいた。
俺はこの国が好きだった。家族が居て、毎日、食うには困らない。賢い王様のお陰で、大国に挟まれるこの国が、他国から侵攻される事もない。
だから、俺は少しでもこの幸せが盤石になるようにと、国の兵士に志願した。闘う相手など居ない、安全な国の兵士の仕事は張り合いがあるとは言い難かったが、それもまた俺の大事な日常だった。
俺の仕事場は湖に囲まれる美しいお城。王様の居る場所。この城で、俺は毎日訓練に明け暮れ、誰も攻め入る事のない城を守り続けていた。城の高台から見る城下町と、キラキラと光る湖面をぼんやり眺めるのが、俺は大好きだったんだ。
ただ、その日だけは違った。
城の見回りの仕事の途中、美しい湖面に目を奪われていると、一人の茶色の帽子をかぶった男が城へと続く橋を渡って歩いてくるのが見えた。
その手に持つのは、俺が見た事もないような道具。何に使うのか分からないソレらが、俺にはとても魅力的に見えた。
俺の隣を通り過ぎていくその不思議な男に、俺の上司が駆け寄った。どうやら、王様が呼んだ客らしい。俺は興味が沸いた。なんといっても男の、その出で立ちが俺の周りには見ない人間の様相だったからだ。
何をする人間なのか、その時は分からなかった。けれど、その謎はすぐに解けた。何故かって?上司が俺を呼んだのさ。この方を謁見の間に案内するように、と。
お辞儀をするその男に、俺も慌てて頭を下げると。男を案内すべく城の中を歩いた。
——-美しいお城ですね。
そう言って中庭を通り抜ける男の視線の先には、美しく整備された庭園があった。確かにこの城は美しい。この庭園も庭師が毎日、丹精込めて手入れをしている。
けれど、俺がこの城で一番美しいと思うのはここではなかった。だから、言ってやったのさ。
俺はもっと美しい場所を知っています、と。
そしたら、その男、目を丸くして俺に聞いてきた。どこですか?是非そこに行きたい、連れて行ってくれ、と。そうやって俺に詰め寄って来た男の髪の毛を良く見ると、何か不自然に色が付いて固まっている場所があった。
どうやらそれは色具の固まった跡のようで、その時、俺は初めて彼が何をする人物で、何の為にここに来たのかを知った。
彼は画家だったんだ。
■□■□■□